189話(神サイド) 生存戦争⑨
──生存戦争が始まり、2週間が経った。
俺は創也、カルマ、黒夜、瑠璃、シェリカと協力して自給自足の生活をし、なんとか生活していた。
それもこれも、植物に詳しいシェリカのお陰で食べられるものと食べられないものを区分出来たのが大きい。
危惧していた、現地の食べ物や感染者で死ぬという結末を回避出来たのはシンプルにありがたい。
シェリカは人当たりがよく、申し訳ないがとても故人の中の上から七番目以内に優秀な人間とは思えないくらいだ。
そして就寝は俺の『変化』で地下に空洞を作り、それぞれ部屋を用意して明日を迎える。
これをずっと続ければ一ヶ月なんて余裕だ。
だが──そうしていられない理由が三つある。
一つ目に、この戦争に巻き込まれた『メンバーズ』の非戦闘員だ。
この自給自足をしていた1週間ちょっとの間に毎日俺と創也と黒夜で交代制で仲間を探していたが、いい結果は得られなかった。
それもこれも、常に一人でしか探し回れないのが痛い。
カルマは信用し切れていないし、シェリカもそうだが戦力外。
言うまでもなく、瑠璃は非戦闘員だ。
忘れてはならないのが、カルマはシェリカと違い上位七人の戦闘員。
俺と創也とは互角かそれ以下、黒夜とはトントンか黒夜以上の実力だ。
そのため常に二人はカルマの監視をしていたため、結果的に探せるのは一人だった。
二つ目は、生存戦争のルールにある。
4.ゲーム終了後、生存者が15人以上の場合、全体人数が15人になる様神人が調整する。
これにより、いつまでもじっとしているわけにもいかない。
そして三つ目は、藍津のミッションだ。
その内容は──ニカイキ・ユナイテッドの殺害。
「──さて、やるか」
俺はそう自分に言い聞かせ──今日ニカイキを殺すと決める。
それはさておき。
「なんで藍津はニカイキを殺すのは今日以降にしたんだ……?」
*
ニカイキは、この2週間ただただ座禅を組み、目を瞑っていた。
もちろん生きるために食べ物を食べ、用を足しなどといった人としての最低限の活動はした。
そこまでしてニカイキが取り組んだこと。
それは──。
「……やっとだ」
生存戦争の初日と二日目にマルフィットと話した以降、ニカイキは初めて口を開いた。
この戦場を掴むのに、2週間かかった。
いや、2週間しかかからなかったと言うべきか。
──ニカイキは、この戦場を掴んだ。
「証明してやる。向井宏人。ザックゲイン。俺が──『重力』が、この世で最も強い『能力』だということをよォ……!」
刹那──戦場が、沈む。
*
「──『能力』は世界を変える力を持っている。だけどそれは、みんな同じことなんですよねぇ。だからみんな世界を変えられない。皮肉なもんですねぇ」
「……それで、僕は何をすればいいの?──藍津」
宏人が動く前日の深夜。
ザックゲインの問いかけに、藍津はニヒッといやらしい笑みを浮かべる。
藍津は誰にも属さない。
誰にでも味方する故、結果的に誰とでも敵対することになる、世界のジョーカー。
トランプの七並べで言うと、ジョーカーは序盤には心強い味方であるが、終盤に行くに連れ皆が押し付け合う邪魔な存在。
「いひっ。我ながら、上位七人のあなた方にはピッタリな例えです」
「七並べがぁ?僕はそうは思わない。七並べではジョーカーを最後に持っていた人は敗北という設定だけど、それはプレイヤーがみな等しくルールの元に平等っていう前提があるからだ。僕ら上位七人は強いからね。きみが宏人たちに味方しようと負けるとは思えない」
「ええ。ええ。でも一つだけ訂正させて頂きますと、あなた方上位七人の強さはみなで協力することにあるかと。オールラウンダーのザックゲイン。パワーの羅閣。補助のカルマ。知恵のマルフィット。回復のシェリカ。防御のニカイキ。バランスの花哉……。正直、一人だけで無双出来るのはあなただけかと愚考します」
藍津はため息を挟み、続ける。
「そしてそして?パワーの羅格は無謀にも七録カナメに。知恵のマルフィットは明らかに格下のチャン・ナンに。補助のカルマと回復のシェリカに至っては寝返っている始末。加えて、ニカイキの謀反。ここからどうするつもりですかねぇ?」
「関係ないさ。僕は僕の目的がある。これさえ出来れば最悪神ノーズたちのミッションをクリア出来なくてもどうにかなるしね」
ザックゲインは上空を見上げ微笑む。
さながら自分たちを観察する神人に向けているかの様に。
だがザックゲインが見据えているのはその更に先──神ノーズ。
ザックゲインはフッと頭を下げ、目を細めて藍津を視界に抑える。
「それで?」
ザックゲインは藍津に話の続きを促す。
ザックゲインが藍津に依頼した──神ノーズの『能力』についての情報の対価、を。
藍津はニヒルに笑うと、静かに言った。
「情報の価値に比べればとても簡単なことですよ。それはですねぇ──」
*
──宏人が創也たちの元を離れた数分後。
ここら一帯が──重力によって押しつぶされた。
「ッ!?」
創也は気付いた時には遅く、地面に叩きつけられた。
「これは……ニカイキ……ッ!!」
創也の顔が歪む。
──油断していた。
それもこれも、ニカイキが前例にない程大人しかったから。
奴は、この期間この地の重力を観察し、掌握し──『能力』の範囲を広げていたッ!
