184話(神サイド) 生存戦争④
神の間。
超級能力者の殺し合いである『生存戦争』の監督を任されている四人の神人と神の2柱が集められている場にて。
「ほーら宏人死ななかったじゃん。誰だよ死ぬぞとか言った奴」
……カナメはライザーをチラッチラ見ながら煽る。
そんなカナメを、ライザーはバカバカしいと嘲笑う……のだが、やはり納得がいかなかったのか早口で訂正する。
「ハッ。事実向井宏人はザックゲインに負けただろう。結果死ななかったのはザックゲインの気まぐれに過ぎない」
「あーはいはい、了解了解」
ライザーはカナメに適当にあしらわれると、ムッとした表情で言った。
「そんな舐めている態度を取れるのも今のうちだぞ七録カナメ。そろそろオマエのそのツラが恐怖に染まるだろうからな」
「アンタもそろそろ俺の部下になるんだ。給仕の勉強でもしといた方が身のためだよ」
ライザーとの会話がひと段落すると、カナメは無言で生存戦争の展開を見る。
まだ初日だと言うのに随分と人が殺されている。
幸い今のところ仲間に被害はないが、それも時間の問題だ。
もう、ザックゲインは七人殺している。
「さて……みんなはどうするのかな」
*
「うーん、きみとは正直戦いたくないんだよなぁ……セバス・ブレスレット。強いって言うか、厄介って言うか」
ザックゲインはため息を吐きながら、セバスに言った。
ザックゲインは強者かどうか見分けるのに長けている。
だがしかし、セバスに関しては分からない。
纏うおどろおどろしいオーラに対して、自信が纏う気配は希薄だ。
「あなたの目的はなんですか?目的次第では見逃してあげますが」
「目的?変なこと聞くね。僕に次ぐぐらい人を殺しているきみがそんなことを気にするの?」
「そうですね、あなたに関しては興味があります。なにせ世界から認められた人なんですからね。どんな崇高な目的があるのだろうかと」
「……きみさぁ、絶対友達少ないでしょ?」
「まあ、否定はしませんが」
セバスはザックゲインを観察しながら思考する。
ザックゲインの『能力』である『適応』のストックは一つまで。
これはカナメと宏人が戦い、カナメに至っては本人の口からも言われている。
信用出来るとは言い切れないが、これに関しては今のところ危惧すべきではない。
問題はどのように倒すか、だ。
宏人の様に『適応』、『無味無臭』をする前に畳み掛けるのもいいが、先程宏人がしたばかりなので論外。
「──ねぇ」
セバスが思考に耽っていると、ザックゲインが口を開いた。
「ここはお互い見逃さない?僕的にはザコ狩りでさっさと他人の『能力』奪いたいんだよね。『能力』奪えるの人数制限あるからさ、ね?」
「確かにそうですね……」
セバスは少し考えた後、それもそうかと思い直す。
時間はかなりあるのだ、急ぐ必要はない。
だがしかし──。
「でも、やっぱあなたをほっとくのは危ないかなって」
「……バカだねぇ」
セバスのその言葉に、ザックゲインはため息を吐きながら言った。
そして瞬時に、両者とも武器を構える。
セバスは死神の『鎌』を。
ザックゲインは『勇者剣』を。
「それ、勇者剣ですよね。勇者剣は創也くんが持っているはずなんですが、偽物ですか?」
「いやいや、こっちもマジモンのモノホンさ。というかその創也って奴が持ってるのが偽物でしょ」
「……?仮にあなたが本物の勇者剣を持っていたとして、なぜあなたがそれを持っているんですか?」
「いや、だって僕が勇者だし」
「……」
サラリと衝撃な発言をするザックゲインに、セバスは目を細める。
これもまた仮に本当だとしたら、ザックゲインは八柱の神レベルの実力者だ。
でも、それはセバスも同様であり。
「ごめん、質問ばっかりで。始めましょうか」
「いやいや、僕としては今は戦いたくなかったんだけどねぇ。やってやりますか。不意打ちしなかったことは褒めてあげる」
そして──セバスとザックゲインがぶつかる。
*
「……欲しい情報だト?」
チャンは目の前の男に最大限の注意を払う。
宏人たちが言っていた上位七人とは違うというのは分かる。
藍津はそんなチャンを見越してか、軽く補足する。
「今さっきも言った通り、俺は何も怪しくないしがない情報屋さ。そう警戒すんな」
「じゃあお前のことについて教えてもらおうカ。『能力』はなんダ?」
「『必中』だぁ。すごいぜ?なんでも命中しちまう」
藍津は試しに適当な木へ銃の弾丸に『必中』を付与し、数発放つ。
するとその木に実っていたものがぼとぼとと落ちる。
全てのきのみの中心には弾痕が。
これは木の衝撃で落ちたわけではなく、一瞬で数個のきのみの中心を弾丸で撃ち抜いたということになる。
チャンはゴクリと息を呑む。
「……お前は故人の選抜組カ?」
「ハハハ。確かに俺は強いからな、そう見えるんだろう。安心しろ。俺はちゃんと現代人だよ」
藍津は戯けながら両手を挙げるが、チャンが信用した気配がなく力無く笑う。
「まあなんだ、なんか欲しい情報があったら俺を頼ってくれ。報酬限りじゃ力になるぜ」
藍津は踵を返し、片手をひらひらと振りながら去っていった。
*
「……あなたはこんなところで何をしているのですか」
「あ?」
ニカイキが声のした方を向くと、そこにはマルフィットが呆れながらこちらを見ていた。
だがニカイキはため息を吐くだけで特に何も言わず、再度座禅する。
「座禅……。何か邪念でもあるのですか?」
「邪念ねぇ……」
『きみなんかが向井宏人に勝てるわけないからじゃん』
まず頭に浮かび続けるのは、昨日ザックゲインに言われた一言。
腹が立つはずなのに、言い返せなかった。
確かに、ニカイキは通算2回宏人に負けている。
一度目は言わずもがな、生前の頃だ。
2回目は上位七人として襲撃した際。
あの時は明確に決着がついたわけではないが、ニカイキが絶対の自信を持つ『重力』から逃げられたのである。
ニカイキにとって、これは敗北だ。
「まあ、ねぇとは言わねェよ。……帰れ。俺はもう少しここにいる」
「では私もここにいるとしましょう」
マルフィットは言うやいなやニカイキの隣りに腰掛けた。
ニカイキは怒鳴ろうとしたが……舌打ちを吐き、座禅に集中した。
*
「ここはどこでしょう……?」
シェリカはおどおどしていた。
シェリカ・ロズワルドは上位七人の一人なのだが、『能力』は『全快』。
対象の傷を治すだけでなく、病まで治す『能力』。
当時は聖女として祀られていたシェリカだが、気が付けばこの『世界』にいた。
シェリカは上位七人の中で唯一死んだ時の記憶がなく、かつ戦闘系統の『能力』ではないためあんま現状を把握していない。
ザックゲインからは、
『んー、とりま僕らが怪我したら治して!』
としか言われていない。
シェリカは取り敢えず同じ場所を行ったり来たりし──ぽすんと座った。
「まあ、なんとかなりますよねぇ……」
シェリカはそのまま地の草原に手を伸ばし、草冠を作る。
花がないのは惜しいが、これをしていると落ち着くのだ。
「〜〜」
鼻息を歌いながらシェリカは編んでいき……それを、瑠璃が見ていた。
「……。どうしましょ」
瑠璃は平和な光景を目に映しながら、視界の端で『バースホーシャ』らしき爆炎が空を覆ったのを無視した。