191話(神サイド) 生存戦争①①
──警戒すべきは、花哉。
理由は、ここにいる理由と先程触られた時の不快感。
ここは式神の中だ。
なのに花哉は式神を展開して『バグ』を作らずにここにきた。
自分の『式神』のなかだから大丈夫と油断していた俺も悪いが、前例にないのだから仕方がない。
「……」
影が揺らめき、炎が飛び散る『獄廻界』。
この『世界』でなら俺は──神だ。
「オラァ!」
「ふ、ふんっ!」
ニカイキと花哉の拳が迫る。
花哉はともかく、ニカイキはまさかの肉弾戦。
俺は多少動揺しながらも、冷静に受け止め──
「ッ!?」
ニカイキの拳を受け止めたはずの手が潰れ、花哉の拳を受け止めた手が、ぐちゃぐちゃに弄られた様な感覚に襲われた。
俺は後方に飛ばされ、影より生み出した獄犬に受け止めてもらう。
「……なるほど」
俺は『変化』で手を治し、冷静に今の現象を分析する。
ニカイキの拳の種は単純明快、ただ拳に『重力』を乗せただけ。
カナメの『衝撃』と同じ原理で、めちゃくちゃ高等技術。
俺の手から生み出される『変化』とは大違、い……。
……あれ?
俺はふと思った。
いつから、『変化』は手に付与されると思い込んでたんだ?
「……」
まあともかく、問題は──花哉の『能力』。
「オイオイ、もうくたばっちまったか向井宏人ォ!?」
「う、うるさいですニカイキ。しゅ、集中出来ません」
二人が徐々に迫りつつある中、俺は思考を整理する。
取り敢えず俺の『変化』の件は頭の隅に置くとして、花哉を凝視する。
花哉に触られる度に襲われる不快感。
簡単にまとめると、触れた相手に幻想を抱かせる系統。
だが花哉は上位七人に選ばれた実力者。
おそらく、その先がある。
「……花哉。多分だけど、お前の『能力』に何回も触れたらなんかあるだろ」
「お、お見事です……!で、でも、何回かは、お、教えられません。だって、あ、あなたは殺すので」
「そうか。まあ、そりゃそうだよな」
俺と花哉の会話が途切れた瞬間──
「『重力』!」
刹那、俺を有り得ない程のGが襲う。
俺はなすすべもなく地面に叩きつけられ、ニカイキと花哉が俺の元へ今にも殺さんと駆け出す。
そして獄犬が必死に二人に喰らいついているのを──俺はスローモーションで見ていた。
重力。
かつて俺も操っていたことのある、強力な『能力』。
それを浴びながら、俺は──。
「……やっぱ、掴める」
*
「ハハ。久しいな、ザックゲイン」
「こちらこそだよアスファス。会いたかったよ」
「そうか。もっとも私は、貴様には会いたくなかったがな」
アスファスの言葉に、ザックゲインは小さく笑う。
生前、ザックゲインはアスファスに「仲間にならないか?」と勧誘されていたのだ。
まあザックゲインは誰かの下につくのを嫌う性格なので、首を縦に振ることはなかったのだが。
「ところでエラメスは?僕はきみよりエラメスと戦いたいんだけど。強いし」
「あいつは死んだぞ。全く、耄碌したものだな」
「……正直驚いたよ。今の時代にエラメスを殺せる奴がいるなんて」
「そうだな。まったく、世も末もいいところだ」
アスファスはそう言って笑ってみせる。
作り笑いもいいところだが、実際にアスファスはもう割り切っている。
「──フッ。無駄話しが過ぎた。さっそく殺し合おうか」
「もちろんいいよ。まあぶっちゃけ、きみが僕に勝つ未来なんて想像すら出来ないけど」
「言ってろ──『カオスリヴィエール』」
突如、ザックゲインに巨大な水の渦が高速で迫る。
だがザックゲインはいともたやすく斬り刻むと、アスファスに肉薄する。
「神剣『白龍』──顕現」
アスファスは白龍を顕現させ、ザックゲインに突っ込ませる。
しかしザックゲインはそれすらもやすやすと切り裂き、白龍は悲鳴を挙げる暇もなく真っ二つに。
「ハハッ」
だがアスファスはそれを見越していたのか、真っ二つになった白龍のど真ん中を『カオスリヴィエール』が駆け抜けた。
「おぉぅ!?」
これにはさすがのザックゲインも驚いたが──ザックゲインから眩い閃光が迸る。
するとアスファスの『カオスリヴィエール』は呆気なく蒸発し、空気がビリビリと電気を帯びる。
「なるほど、それがアルベストの『カミノミワザ』か。……なかなか凄まじいな」
「うん。もう反則レベルに強いよね。ただでさえ強い僕に、アルベストの『カミノミワザ』。これで僕は、人間でありながら神人に匹敵する力を保有していることになる」
「少々思い上がりが過ぎるのではないか?ただの人間であるキサマが、我々神の領域に匹敵すると?不快で仕方がないのだが」
「あはは。僕からしたらきみがそんな事言ってるのはギャグだよ」
「ふん。貴様──死んだぞ?」
途端──ザックゲインの体が無数に切り刻まれた。
「ッ」
ザックゲインは大きく後退し、自身の体を眺める。
「いたた……。これが『凪』かな」
「ああ。正確に言うのなら、『凪』を無数に散らしたものだ」
「……なんで?普通に打ったらいいじゃん」
「私は絶対という言葉が好きでな。避けられる可能性があるそのままの『凪』より、力を分散してでも散らして絶対に当てた方が気持ちがいい」
「それはそれは。相変わらず雑魚の思考してるよね。じゃあ今度は──僕の番」
「──ッ」
ザックゲインの言葉が終わる頃には、アスファスは貫かれていた。
「『サンドライトニング』」
「……ハッ」
貫かれたのは──胸。
心臓。
神であるアスファスには何の支障もないが、今『器』にしているのはアリウスクラウン。
「体を借りているのでな。そう簡単に壊させはしない」
アスファスは両手を合わせ──展開。
式神展開『血花乱舞』
血色の花が咲き乱れ、真っ赤に染まった不気味な『世界』。
「式神展開──『無味無臭』」
だがそんな『世界』を一瞬でザックゲインは破壊した。
ザックゲインはアスファスの胸から剣を抜き、バックステップで距離を取った。
しかしそれは無駄な警戒だったらしく、アスファスは膝から崩れ落ちた。
──決着。
「……はあ」
予想していた通り、あっさりとついた決着。
まあほぼ確実に命中する『凪』には驚いたが、それだけ。
ザックゲインは踵を返して、その場を後に──。
「へ?」
思わず喉から出た間抜けな声。
それは無理もない。
なにせ──目の前にはアスファスが。
「ありのままの『凪』はな、こういう絶対に当たる時にしか使わん」
アスファスがニヤッと笑った、次の瞬間。
ザックゲインは、なすすべもなく切断された。