169話(神サイド) 神魔決戦①③
既視感のある『世界』らが、同時に三つ展開されていく。
「勘弁してくれよッ……!」
アスファスが作り上げた『世界』は、三つの『世界』がそのまま入り乱れていた。
そんな中でもセバスは至って冷静に分析する。
「でもやっぱり個々の能力は落ちてるよ。一番完璧に近いのは『龍宮城』かな」
「だけど神の『式神』で一番恐ろしいのは──数の暴力」
「その通りだね」
アスファスが片手を上げると、地より水妖と獄犬が顕現する。
その数はざっと千。
獄犬に至ってはまだまだ増えていっている。
「……宏人くん。今回も役割を分けよう。弱いけど数が多いのと、強いけど単体なの、どっちがいい?」
「強い単体で」
「おっけー。気張ってね」
「おう」
宏人は無言でアスファスの前に立つ。
アスファスは天使の様に羽を生やし、神剣『白龍』を握る。
宏人は左手を『黒龍』に『変化』、右手を他対象の『変化』を発動するため開けておく。
『向井宏人。オレとの約束事は覚えているな?』
「ああ──コットをお前に返す、だろ」
宏人とアスファスは互いに一歩ずつ近づいていき──宏人が走り出したと同時、アスファスが剣を掲げる。
「起きろ『白龍』」
「グギャアアアアアアアアアア!!!」
「ッ」
二度目の白龍の顕現、だが宏人は焦らず迫り来る白龍に、直撃する瞬間『変化』。
呆気なく白龍は霧散する──が、アスファスの姿が見当たらない。
白龍の巨体で身を潜めたのだ。
宏人は神経を研ぎ澄ませどんな場所から来ても対応出来る様構える。
──左ッ!
「ほう、よく止めたな」
アスファスは神剣『暗龍』で宏人に切り掛かってきたが、難無く対処する。
だが、アスファスの口角がつりあがる。
「──『ヴォルケーノ・インパクト』」
「なッ!?」
直後、宏人の真上より巨大な隕石の様な弾丸が降り注ぐ!
「ッ──『変化』ァァァァァァァァァァ!」
しかしインパクトの瞬間右手で捉え他対象の『変化』でもって『ヴォルケーノ・インパクト』を消し去る。
だがそれは完全な隙、アスファスが宏人の首に一閃。
宏人は左手の黒龍の手で剣を掴むが、アスファスは見越していたのか瞬時に宏人の腹を蹴る。
「かはッ……!?」
強烈な一撃がモロに入り、宏人は嘔吐する。
「汚いな」
アスファスは蹴りで宏人が吹っ飛ぶ瞬間、返す手でもう一閃。
宏人の右足が切断される。
「ッ──!」
しかし宏人の右足は一瞬で再生。
そしてその足で着地し、勢いを殺さず左足でアスファスを蹴りつける。
「チィッ、小癪な」
今度はアスファスが吹っ飛ぶ。
アスファスも宏人と同じ様に片足で着地し顔を上げ──た瞬間、宏人の右手に顔を掴まれる!
「なんだとッ!?」
「『変化』ァ!」
アスファスの顔面に他対象の『変化』ッ!
アスファスは死に物狂いで後方に飛び置き土産に宏人に『カオスリヴィエール』を放つ。
宏人はそれを『バースホーシャ』でいなす。
アスファスに触れた、しかし触れられたのは一瞬。
さすがに神の存在を『変化』させきれなかった。
しかし、『変化』はそんな甘く無い。
「──っしゃあ!お前の中のソウマトウ、消えただろ」
先程の一瞬の『変化』で、アスファスの中のソウマトウの様なモノが壊れた気配がしたのだ。
アスファスの顔が歪む、ビンゴ。
これでアスファスはアルドノイズの業を使えない。
一撃必殺の『闇』への警戒心のリソースが減るのはかなりのアドバンテージだ。
「お前だけだったら今ので死んでたぜ。神のクセに他人の力使いまくっててなっさけねぇなぁ!」
「さっさと死ねよぉ!」
アスファスは怒りの形相で『マーレ・サイズミック』を発動。
しかしいつもの『マーレ・サイズミック』ではない、なんとその中に『ヴォルケーノ・インパクト』が含まれている。
相入れない二つの式神の奥義の拒絶反応。
『マーレサイズミック』に砕かれた『ヴォルケーノインパクト』の破片が凄まじい勢いで辺りに散らばる!
