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超能力という名の呪い  作者: ノーム
十章 神魔大戦・後編
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161話(神サイド) 神魔決戦⑤


 アスファスの容姿は先程までのソウマトウの姿ではなく、しっかり元のアスファス。

 宏人は肩で息をしながら、油断なく構える。


「なるほどな……確か『器』って脱げば全回復するんだっけか?」


「少し違うぞ。私は回復などしていない。先程お前に殺されたのはソウマトウだ。中の私は少したりとも攻撃など受けていない」


「ざけんな。ソウマトウを殺したのはお前だろ。ほんとに胸糞だな」


「何を言う。確かに私はソウマトウの自我を沈めた。だがお前はどうだ?『ヴォルケーノインパクト』は一体何を潰した?ソウマトウだろう。──貴様は神殺しを犯した。神ノーズがどう出るか楽しみだな」


 アスファスはクククと笑うと、急に冷めた目で宏人を見る。


「アルドノイズ。お前は何をしている?向井宏人に負けたのか?それとも下に降ったか。正直どちらでもいいが──俺をがっかりさせるなよッ!」


「ッ──!?」


 宏人の目の前に突如アスファスが。

 宏人はアルドノイズの手で迎え撃とうとするが──アスファスは宏人を通り過ぎ、地に転がっていた神剣『白龍』と『暗龍』を持つ。

 神剣とは『龍』を宿した神の剣。

 だが龍は一度顕現するとしばらく呼び出せないため、もうその剣は龍ではない。


 だが──剣としては使えるわけで。


「向井宏人、貴様には言ったことが無かったか。私の戦闘スタイルは剣での接近戦だ」


 アスファスは二刀流で構える。

 その姿はまさに剣士、アスファスの間合いに入れば一太刀で致命傷を負わされるであろうと本能が恐怖する。


「……」


 そんなアスファスに宏人は対抗して接近戦で挑むつもりは毛頭ない。

 

「『バースホーシャ』ッ!」


「『カオスリヴィエール』!」


 カミノワザが衝突、だが先程と同じ様に宏人の精度不足のため『バースホーシャ』を掻き消し『カオスリヴィエール』が宏人に迫る。

 宏人はそれを見越して放った直後にスライディングで回避、そして獄犬と黒龍にアスファスへ向かわせる。

 獄犬には、アスファスはまたこれも先程と同じ様に器用に『流水群』を使って一掃する。

 

 迫り来る黒龍を、アスファスは嬉しそうに見据える。


「勝負だ、人間如きの操り人形」


「グギャアアアアアアアアアア!」


 黒龍の鋭い牙がアスファスを捉える。

 しかし黒龍がアスファスの間合いに侵入した瞬間──抜刀。

 黒龍の顎が、重い音を立てて落ちた。


「────ッ!!!!」


 痛む口で声が出ないのか、はたまた顎がないためか、黒龍は声にもならない悲鳴で叫ぶ。

 そんな隙をアスファスが見逃す筈がなく、全開の状態ではないといえ黒龍を見事八つ裂きにした──その間に宏人は、撃つ!


「ありがとう黒龍──『ヴォルケーノインパクト』!」


「ふん!単純だな」


 アスファスは両手を合わせ──唱える。


 先程は無理だった。

 だが宏人は既に『奥義』を4回は使っており──


「式神の高度など、これでは合って無い様なものだな──式神展開『龍宮城』ッ!」


「ッ──!」


 『奥義』は式神の高度を代償に発動する異能。

 そのため『極廻界』の高度は既に無いに等しい薄皮──それを、アスファスの『龍宮城』が塗りつぶした。


 『世界』が、蒼い海へと変貌してする──!


 ザザーンと海の音を聞きながら、宏人はアスファスを見る。

 宏人とアスファスの足を海水が舐める。


「……随分と自信ありげな顔してるな」


「当たり前だ。私が負ける要素など、万に一つもない。だがそうだな……これでもアリだ」


 アスファスが手を鳴らすと、海より大量の女の姿をした怪物──『水妖(ウンディーネ)』が顕現し、宏人を囲む。


 『獄犬』と同じ様に数で圧倒する系統の異能生命体。

 多対一を想定してない相手からするとまさに脅威、それが神の異能の共通点。

 

