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超能力という名の呪い  作者: ノーム
十一章 上位七人編
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173話(神サイド) 本質


「──てなわけで、めっちゃ心強い味方になったセバスくんでーす!」


「「「イェーイ!!!!!!」」」


 カナメがセバスの肩に手を回してそう声を上げると、大半の奴らが嬉しそうに乾杯した。

 特に飛鳥なんかまたクソツェー奴が仲間になったヨッシャ!と楽しそうだ。

 未成年だと言うのに酒を一気飲みしてクンネルに頭を叩かれている、相変わらずである。


「……で、なんだこの状況は」


 凪が呆れながら典型的なこのパーティー見つめる。

 凪は先程までずっと別室にいたのだ。

 午前ここで会議を開き皆が真剣にこの先の戦いについて考えていたとは思えない騒ぎである。

 凪は頭が痛そうに抑える。


「ほんとにな。まあ嬉しい事だろ。セバスが仲間になったのは」


 宏人としても嬉しい限りだ。

 まあアスファスと共に戦っていた時から察しはついていたが。

 あの時から、セバスは以前のセバスではなかった。


「お前は知ってたんだろ?セバスの件。なんで話してくれなかった」


「今から話そうと思っていたところだ。……想定より黒夜の状態が深刻でな」


「ッ。……そうか」


 黒夜は丸一日エラメスを抑えていたのに加え、その後セバスとコットと協力してエラメスと戦ったのだが、激戦の末敗北。

 だがまだその時は『呪い』が存在していたため黒夜の身代わりを創り出す『呪い』、『パペット・フラット』のお陰でなんとか逃げ延びたらしい。

 その後はそのまま凪と共にライザーが来たことにより日本の力のバランスが崩れたところを狙う超級異能者との戦闘を何十回と……。

 さすがこの組織のトップ2だった事はある、そんな事は宏人は知らなかったのだが。


「それじゃ、今病室には三人寝てるのか」


 黒夜に祐雅、そしてフィヨルド。

 黒夜は精神的に、フィヨルドは単純に重症、だが祐雅は……。


「まあ、祐雅には時間が必要だ。最悪創也の『勇者剣』を渡すのもアリだが」


「ナシだろ。安易に創也を弱くして死なれても困るし、これから『生存戦争』だ。……凌駕もそうだが、今は戦わせるべきじゃない」


 凪は宏人の顔を凝視する。

 そして口を開きかけ……やめた。

 

 凪の言おうとした事、それは──『変化』によって生き返らせた人間は、本当にその人なのか、と。


 *


「……ん」


 凪と共に幾度と強力な能力者を倒し終わり、三日後。

 黒夜は目を覚ました。


「ッ……」


 目覚めた瞬間から全身に激痛が走る。

 さすがに二日連続でずっと戦い続けるのは体に相当な無理を強いていたらしい。

 だが仕方がない、自分がこうでもしないと、宏人兄さんが更に苦労することに──!


「──黒夜。起きたか」


「って、え……。ひ、宏人兄さん!?」


 突然横から宏人の声が聞こえガバッと起き上がると、案の定そこには。


「よ、よかった……宏人兄さんが生きてる──!」


 黒夜の目から涙が溢れる。

 事前に凪からこうなる事が予測されていたが、いざ目の前にすると宏人はどうすべきかと動揺してしまった。

 取り敢えず、黒夜の背中をポンポンと優しく繰り返し叩く。

 全身筋肉痛やら全身打撲やらを考えるとこの行いは正しくないのは自分でも分かっているが、あまりにも黒夜が安心する様に嬉しそうにするから……。


「俺も、お前が無事でよかったよ。黒夜」


 宏人がそう言うと、黒夜は抱きついてきた。

 宏人は少々困惑したが、抵抗せず受け止めてやる。

 体を重ねて強制的に理解させられる、やっぱ、黒夜は女の子だ。


「黒夜、もうここはアスファス親衛隊じゃない。『Gottmord』でもない、新しい居場所だ。だから──偽る必要なんかない」


 宏人がそう諭すと、黒夜はこくりと頷いた。

 アスファス親衛隊の時の黒夜とは大違いだ。

 

「じゃあ、宏人兄さんもそうしてください」


「ん?そうしてって、何を?」


「だから──宏人兄さんも、自分の心まで蓋をしなくていいんですよ。私が付いてます」


「……」


 宏人は、正直黒夜が何を言いたいのかよく分からない。

 いや、分かろうとしていないだけか……。


 自分の心まで蓋……ね、確かに言えてる。


 宏人は──俺は。


「じゃあ、そうさせてもらう事にする」


 俺はそう言うと、自然と肩の荷が降りた気がした。


 *


「アリウスクラウンさん、話があります」


 セバスはドアをこんこんと2回ノックしながら、壁越しにこの部屋の主人に尋ねた。

 数秒後、そーっと警戒する様にアリウスクラウンが頭だけ覗かせた。

 