「ッ──!」
宏人の頬、腕、腹、足を、『変化』する暇もない速度で粉々にしていく!
「ハハハハハッ!」
アスファスは高笑いで今にも死にそうな宏人の顔面をフルパンチ。
地に転がった宏人にアスファスは容赦なく『カオスリヴィエール』!
直撃する一瞬前に宏人は『変化』で体を治し、そのまま『カオスリヴィエール』に突っ込む。
体がひしゃげる、当たり前だ、これはアスファスのカミノミワザ。
しかし宏人は悪魔、一撃くらい、余裕で耐えて魅せる!
「うおおおおおおおお!」
今度は宏人がアスファスの顔面にフルパンチ。
「ァッ──」
地に転がるアスファスに追撃の『バースホーシャ』。
「アアアアアァァァァァァァ!」
アルドノイズのカミノミワザがアスファスを焼き尽くす。
だがアスファスも神、まだ死んでくれない。
「治せよ!」
「治さねぇよ!」
『カオスリヴィエール』を食い耳や左腕が無い状態で、宏人は止まらずアスファスに畳み掛ける!
「『焔』ッ!」
「『凪』ィッ!」
アスファスを更に焼き、宏人の体がズタズタに切り刻まれる。
アスファスは神の自然回復を死ぬ気で発動し、宏人はとにかく『変化』で己の体を保つ。
『焔』が辺り一面を火の海にする、いつの間にか宏人はアルドノイズと同等のレベルで『焔』を使いこなしていた。
両者の体を両者のカミノミワザが壊し、両者共最強の回復手段でもって命を繋げている中、宏人の中のアルドノイズが叫ぶ。
『向井宏人ッ!とにかく三分耐えろ!」
「三分ッ!?なんでだよ!」
『とにかくだ!死んだら殺す!』
アスファスが目敏く何かを感じ取ったのか、『凪』の出力が上がり宏人の胴体を切断する!
「ァァァァァァァッ……!」
「ハハハハハ!ハハハハハハハ!ザマァないな向井宏人ォ!」
アスファスが目を閉じ笑っている間に、胴体を切断されながらも宏人は『焔』を放ち続ける!
「死ねよ!」
「死んで──たまるかよォォォォォォォォ!」
宏人は莫大な『能力』を消費し『変化』で胴体を繋げ直す!
宏人の中で、アルドノイズが嬉しそうに笑う。
『──褒めてやろう、向井宏人。『ヴォルケーノ・インパクト』』
「「ッ!?」」
刹那、上空より爆炎の隕石が降り注いでくる。
アルドノイズが──アスファスから『獄廻界』の主導権を奪い取った!
「ふざけるなよォォォォォォォォ!」
アスファスも負けじと『マーレ・サイズミック』!
先程と同じ様に本来ぶつかる筈のない奥義の拒絶反応、『ヴォルケーノ・インパクト』が辺り一面に飛び散る。
今回のは撃った存在がそれぞれ違う無制限の爆発。
宏人とアスファスの体を『ヴォルケーノ・インパクト』の破片が貫く。
カミノミワザと同格、またそれ以上の格でもある『奥義』の威力は尋常ではなく、両者の体を壊す。
だが、それでも両者は立ち上がる。
両者とも半無限回復を持つ戦いでは、諦めが悪い方が勝つ。
「クク、ククククク……」
「あ……?」
「ソウマトウォ!あの世で見ているか!?これが本当の──『ダーク・ナイトメア』だッ!」
刹那、アスファスが纏うオーラが急変する。
アスファスでもアルドノイズのでもない、これは。
「ッ!?嘘だろ、アスファスの中のソウマトウは壊したはずだろッ……!」
「甘いな向井宏人!貴様の『変化』は把握し切っているものを変化する能力ッ。だから貴様はバカみたいに食ったモノに『変化』出来ると勘違いをしッ!己の可能性に区切りをつけていた。──これを愚か者と言わずして、何と言おうか」
突如、アスファスの姿が変貌していく。
黒く息苦しいオーラが巻き散らかれ、宏人の目を遮る。
やがて晴れ、そこにあらわれたのは、異形の怪物。
元がアスファスとは思えないその巨獣は、アスファスと同じ様に見下す目を宏人に向ける。
「ハッ、こんなキショいのがカミサマってか?笑わせんなよ」
「貴様の奮闘もここまでだ向井宏人。ククク、やはり私はこのワザの理性の崩壊というデメリットを打ち消す事に成功した。ソウマトウには感謝せねばな。意外と奴の異能は当たりが多い」
「ごちゃごちゃうるせぇんだよッ!こっちは疲れてんだ。さっさと終わらせて帰って寝てやる」
宏人は駆け出し両手に『変化』を込める。
神経が研ぎ澄まされ、目の前の異形の怪物に対する嫌悪も恐怖も全て頭から追い出し──スポーツで言う、ゾーンに入ったとでも言うべきか。
『『ヴォルケーノ・インパクト』ッ!』
アルドノイズも同時に『奥義』を発動。
宏人は『変化』を付与した手でアスファスをぶん殴る!
