197話(神サイド) カナメvsライザー②
生存戦争上空にて、カナメとライザーが悠然と佇んでいた。
およそ数秒の間、カナメは冷静に状況を整理する。
まず、ライザーの『能力』は『空間支配』。
空間を操る能力だというのは分かるが、範囲、威力、仕方については未だ分かっていない。
極めつけは『空間支配』による式神の封印。
これにより、カナメはどう足掻こうと式神を展開することは不可能となる。
そしてライザーの式神、『虚構蒼穹』。
これについては一切情報がないが、これをライザーは取り込んだ。
つまり──ライザーは常時この式神の権能を自在に操れるようになるということ。
……無意識に、カナメの口角が上がる。
(いいね、おもしろい)
エラメスとの戦闘で掴んだ、『爆破』の真髄。
──やっと、試せる。
「『極爆破』」
カナメは容赦なくライザーに何発も打ち込む。
だがライザーが横に手を払うと、空間が割れ、爆破もろとも、世界を壊した。
「おう……」
「続けよう」
ライザーは顔を笑みに染め、拳に『能力』を付与する。
「殴り合おうか」
「いいね。シンプルだ」
カナメも拳に『爆破』を練り込み、加えて『衝撃』も乗せる。
超能力者時代には既に、『爆破』と『衝撃』を使い分けていた。
カナメが付与し終わった瞬間、ライザーは殴りかかってきた。
カナメは敢えてライザーの拳を受ける。
カナメの異能の中には、自分以外の存在を寄せ付けない絶対防御が含まれている。
案の定、ライザーの拳はカナメに直撃する寸前で止まった。
「お前のこれ……割れるな」
ライザーがそう呟いた瞬間──ライザーの拳がどんどんとバリアにめり込んでくる。
「ッ。やべっ」
カナメは顔を引き攣らせてバックステップの要領で後退する。
ライザーは手を閉じたり開いたりを繰り返し──ニヤリと笑う。
「その原理は知らんが……すまんな、解析は済んだ。二回目はつまらん」
「マジックの種が分かったってさ。騙されたふりをしなきゃいけないんだよ」
今度はカナメからライザーに徒手空拳で立ち向かう。
ライザーが腕でガードすると、凄まじい衝撃、爆発が起こった。
ライザーの右腕が宙を舞う。
だがライザーは止まらず左手をカナメの方へ──ガードを、抜けた。
「ッ──」
「ハハッ!」
ライザーの拳が、カナメの腹に突き刺さった。
一切『能力』を乗せていないただの拳。
そのためカナメは気にせずもう一発拳をぶち込むと同時に、ライザーの頭部にかかとを振りかざした。
もちろん足にも『爆破』と『衝撃』は備わっている。
まともに喰らえばタダでは済まない。
「ハッ。すまんな、まさかオレが先にルールを破ることになるとは」
ライザーの頭部の空間が、無くなっていた。
カナメの足は、その無くなった空間を掠り、空振りに終わる。
だが拳は命中し、ライザーは左手も失っていた。
「別にいいよ。逆にやっと本気でやり合えそうで嬉しいね。お前せっかく式神取り込んだのにまだ使ってないし」
「クク。楽しい勝負は長引かせたいものだからな。カナメ、お前は強いが、オレとの相性はとても悪い。どのように逃げるか考えておくことだな」
ライザーの両腕が、再生する。
神人も純神と同様の再生能力を有しているためだ。
同様と言っても、その速度は下位四柱を遥かに凌駕する速度。
そして──カナメとライザーはほぼ同時に動き出した。
「『極爆破』」
「『空間放射』」
カナメのどんな存在も爆破させる『能力』と、空間という概念そのものを放射したダークマターが激突し、互いに消滅する。
膨大なエネルギー同士の衝突で、『爆破』とは関係なく大爆発が起きた。
煙により、互いの姿が見えなくなる。
次の瞬間──。
カナメの左腕と右足が、潰れた。
「!?」
大量の血が噴き出し、ここら一帯に血の雨が降り注いだ。
カナメは目を見開き、だが冷静にその場を離脱。
取り敢えず、腕と足を再生することに専念する。
(これは……おそらく、じゃなくて十中八九式神だな。さっきまでのライザーの『空間支配』は、空間を割るだけで、割られたところには何の被害もなかった。でも今のは完全に空間を壊していた……。やっべぇな)
カナメの考え通り、ライザーの『空間支配』は空間を割る『能力』。
カナメの『爆破』を防いだ時や、カナメのかかと落としを回避した際の様に、指定した空間に穴を開けるだけであり、開けられた空間に滞在している人や者には何の効果もない。
この『能力』は空間を支配するため、必ず他人の式神を壊すことが可能で、絶対に己の式神を展開することが可能なのだ。
「?惜しいな。煙で見えにくかったとはいえ腕と足か。クク、存命したな」
やがて煙を切り裂き、ライザーが目の前に姿を現した。
そこには、ライザーの想像通り、負傷した腕と足の再生に専念するカナメの姿が……。
ただ一つだけ違ったのは、カナメの右手の人差し指が、こちらを指していることだけで。
「消し飛べ── 『万華鏡』」
「──ッ!?」
刹那、ライザーを赤色の光線が呑み込んだ。
『時空放射』や『空間放射』と同じ様に、その『能力』の概念を込めたエネルギー砲。
ただその二つと違うのは──全てを破壊する、その威力。
「ハハハッ!さすがだな七録カナメ!」
「げぇっ、まだ生きてんのかよ」
ライザーは一瞬粉々になったが、再生能力をフルスロットル。
肉体を全回復し、手を横に薙ぐ。
二回目のためカナメは直感で分かる──これは、式神。
「チッ……」
再生したばかりの右腕が深く抉られたが、なんとか避けきることに成功する。
これだけでも十分強過ぎるくらいだが、式神の以上ライザーはまだ隠している手があるだろう。
カナメの遠距離爆破は空間を割られて避けられる以上、ゼロ距離で打ち込むか殴り合うしか攻撃手段がない。
どちらにせよ、カナメはライザーに近づかなければ触れることさえ叶わない。
「気分はどうだ。立場が逆転しただろう?」
「いいね、新鮮だ。超能力者時代を思い出すよ。まあめちゃ最近のことだけど」
カナメは辺り一面に爆破を展開。
そしてそれらを一つに凝縮し──撃つッ!
「『花火』」
目を焼くほどの光が広がり、巨大な花火がライザーに降り注ぐ。
しかしライザーには届かない。
ライザーは容易にインパクトの寸前に空間を割ることに成功していた。
だが、ライザーは警戒を解かない。
「戦法が全く同じだな」
「しょうがねぇだろ。正攻法が効かないんだから」
カナメはライザーの背後から殴りかかったが、ライザーはカナメの拳の部分の空間を割り回避する。
続けてライザーは式神を発動し、カナメのその拳をひしゃげた。
しかしカナメは止まらず、鈍い顔をしながらも空いた拳でライザーの腹部をぶん殴る!
「がはッ……!」
インパクトと同時に大爆発と、とてつもない衝撃。
ライザーは白目を剥き、吐血した。
カナメは好機とばかりに、続けて掌底打ちで顔面を殴り飛ばす。
またもや爆破、衝撃のダブルパンチ。
だが奇しくもそれが、ライザーの意識を取り戻させた。
「『空間圧縮』」
カナメの左半身が、まるで紙をくしゃくしゃに丸めるかの様に、潰れた。