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超能力という名の呪い  作者: ノーム
十章 神魔大戦・後編
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170話(神サイド) 神人


 宏人は『眼』を見開き、『時空放射』の発動準備を済ませるッ!

 宏人の目が青鮮やかに煌めき、ダクネスを射抜く。


「おぉ……すごい熟練されてるね、その『時空支配』。多分、いや絶対狂弥より威力あるよ!」


「黙れ。今すぐ立ち去らない限りぶっ放すぞ……!」


 宏人はアスファスとの戦いで既に満身創痍。

 肩で激しく呼吸しながらも、決してダクネスから目を離さない。

 そんな宏人を、ダクネスは面白そうに笑う。


「確かにそれ撃たれたら私もタダじゃ済まないだろうけど……耐えるよ?さすがに。だから今の死にそうな宏人くんがここで撃つのは悪手だと思うなぁー」

 

 ダクネスはあざとく顎に人差し指を置いて唇を舐める。

 ダクネスに担がれたアスファスがピクリと動き、ダクネスを確認すると安堵のため息を吐く。

 

「……良くやったダクネス。正直危うい所だった」


「あははは。ダッサ」


「ッ。否定は出来ん……」


 アスファスは必死に怒りを堪えながらも、決して言い返さない。

 自分の状況をきちんと理解している。

 宏人はダクネスに肉薄する──が、その過程で血反吐を吐き、倒れる。

 

「ほらほらやばいじゃん。死んじゃうよー」


「クソ……!クソッ!」


 体が動かない。

 痛みではない、ただ何故か動かないのだ。

 疲弊か能力の枯渇か。

 地を舐めながらも必死にダクネスに喰らいつこうともがく宏人に、ダクネスはやさしく語りかける。


 ダクネスは見下しながら、宏人の頭をよしよしと撫でる。

 

「宏人くんも選びな。今ここで死ぬか。いつかここで死ぬか」


 ここはダクネスの『世界』、『旧世界』。

 全ての異能が封じられ、しかしダクネスだけは異能を扱える理不尽な世界。

 そんな世界で、鎌が振られる。


「ッ!」


「お、良い不意打ちだね」


 セバスの不意打ちを簡単に受け止めたダクネスは、鎌を掴んだままセバスの腹を蹴り飛ばす。

 セバスは後方に吹っ飛ばされるが、虚空より現れたカールに受け止められる。

 「ありがと」と短く言うと、ダクネスに構える。


「やめときなって。きみでも私には勝てないよ」


「分からないよ?僕も結構強くなったからね」


 セバスの回復不可の鎌がダクネスを捉える。

 そんなセバスにダクネスはわざとらしくため息を吐き、やれやれと口を開く。


「結構強くなっただけで私と張り合えるなんて思ってもらっちゃ困るね。そんなわけでバイバ──」


「──待てよ。アスファスだけは置いていけ」


 宏人は鉛玉を背負っている様な程思い体を起こしながら、鋭い目でダクネスを睨む。

 そんな宏人に、ダクネスは吹き出す。


「まぁだ生きてたんだ宏人くん。正直宏人くんってうざいから嫌いなんだよね。逃してあげるだけ感謝してほしいんだけど」


「黙れって言ってんだろ」


 宏人はふらつく足取りながらもダクネスの元へ、そしてダクネスの顔面に拳を叩き込む。

 しかし、ダクネスは何食わぬ顔で宏人を見て、今度はダクネスの拳が宏人に炸裂。


「ッ──!?」


 およそ少女の拳の威力ではないそれは、宏人を容易く吹っ飛ばした。

 宏人は声にならない悲鳴をあげ、咳き込む。

 もう起き上がれそうにない。


 アスファスが──逃げるッ……!


