186話(神サイド) 生存戦争⑥
「きみは僕らの仲間になったって認識でいい?」
「うーん。まだなんとも言えないかなー。ほら、あたしらも結構強いからさ。あたしは生き残りたいだけだからね。最後に勝ちそうな方を選ばせてもらうつもり」
創也とカルマは駄弁りながら当てもなく森を彷徨っていた。
カルマは最初こそ襲ってきたものの、もう彼女から敵意は感じられない。
創也は一応警戒はしているが、それは杞憂なことだと分かりきっている。
というか、普通に昨日は共に寝たのである。
今更感が募る。
「よしっ。まずは仲間との合流だ」
「えー。二人がかりで襲ってこない?」
カルマは露骨に顔を歪めながら言う。
だが創也は気にせず答える。
カルマに敵意はないと確信しても、やはりまだ味方になったとは言い難い。
「襲わないさ。今はまだ、ね」
「こっわ」
それから小一時間程歩き続けた。
ずっと景色は変わらないなか、新緑色の森がざわざわと鳴き続ける。
そこで、創也は気付いた。
「……あれっ、この感じ……」
「えどうしたん?敵?」
「ううん。味方味方」
創也は手を挙げ、ニカーッと笑った。
「やっ、宏人」
「おぉ。創也!」
*
瑠璃は何故か『生存戦争』のプレイヤーに選ばれた。
選抜された理由はおそらく珍しく、使い勝手がいい能力だからだと瑠璃は考えているが……。
考えても選ばれたのには変わらないので、取り敢えずあてどなく森を彷徨っていたところ、なんと上位七人の内の一人を見つけた。
先日の襲撃の際で、唯一戦わなかった人のため情報がない。
だから瑠璃は少しでも情報をと思い監視していたのだが……。
(……さっきからずっと花冠しか作ってない……)
小一時間程監視していたが、マジで花冠作ってるだけ。
まさか花冠を爆発とかする能力なんじゃ……とも考えたが、そんなコスパが悪い能力者が上位七人に選ばれるとも思えない。
そして何より……。
「わぁ〜ここのお花さんたちは色んな種類がありますね!」
「……」
シェリカはそう言いながら、楽しそうにルンルンと花を編んでいく。
『読心』で読み取った情報もこんな感じ。
瑠璃は頭が痛くなってき、どうとでもなれの精神でシェリカに突っ込んだ。
「……あなた、上位七人よね?」
「ひゃっ」
瑠璃が背後から話しかけると、シェリカは肩をびくっとして振り向いた。
可愛いかよ。
「えーっと」
瑠璃はそこで言葉に詰まる。
勢いで色々情報を聞き出そうと思っていたが、ここまで女の子されると若干気が引けた。
「うふふ」
「な、なにかしら……?」
「いいやー。あなたはお花の冠作りたくて話しかけてきたんだなーって思ったら、おかしくなっちゃって。一緒に作ります?」
瑠璃は「は?」と、小さく声が漏れたが……それと同時にまあもういいかという感情が迫り上がってき──!
「作りましょうか!」
花冠作ることになった。
*
──黒夜はランニングしながら森を周回していた。
無論宏人を探すためである。
上位七人も見つけ次第戦うつもりだが、一対一でどこまで敵うかは未知数。
怪我をしていたとはいえ、以前の襲撃の際に誰かのサポートをするなどしておけば、大体の強さを測れたのにと後悔している。
だから宏人以外に見つけ出すべきは、ニーラグラか創也かアリウスクラウン。
正直セバスは苦手のため省いている。
なんというか、普段温厚なのに、戦いの際には敵を冷徹に殺す姿に恐怖している。
「……見つからない」
生存戦争が始まって早二日。
未だ敵も味方も誰一人として会えていない。
もちろん行く先々でプレイヤーに遭遇し淡々と殺しているが、だからこそ疑問が募る。
──プレイヤーがあまりにも弱すぎる。
ここは強者の祭典、生存戦争だ。
なのに宏人やセバスといったメンバーの主戦力にすら敵わない黒夜が今まで苦戦することなくから抜けられているのはどうにもおかしい。
勝てるにせよ、多少なり苦戦はするかと思っていたのだが。
「シェリカ──!」
「ッ」
走り続けながら考えている黒夜の耳に見知った声が。
この声は──瑠璃!
(まさか彼女も生存戦争に……?そうか、何も選抜理由は戦闘力だけじょない。瑠璃の『読心』は無制限に他人の心に侵入する能力──つまり、心理戦では絶対に負けない最強の能力ッ)
そしてその瑠璃の口から放たれた、シェリカという名前。
生存戦争が始まるまでに飛鳥たち情報班が調べた上位七人の前世に出てきた聖女と一致している。
つまり、今瑠璃は運悪く上位七人と対峙していることになる。
そう結論づけるや否や黒夜は瞬時に声がした方向に到着。
その先にあったのは──!
「──すごいわね!私でもこんな綺麗に作れるんだ」
「いえいえ〜。それは瑠璃さんが頑張ったからですよ〜」
「……はい?」
瑠璃は、シェリカと仲良く花冠を作っていた。
*
生存戦争二日目ということもあり、ナンは食料を集めていた。
ここは自然生い茂る森。
加えてどの木にも味がなっている。
あまりに不自然過ぎるぐらいに自然豊かなため、何かしらの能力が影響しているとしか思えない。
『能力』が関係しているかもしれない以上、うかつにこのきのみを口に運ぶのは危険だとも思ったが……それを疑うとこの一ヶ月飲まず食わずで過ごさなければならなくなるため、早々に覚悟を決めることにした。
といっても、食べてみればやはりきのみには変わりない。
即効性がないだけかもとも思うが、やはりそれを言ってしまうとこの一ヶ月──という話に戻ってしまう。
ナンは心配性に相まって鋭い洞察力も携えているため、とても理知的だ。
だから──見つけてしまった。
(あの洞窟はなんダ……?)
それは、寝る前に隈なく確認していたから発見できた、丘陵地に出来た穴。
だがその洞窟は不自然な形をしており、まるで無理やりこじ開けられたかのような──。
ナンは緊張で心臓を痛めながらも、様子を見ることにした。
見張り続けて、およそ5時間。
夜はすっかり明け、当初の目的である寝ることを忘れていた頃、その洞窟から人が。
(──マルフィット……!)
その人物は生前神の子とも言われたその時代最強の人物──上位七人の一人、マルフィット。
物を自在に作り出す、無から有を生み出す神の御業。
そんな人物に、ナンは──
「おい、とまレ」
気付けば、声をかけていた。
自分でもよく分からないが、おそらく新たに獲得した『能力』のせいだろう。
「……あなた、確か『メンバーズ』の。無能力者と伺っていましたが……ああなるほど。そういえば神ノーズが『能力』を再配布していましたか。それでプレイヤーになれるとは。良かったですね」
マルフィットは感情の込もっていない称賛をしながら、淡々と拍手をする。
ナンはそんなマルフィットに、正面から歩み寄る。
マルフィットの言う通り、ナンは新たに『能力』を獲得していた。
智也が『悪魔』を獲得したように、ナンも。
「──『爆破』」
神人になる七録カナメと同じ、最強の『能力』を。