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超能力という名の呪い  作者: ノーム
十一章 上位七人編
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178話(神サイド) 覚悟


「はーいではでは七録カナメによる『スペシャル特訓』、始まり始まりー!」


「「「……」」」


 カナメのその言葉に、俺たちは引き攣った笑みを浮かべる。

 カナメに呼び出されたのは俺、セバス、アリウスクラウン。

 セバスは小さく手を挙げカナメに聞く。


「どうして僕たちなんですか?この特訓の参加者」


「そりゃお前らが最高戦力だからだろ。俺の見立てじゃ一番セバスが強くて、宏人とアリウスクラウンは五分五分だな。まあ相性抜きにしたら宏人の方が強そうだけど」


 確かにアリウスクラウンの『炎舞』で俺は『バースホーシャ』や『極廻界』が使えない。

 まだ完璧とは言えない『変化』で、アリウスクラウンにうまく立ち回れるか……あまり想像出来ない。

 

「で、何するの?まさか……俺と戦えとか言わないでしょうね?」


「そのまさかだ。──全員死ぬ気でかかってこい」


 俺たちはごくりと唾を飲み込んだ後──全員でカナメに飛びかかった。


 *


「うーん。連携やば」


 カナメは後頭部を掻きながらため息を吐いた。

 ……その足元に転がる、俺たちを見つめて。


「……ムリゲー」


 ボソッと呟かれたアリウスクラウンの一言に、俺とセバスは激しく同意した。

 カナメは『式神』を使わないという制限があるにも関わらず簡単に俺たちをいなし、地に叩きつけた。

 『爆破』も最小限しか使っていない、大体が『衝撃』だった。


「まずお前らに足りないのは連携だろ。あれっ、宏人とセバスはアスファスん時一緒に戦ったんじゃなかったっけか」


「……僕が式神に対処してる間、宏人くんがアスファスと戦ったって感じかな」


「マジか……。まあ俺も連携したことないからよくわかんね。連携捨てるか」


 やけにあっさりしたカナメに俺たちは脱力する……が、背筋に寒気が走る。

 

「……次は一体一とか言わないよね?……カナメくん」


「よく分かったな!じゃあ、セバスから来い」


 *


 まず先にセバスがカナメと戦い、敗北。

 セバスは序盤から『式神』を展開していたため中の様子は見えなかったが、カナメに褒められていた。

 やはりセバスは相当強いのだろう。

 その次にはアリウスクラウン。

 アリウスクラウンも序盤から『式神展開』。

 しかしそれでもカナメに通じなかったのか、アリウスクラウンは死んだ目で帰ってきた。

 相当疲れたんだろう。

 ……まあ、他人の分析はともかく。


 ──ついに、俺の番だ。


「宏人。次はお前だ。──楽しもうぜ?」


「……ああ。なんなら勝ってやる」


 俺はそこまで言い切って、深く深呼吸した。

 そして──駆け出す。


「『変化』──解除」


 俺は『変化』しアルドノイズと融合前の姿の『俺』を解除し、本来の俺となる。

 相変わらずアルドノイズと連絡は取れないが、問題なく『バースホーシャ』も使える。

 カナメの眼前に『エンブレム』を乱射。


「ッ」


 視界が塞がれ、カナメは『エンブレム』を素手で払う。

 一応『カミノミワザ』なんだけどな……!

 もくもくと漂う黒い煙の中、俺は真上から奇襲!