 刹那──新しい声がこの『世界』に響く。


「──『獄爆破』」


 瞬間、宏人たちの鼓膜を容赦なく叩きつける轟音、爆発がこの『世界』に起こった。

 もくもくと漂う煙の中から出てきた人物を見て、ダクネスにしては珍しい感情が読み取りにくいで話しかける。


「へぇ、あなたも来たんだ──七録カナメ」


「ああ。ここで気持ちのワリィ笑顔のクソ女の気配がしたからな」


「……アァ?」


 静かにブチ切れるダクネスをよそに、カナメは宏人の前まで歩いてき、そこに座り込む。

 宏人はカナメに、なんかめっちゃ強くなってね?や、ここは『旧世界』なのになぜカナメは異能を使えるんだと疑問を全て飲み込んで、今絶対に阻止しなければならない事だけを言う。


「カナメ。ダクネスがアスファスを逃そうとしている……!アスファスを逃すとまた絶対こんなバカみたいな戦争する。それじゃ神ノーズが──!」


「りょーかい了解。要するにダクネスをぶっ殺せばいいんでしょ?」


「言ってくれるねぇ。私は同じ神人として仲良くしたいんだけど」


 カナメが神人!?と驚く宏人をよそに、カナメとダクネスは静かに互いを見ながら佇む。

 

 一触即発の雰囲気が場を支配する中、また新しい声が。


「──面白そうだな。ぜひオレも混ぜてくれ」


 その男を見て、ダクネスが強張りカナメの額から冷や汗が垂れる。

 宏人も背筋が凍った。


 ──強い。


 『存在』の格が違うからだろうか。

 見ただけで分かる。


 こいつも──神人……!


「オマエが新しい神人だな?海木璃子とかいう女に聞かされた時は半信半疑だったが納得だな。まさかまさか、七録菜緒の弟も神人になるとは」


 その男はカナメを舐め回す様に見て、面白そうに笑う。


「さて──勝負だ」


 突如、あり得ないスピードで男はカナメの前に。


「ッ!」


 神人となったカナメの動体視力でも追えなかったそのスピードは異次元、男の拳がカナメの腹に叩き込まれる。

 しかしカナメの腹に到達する前に、男の手はバンッ!と弾かれた。


「なッ……!?」


 男の目が驚愕に見開かれる。

 だが次の瞬間には楽しそうな表情に変わり、また先程の異次元のスピードを──!


「……ダクネス。邪魔をするな。オレと殺りたいのか?」


「はぁ?ンなわけないでしょ。ただあんたたちにここで暴れてもらったら困るの。この国の管理者の菜緒ちゃんが怒っちゃう」

 

「唯一戦闘能力が低い神人如きに何をビビる必要がある?」


「面倒なのは変わらないでしょ。誰も彼もアンタみたいにずっと戦っていたいって思考じゃないのよ──ライザー」


 その男──ダクネスにライザーと呼ばれた男はつまらなそうにダクネスから視線を外し、カナメを見る。

 

「七録カナメ、オレはオマエのその能力にとても興味がある。菜緒の様に非戦闘系統ではなく、ダクネスの様に面白味のない能力ではなく、ただただ純粋に強いオマエだからだ。だからオレと戦え」


「なんでだよ。俺だって暇じゃないんだ、他を当たってくれ」


「……言ったはずだが?ただ純粋に強いオマエと殺り合いたいんだ」


「知らねーよ。俺はアンタに興味も関心もクソもねぇ。黙ってろ」


 カナメはそう吐き捨てると背を向き倒れている宏人を回収、セバスに手招きし、『極爆破』でここから脱出する準備をする。

 しばらく黙っていたライザーは、『極爆破』でこの『世界』に穴を開けた際の爆音の後、静かに口を開いた。


「二ヶ月後、オレは人類を皆殺しにする」


「あ……?」


 突然のその一言に、この『世界』から出ようとしていたカナメだけでなく、ダクネスまでも呆然とする。


「ちょ、ちょっと待ってライザー。アンタバカなの?だってそんな事したら──」


「神ノーズが黙ってない。そんな事は承知の上だ。いや──だからこそだ」


 要領の得ないライザーの言葉。

 だが不安を募らせる不気味な物言いに、この場にいる全員が固唾を呑みライザーの次の言葉を待つ。


「オレはとにかく戦っていたい。戦って死ぬのなら本望と言える。だがこの世界にはオレとまともに戦えんのはアルベストか神ノーズの奴らしかいない。アルベストは現世に興味さは無さげで神ノーズは有事の時しか出てこねぇ。つまりだ」