「本格的にまずいね……!」
背後を見やるとやはり瑠璃もシェリカも這いつくばっている。
カルマも倒れていることから、これはおそらくニカイキの独断。
今自由に動けるのはニカイキだけ──。
「……いや──ザックゲイン、も」
*
「……あ?」
気がつくと、俺は倒れていた。
起きあがろうにも、体が動かない。
いや、動けない。
これは──重力。
「──ッ!」
──やられた……!
何をどうやったかは知らないが、ニカイキはここら一帯全てに『重力』を発動した!
俺は悪魔の力を全開放し、やっと立ち上がる。
立っているだけでも辛い。
この威力をこの範囲。
とてもじゃないがイカレている。
俺は重い体を引き摺りながら、森を散策する。
「ッ」
そんな中、茂みよりガサガサと音が。
だが、俺が警戒するよりも早く。
「……勘弁してくれよ──ザックゲイン」
「やあ宏人。久しぶり」
前方に姿を見せたのは、ザックゲイン。
ザックゲインは不自由なく動けていることから、おそらく今は『重力』に『適応』している。
そう、今厄介なのは『重力』。
なら俺がすべきことは、式神を展開すること。
だが展開した瞬間ザックゲインの『無味無臭』で消されるだろうが、その前に自分で『世界』を崩壊してどこかに逃げる!
失敗しても『能力』残量がある限りそれを繰り返す!
「式神展──!」
「──甘いなぁ」
初めて会った時と同じように。
ザックゲインはありえない速度で俺を切り刻んだ。
仕返しとでも言わんばかりに、俺の右手の人差し指と左腕が飛んだ。
「──!」
やはり、反応出来なかった。
2回目、生存戦争が始まった時に見切れたのは、あれは本来のザックゲインの速さだったから。
本気の、『サンドライトニング』を応用したザックゲインの対処は、俺には不可能だった。
「……かはっ」
俺は膝から崩れ落ちると、剣を肩にかけたザックゲインが俺を見下ろす。
「きみは強いよ。多分生前の僕よりも。ほんとは嫌なんだよー、アルベストの力使いまくるのは」
ザックゲインはそう言い──俺の右腕を切り飛ばした。
「──ッ!?」
血が噴出するが──俺はすぐさま右腕と左腕を『変化』で再生──した途端、また斬り飛ばされた。
「な、な……!」
「あはは。辛いねぇ。苦しいねぇ。でも安心してほしいのは、僕はきみの『変化』が必要だからまだ殺さないよ。でもさっきも言った通りきみ強いから取り敢えず腕と足切っとくね。あ、生やしたらまた切るよー?」
『変化』で痛覚を無くしているため痛みはない。
だが四肢がなくなる感触はそれでも気持ち悪く、とても気を保てない。
だから。
「アスファス!」
「──ハッ。ダッサいな、キサマ」
それは以前俺に負けた際にダクネスに言われた時の仕返しか。
その言葉と共に、突如アスファスが姿を現し、ザックゲインから俺を奪い取った。
「……へえ。やるね。まさかまさか──アリウスクラウンを『器』にして生存戦争に参加しているとはね。察するに、一回協力する代わりに、達成次第で解放してもらえるのかな?」
「ご名答。その通りだ。だから、私は今から貴様を殺さなければならない──ザックゲイン」
アスファスはそう言い放ち、不敵に微笑む。
現在アスファスを『重力』が襲っていないのは、アスファスが全方位に『ファントムファンタジー』を放出しているから。
俺と戦った際に、アスファスは『変化』によって『ダークナイトメア』以外のソウマトウの『能力』を失っていたが、先日俺はそれらを返した。
ただし、『人には適用されない』という『変化』をかけた上で。
だから今、アスファスは『ファントムファンタジー』を撒いているにも関わらず、俺は生きていられている。
だがそれは──ザックゲインも同じなわけで。
「向井宏人。貴様は尻尾を巻いて逃げておけ。私はこいつを倒し次第即刻アリウスクラウンを解放し天界に戻る。……くれぐれも七録カナメに余計なことは言うなよ?」
「ああ、もちろんだ。サンキューな。アスファス」
俺は小さくアスファスに感謝をすると、駆け出し──ニカイキの元へ、急ぐ。