 カナメに手を伸ばし、なんとかバリアを──


「甘いよ」


「ッ!?」


 刹那、『エンブレム』の炎と煙を吹き飛ばす大風が発生。

 カナメの『爆破』の『衝撃』の応用。

 俺は更に真上に吹き飛ばされ──目の前には、カナメが。


「ガッ!?」


 カナメの『衝撃』を纏った強烈な蹴りが俺の背中を砕く。

 重力に則り急降下する中俺は──


「式神展開!」


「やっとか」


 『世界』が構築され、俺とカナメを包む。

 やがて出来た『世界』は『極廻界』。

 俺は肩で息をしながらカナメを見つめる。

 背中を『変化』で治し──唱える。


「『ヴォルケーノ・インパクト』ッ!」


「おぉ。すごいな」


 カナメの真上に巨大な隕石が形成され、落下。

 回避不可の理不尽がカナメを襲うが、カナメは動こうとしない。

 やがて激突するが……やはりカナメにダメージはない。


「……まじかよ」


「次はこっちの番だ。歯ぁ食いしばった方がいいぜ?」


 カナメは一瞬で俺の眼前へ。

 驚くのも束の間、一瞬で俺の意識は彼方へと飛ばされた。


 *


「……宏人様、今日も七録カナメの訓練ですか……」


 黒夜は重いため息を吐き、そう呟いた。

 窓から見えるのは宏人たちがカナメにぼこぼこにされている悲惨な現場。

 いくら宏人の『変化』は強力な回復手段だとしても、やはり黒夜は宏人には傷付いてほしくないわけで。


「それに比べて、あなたは呑気ですね──凪」


「……」


 黒夜の視線を向ける先には、読書をしている凪が。

 凪はここ最近毎日黒夜の寝室に入り浸り、ただただ本を読んでいる。

 その本というのも特に今後に関係ありそうなのではなく、単なる暇つぶしにしか見えない。

 まあ、そうは思いつつも、黒夜は凪が自分を心配に思ってくれているからここにいる事も知っている。

 だからこそ、申し訳ないという気持ちもあるわけで。


「……凪。凪も宏人様たちと訓練に行ってきてもいいのですよ?」


「遠慮しておく。そもそも俺はもう前線を離れた。あとはニーラグラに任せるつもりだしな。確かにニーラグラのためにフィジカルは鍛えといてもいいが、まあ、あいつが肉弾戦をするとも思えないからな」


 凪はそう言いつつも視線を本から離さない。

 宏人たちの様子を見る気配もない。

 

『凪。きみはもう休みな』


 狂弥……いや、創也に言われた言葉が脳で繰り返される。

 凪は何十回も狂弥と凌駕と共に『世界』をやり直し……失敗してきた。

 『者』級二人と神人一人。

 どうにかなりそうで、しかしどうにもならない不条理な『世界』相手に、この三人では立ち向かうことは出来なかった。

 

「『世界』のやり直し。本当は仲間は大勢いた」


「……凪?」


 凪はいつの間にか口を開いていた。

 ずっと戦い続けてきた。

 ずっと、ずっと、ずっと。

 最後のやり直しが可能なこの『世界』になって、初めて狂弥からもらった休暇。

 まだ全くゴールに辿り着いていないのに、なぜか肩の荷が降りた感じが凪を襲う。


「今となっては俺と凌駕と狂弥だが、本来なら10人はいたんだ。だが狂弥に記憶を維持してもらいながらループ出来るのは二人まで。俺は常にその内の一人だった」


 凪の目は本に向けられたまま。

 

「ループする度、俺と狂弥と選ばれたもう一人は前回のループで仲間になった奴の元へ向う。それで言うんだ、『初めまして』ってな」 


「それは……辛いですね」


 黒夜はいざ自分と重ね合わせてみると、胸が締め付けられる様な感覚に襲われた。

 それを、毎回、毎回毎回。

 黒夜の言葉を聞いているのかいないのか、凪はただ淡々と話を続ける。


「以前の『世界』でいくら仲が良くても、いくら死地で共に戦い生き残った喜びを分かち合っても、それは別の『世界』での話でな。だが何回も繰り返す度、不思議と『以前』の仲間が『今回』の仲間になる事はなくなっていった。その理由がバカみたいでな、ただ俺がその展開に疲れただけだ。どんなに感動する物語でも、何度も何度も繰り返し読むたび涙どころか感情さえ全く動かされなくなるのと同じで……要するに、くだらないとしか思えなくなっていったんだ」

 

 凪はそこまで言うと、本を閉じた。

 その本は凪が常に肌身離さず持ち歩いている分厚い本。

 黒夜は、この本をずっと前から凪が読んでいるのを知っている。


「……本、新調しないんですか?」


 凪の話の区切りを見計らい、特に興味のない質問をした。

 何か言おうとして、でも何も言えなかった結果生まれただけの質問。

 だが凪は特に気にせず小さく笑い、返答した。


「おもしろい本は、何度読んでも飽きないからな」


 *


「──『変化』ぁ!」


 スペシャル特訓五日目。

 毎日力をセーブしたカナメを殺す気で戦うというシンプルかつ狂気な訓練を繰り返した俺の『変化』が、カナメを襲う。

 だがカナメは首の動きだけでかわすと、一気に俺と距離を詰める。


「──ッ!黒龍!」


「グオオオオオオオオオオオオ!」


「うぉっ、ビビったぁ」


 虚空より突如黒龍が出現し、カナメは思わず体を反る。


「もらった──!」


 その隙に俺は『変化』を発動。

 遂にカナメの無敵バリアを破壊──する直前。


「──今だ、炎舞魔人」


「くそおおおおおおおおおお!」


 炎で出来た人型の化け物が、俺の背中に飛びついたき、体を熱で炙られ悶絶する。


 勝てるビジョンが見当たらないッ!

 

 生存戦争まで残すところあと三日。

 宏人、セバス、アリウスクラウンが死ぬ気で鍛錬していくなか、ある者は覚悟を決めた。


 ……残虐の限りを尽くす、覚悟が。

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