「ッ!?」
手応えがない。
いや、物体として存在していない。
まさに幻想。
だがそれでも『変化』は効くはずなのだが、やはり『変化』した手応えもない。
いや、これは何か違う。
『変化』が効かないのではない、『変化』しているのに、変化出来ていない。
困惑する宏人をアスファスは笑う。
『これが、ソウマトウの『奥義』ッ!『ダーク・ナイトメア』。あらゆる存在を否定する『闇』を反転し、己に絶対の『存在』を与える力!死を乗り越えるまさにカミノミワザッ!これは私に相応しい!」
アスファスは纏う禍々しいオーラを一つに圧縮し──放つ!
莫大なエネルギーが宏人を襲う。
「グッ……うおおおおおおおおおおお!」
ありったけの『変化』を手に込め威力を消し去ろうとするが、やはり『能力』としての格が違う。
だが、それでも──宏人は喰らいつくッ!
そのタイミングで『ヴォルケーノ・インパクト』がアスファスに直撃、『カミノミワザ』はどんな存在にだって攻撃出来る。
それは幻想体のアスファスも例外ではないが、『ダーク・ナイトメア』の強力な異能により威力が相殺される。
だが宏人に向けられていたエネルギーが弱まり、打ち消す。
そして再度駆け出す。
──己に絶対の『存在』を与える力。
「……なんだ、簡単じゃねーか」
なら、殺さず、消さず、ただただ『変化』させればいい。
『カミノミワザ』と『超能力』という格に抗わず、抜け道を探して突っ込めばいい。
「──『変化』」
アスファスの体に触れ、宏人の『変化』が炸裂──想像するは、元のアスファス。
「ッ」
アスファスもそれに気付いたのだろう。
『ダーク・ナイトメア』は莫大な『能力』を消費し続ける『奥義』、もちろん『能力』が枯渇すれば『ダーク・ナイトメア』の異能も効果が切れ元の状態に戻る。
アスファスがソウマトウを倒した方法は単に枯渇に追いやっただけ。
それを、向井宏人は故意に、無理やり元に戻そうと『変化』してきているッ!
「貴様は、毎度毎度戦い方が美しくない!醜く抗い、騙し抗い汚く抗う!見ていて、非常に不快なんだよッ!」
「がぁッ!」
アスファスの巨大な手が振り払われ、宏人の左半分の体を襲う。
だが宏人は足と地が離れぬ様に『変化』し、決して『変化』の手を止めないッ!
宏人の体が潰れるが、一瞬で、治すのではなく、直す!
「アアアアアアアアアアァァァァァァァ!」
アスファスは狂った様に叫び死に物狂いの本気を出す!
刹那、『カオスリヴィエール』、『マーレ・サイズミック』、『凪』が乱射!
「ァァァァァァァァァァァァァァァ!」
宏人は声にならない悲痛な叫びを上げながら、決してその場を離れない!
「今だ!今しかない。ここで耐えなきゃもうチャンスはねぇ!──アルドノイズッ!最後に、本気の本気の力を貸しやがれ!」
『カオスリヴィエール』で顔半分がぶっ飛んでもすぐに『変化』し『変化』を込め。
『マーレ・サイズミック』で体がぐちゃぐちゃになろうが死ぬ気で滅茶苦茶な『変化』をし、なんとか体を保ち。
『凪』で全身切り刻まれようが絶対に目はアスファスから逸らさない。
そんな宏人に、アルドノイズは言葉を紡ぐ。
『──当たり前だ。お前は黙って『変化』に集中してろ』
そんな言葉が宏人の耳に流れた直後──アルドノイズの『バースホーシャ』が吹き荒れる!