 ライザーはニヒルな表情で言葉を続ける。


「オレと戦わなければ、女子供も鏖殺だ。殺しまくってやる。そして神ノーズが出てきたら、神ノーズと殺りまくる。仮にも正真正銘のカミサマと神人のオレの戦いだ。被害は甚大どころじゃ済まないな」


 静寂がこの場を支配する。

 だが、カナメはわりとあっさり返答した。

 答えは決まっている意味が無くつまらない質問──だが、その顔に嫌々ながらの雰囲気はない。

 その顔はむしろ楽しそうで、イキイキとしている。


 カナメはビシッとライザーを指差し見下した。


「いいぜ──乗ってやるよ、そのケンカ」


 ライザーがにやけ、ダクネスはため息を吐く。

 宏人たちに緊張が走る中、カナメは続ける。


「だが条件を付けさせてもらう」


「ほう……言ってみろ」


「俺に負けたら、お前は一生俺のパシリだ」


「ククク……いいだろう。了承した」


 会話の限りを見計らい、ダクネスは興味なさげに言った。


「……一体どこからそんな余裕が出てくるのやら。神人になって二ヶ月で死ぬのは異例よ」


「そんな強いの?こいつ」


「ええ。多分、神人の中でも一番ね。まあ戦った事ないけど」


 ダクネスのその言葉に、カナメはさらに嬉しそうにする。

 そんなカナメを見て、ダクネスは「似た者同士の戦いね」と呟く。

 

「賢い選択に感謝するぞ七録カナメ。では、二ヶ月後、会いに行ってやる」


「ちょっと待て、お前が勝った時俺が何やるか聞いてねぇぞ」


「ハッ。まるで負けても死にはしないと思っている言い様だな。じゃあハッキリ言ってやる──オレが勝ったら、オマエを殺す」


「ヒュウ。いいね」


 ライザーはそれだけ言うと、次の瞬間にはこの『世界』から消えていた。

 先程のスピードと言い、これがライザーの『カミノミワザ』なのだろう。

 ダクネスはまたため息を吐きながら、この『世界』を解除した。

 ガラスが割れた様に崩壊していく『世界』の中、ダクネスはお姫様抱っこをしていたアスファスを投げ捨てる。


「……?ハァ!?何のつもりだダクネスッ!」


「カナメくん、二ヶ月後死ぬきみにプレゼントだよ。特別に私と戦わなくてもアスファスをもらえる権利をきみにあげよう」


「おお。そいつは楽でいいな」


「ダクネス!今まで協力してやった恩を忘れたのか!?」


「大体全部エラメスじゃん。そのエラメスが死んだ今、アスファスに価値はないよー」


 ダクネスのその一言で、アスファスが固まる。


「エラメスが……死んだ?」


 急に動かなくなったアスファスを、カナメは宏人と反対の方の腕で担ぐ。

 アルドノイズが死んだと言われた時もそうだったが、アスファスは心が弱い。

 いつの間にかダクネスは消えていた。

 『世界』の完全な崩壊も間も無くだろう。

 そんな中、宏人はカナメに恐る恐る問うた。


「ライザーって奴に勝てそうか?パッと見ヤバイくらい強そうだが……」


 セバスも宏人に同意する様に、脂汗を垂らしながら激しく首を縦に振る。


 カナメはフッと静かに笑った後、目を閉じる。


 『世界』が壊れ、いくつもの破片が荒れ注ぐ風景を背に、カナメは目を開け──力強く告げた。


「──勝てるに決まってるでしょ」


 



         


         




         第十章『神魔大戦・後編』──完

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