「何の様……?私を殺しても何も得ないわよ?」


「何で殺される前提なんですか。僕は何もしませんよ」


 セバスは両手を挙げて手ぶらをアピールする。

 そうは言ってもいつでもカールという式神の様な何かを呼び出せるのだ。

 これで警戒を解く方がどうかしている。


「で、私に何の用?」


「いや、用と言うわけではないですね」


「はあ?じゃあ何しに来たの?」


「さっき僕の仲間になった記念パーティーやってたんですがアリウスクラウンさんいなかったので、来ました」


「……はあ。もう、何でもいいや」


 アリウスクラウンはマイペースなセバスに疲れ一応部屋に入れる。

 部屋と言ってもここに住み始めてからまだ一週間も経っていない、生活臭なんて欠片もない。

 セバスは向かい合う二つの席の一つを迷いなく座り、アリウスクラウンを顎で対面に促した。

 天然なのか、平然と人をイラつかせる仕草をするセバスに一周回って尊敬の念すら覚える。

 

「……今更だけどちょっと話すならここじゃなくても玄関口でよくなかった?」


「まあ座った方が楽ですし。少々長い話でもあるので」


 セバスはそう言い手を組みアリウスクラウンを見つめる。

 まあ、どうせ自分が向井宏人、すなわちアリウスクラウンたちと協力している理由だろう。

 セバス・ブレスレットはアスファスサイドでもアルドノイズサイドでもなかったのだ、アリウスクラウンだってその強さと特異性は知っている。


「……」


「……」


 ……静寂。

 長い話というからセバスがぺらぺら喋り出すのかと思ったが、どうやらアリウスクラウンが質問し、セバスがそれに答えるといった形式の様だ。

 

 ──いや、様だじゃねぇし人を舐めてんにも程がy


「げふんげふん」


「?」


 アリウスクラウンは咳払いをし気持ちを落ち着かせ、正直どーでもよく、しかし多少気になる質問を尋ねる。


「なんでそんな性格変わってるの?」


「それはですね、結構複雑でして」


 セバスが言うには、どうやら今までセバス・ブレスレットと『死神』カールデス・デスエンドは融合していたらしい。

 だがしかし、エラメスと戦い、白龍に潰された時偶然分離してしまったと。

 そのため人格が二人を足して割ったようになり、残りが式神のような存在であるカールとなったのだと。


「死神自体はもういないんだっけ?」


「そうだね。前日ダクネスとエラメスに殺されたよ。だからこそ僕たちの人格はカールデスに行かず、カールっていう器の中に入っていったんだろうね」


「よくわかるような、でもわからないような……」


 アリアスクラウンはムムム……と唸った後──考えるのをやめた。

 まあとにかく、良い子になったよって理解でいいのだろう。


「まあ、とにかく今日はもうこれで帰りなさいな。ぶっちゃけ寝たい」


「了解です。余計な時間使わせてしまって申し訳ないです」


 セバスは微笑み、席を立ちドアに手をかけた。

 そして出て行こうとするセバスに、アリウスクラウンは思わず尋ねていた。

 アスファスが敗れた現在、一応背中と寝床を晒し合う仲間だ。

 不安だけは、早いうちに払拭しておきたい。


「……あなたが仕えているのはアルドノイズでしょ?あなたにとって、向井宏人はどういう存在なの?」


 そして、アリウスクラウンは息を呑んだ。

 セバスの気配が、変わったから。


「もちろん、世が落ち着き、アルドノイズ様の天敵がいない世界になった時に──僕は彼を殺しますよ」


 かつて向井宏人に言った。


『だから、この戦争が終わったら、アルドノイズ様を救出し──お前を殺す。向井宏人』と。


 人格がほぼほぼ昔の穏やかな自分に戻りつつある。

 これは死神の本体が殺されたことに直結しているのだろう。

 だがしかし、それでも根本的な部分──アルドノイズへの忠誠心が薄れることはない。


 ただ、この『戦争』の範囲が広くなっただけで。


「人間ていうのはなかなか変われません。外側を取り繕ったって、根本的な部分はその人と変わりはない。『変化』するには、きっかけが必要なんですよ。それも、とても大きな、ね」


「……じゃあ、まだ殺すかどうかは未定ってこと?」


「……まあ、そうなりますね。僕自身が『生存戦争』で死ぬかもしれないですし」


 セバスは曖昧にそう言うと、今度こそ部屋を出ていった。

 途端に緊張がほぐれ、アリウスクラウンはベットにダイブ。


「こ、こぇー……」


 向井宏人はこの組織の人間と大体関わりがある。

 そんな奴をセバスが殺したら……組織は荒れるに決まっている。

 それつまり、グループの崩壊。

 

「それだけは、絶対に阻止しなきゃね……だよね?母さん」


 組織とは矛であり盾だ。

 アスファス親衛隊が解散した今、アリウスクラウンにはこの組織しかない。


 だから。


「絶対に守ってみせる」


 アリウスクラウンはそう固く決意すると、糸が切れた様に眠気に身を任せた。

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