「ッ」
その威力は絶大。
アルドノイズは、己の『存在』を消費してまで、莫大な『能力』でもっていくつもの『バースホーシャ』、『ヴォルケーノ・インパクト』、『焔』を展開。
それをアスファスにぶち込む!
「バカか!本当に死ぬぞ、アルドノイズ!」
だがそれでもアスファスは止まらない!
アスファスは灼かれながらも宏人にその巨大な腕を振りかぶり──放つ!
「クソぉ──」
迫りくる腕にアルドノイズが抵抗してくれるが、その勢いは衰えそうにない。
『変化』に力をさらにさらに込めるがまだ足りないッ!
どうする──そんな宏人を、無慈悲に、容赦なく、アスファスの一撃が襲う──その瞬間。
宏人から、爆風が炸裂した。
「なんだとッ!?」
「ッ」
アスファスの腕が吹っ飛ぶが、一瞬で再生する。
だが、そんな隙を──宏人は逃がさないッ!
「『変化』ァッ!」
宏人の『変化』が、アスファスを元に戻す!
静寂──黒いオーラが晴れたその先には、アスファス。
『ダーク・ナイトメア』を、『変化』で解除する事に成功したらしい。
──だが、これで終わりじゃない。
宏人はフラフラしながらも、手を『変化』しいつでも反応出来る様に──。
「……あ?」
宏人の鼻から大量の鼻血が。
それだけなら良い、それだけなら、良かった。
宏人の手は、『変化』しなかった。
枯渇。
宏人の背筋が凍る。
「ク、クク……つくづく愚かだな」
アスファスは笑いながら、疲弊が見られる足取りで宏人に近づき、手を向けた。
「──『カオスリ──ガハッ……」
アスファスの『カオスリヴィエール』が発動する寸前、アスファスは吐血し四つん這えになった。
「お前も限界かよ」
「一緒にするな。人間風情が……!」
『能力』の枯渇。
それも当然である。
宏人もアスファスも幾度も回復、奥義、式神を発動しているのだ。
今も立っていられるのがおかしいくらいの二人は、どちらからとも無く一歩を踏み出す。
最初はゆっくりと、だが徐々に早くなっていき──やがて、両者とも駆け出した。
「「ウオオオオオオオオオオオオ!」」
宏人がアスファスを、アスファスが宏人を殴る!
骨が軋み、悲鳴を上げる。
頭が痛い、自分が今何を考えているのかすら分からなくなってくる。
そんな宏人にアスファスの拳がモロに炸裂、後方にぶっ飛び、脳震盪が起こる。
アスファスはゆっくりと向かってくる。
舐めているわけではない、お互い満身創痍なのだ、走る気力がないと言った方が正しいか。
アスファスが迫りつつあるというのに、体が言う事を聞かない。
限界、とにかく外傷を治す事を優先していたため内臓が一体どうなっているのか、考えるだけでも恐ろしい。
今更になって恐怖が湧き、諦めそうになった時。
『立て、宏人』
ふと、そんな事が聞こえた。
アルドノイズじゃない、そう、これは、この声は──!
『これで、勝て』
凪だ。
「──『ホリズンブレイク』」
脳に直接埋め込まれた様な言葉を吐き出すと、右手より爆風が発生。
これは……確かニーラグラの。
先程のアスファスの腕から守ってくれた爆風も、おそらく。
「毎回さぁ……ほんっとうにありがとう。凪」
全てを呑み込む神風が、目の前にいるアスファスを喰らい尽くすッ!
「ふ……ふざけるなァァァァァァァ!」
だがアスファスは止まらないッ!
体を引き裂かれても止まらず、一歩一歩と踏み締め宏人の元へ辿り着く。
「……」
アスファスはただ動けぬ宏人を見つめ続け──。
「クソが……」
ついに、バタンと倒れた。
──刹那。
「ッ!?」
宏人の腹から禍々しい口が出現した。
これがまさか──『器』ッ!?
その『口』は徐々に大きくなりながら唾液塗れの口を開き──アスファスに襲い掛かる。
「──はーい、そこまでー」
突如、場に合わない少女の間延びした声と共に、『世界』が灰色に変わった。
宏人はふらつきながらも立ち上がり──目の前に現れた少女を睨んだ。
『口』はいつの間にか消えていた。
逃げたのだろうか、目の前の少女から。
「クソ……俺も逃げてぇよ……」
少女は、にこやかに笑いながらアスファスを見下ろす。
「私が助けてあげようか?アスファス」
その正体は、『神人』の一人──ダクネス。