 宏人も『獄犬』を出せる身だが、ここはアスファスの『世界』。

 水妖には獄犬をぶつければいいが、いつかは逆転される。


「圧倒的不利な状況が今一度分かっただろう。そこで私から提案がある──今すぐアルドノイズを解放すれば、お前を見逃してやろう」


「……」


「それだけでは足りぬのならお前を見逃す上でこの戦争を終わらせてやろう。もちろん今戦っているエラメスとアリウスクラウンにもストップをかける。まあ、七録カナメと太刀花創也が生きていればの話だが」


 宏人はそんなアスファスの提案に少し笑い──口を開いた。


「──ぜひ、それで頼む」


「もちろんいいとも!向井宏人、貴様は賢い選択をした」


 アスファスの嬉しそうな顔、声音。

 宏人は両手を広げ、アスファスは首を傾げる。


「アルドノイズを解放するには、俺が死ぬ必要がある」


「ククク、他人のために命を投げ出すと言うのか。私がこの約束を破る怖さはないのか?」


「ないよ、お前なら。アルドノイズの前で、嘘はつかない」


 宏人は困った様に笑って、アスファスに近付いた。

 遂にはアスファスと目と鼻の先まで。

 アスファスも少し笑うと、右手にあった神剣『白龍』を虚空に仕舞い、その手で宏人の胸に置いた。


「向井宏人。貴様を『器』として創ったのは私だが……まさか私自信が壊すことになるとはな。感慨深いものだ」


「そうか。なら、一思いに殺してくれ。『カオスリヴィエール』とかでな」


「ふっ、いいだろう」


 アスファスはそう言い、続けて『カオスリヴィエール』を放とうと口を開いた瞬間──宏人がアスファスの右手を掴む!


「『変化』ッ!」


「なにッ!?」


 宏人は一か八かの他対象の『変化』!

 『変化』は見事成功しアスファスの右手を消滅させる。

 そのためか、構成途中だった『カオスリヴィエール』のエネルギーがアスファスの体内で爆発する!


「が、ガァァァァァァァァァァァァ!?」


 アスファスの悲痛な叫びが宏人の鼓膜を震わせる。

 だが宏人は容赦なくアルドノイズの拳でアスファスの顔面を殴りつけ、右手で地に叩きつける。


「ッ──!?」


 足元は浅海のためアスファスが苦しそうにもがく。

 宏人は止まらない、余った方の左手で『バースホーシャ』。

 アスファスは迫り来る死を敏感に察知し、体を捻って宏人の首に踵蹴り。

 

「ッ!?」


 『バースホーシャ』の軌道が多少ずれるが、それでも灼熱の炎はアスファスを襲う。


「アアアアアァァァァァァァ!」


 アスファスは手を宏人の方に回し──『凪』!


「ガハァッ……!」


 宏人の腹が抉れ、そこから血と共に内臓が溢れる。

 今までにない痛み、恐怖、死が宏人を襲う。

 呼吸が乱れ、脂汗が垂れる。

 そんな宏人を押し退け、荒い息のアスファスが立ち上がる。

 

「向井宏人……」


 アスファスは顔に手を置き、指の隙間から宏人を見る。

 そして瀕死の宏人を見てバカにする様にひとしきり笑い──冷めた目を宏人に向けた。


「さて、死ね」


「ッ……!」


 絶体絶命。

 アスファスの手から、『凪』が生成される。

 まだ『変化』でロクに腹も治っていない。


「『凪』」


 アスファスの『凪』が宏人を襲う。

 だが宏人はそれを一切避けようとせず、生身で突っ込む。

 一瞬前まで宏人に殴られていたのが効いたのか、アスファスの『凪』の威力はあからさまに落ちていた。

 体中に裂傷が刻まれるのも厭わず、宏人は再度アスファスに拳を払う。


「ッ」


 だがやはり威力が足りない。

 神という存在に、人間の暴力が効かないなんて分かりきっている。


 そんな中宏人は──手をアスファスに向けた。

 意識してではない、ただ自然と、誰かに操られたかの様に手がアスファスに向けられた。


「「ッ!!??」」


 そして発動した──『焔』。


 宏人は手を上げた事も、『焔』を放った事もやろうとした覚えはない。

 というか宏人はアルドノイズが扱うカミノワザの中で唯一、『焔』は使えないはずだ。

 そして宏人の体を操れるのは、宏人を除けば、ただ一人。

 一瞬、意識が沈んでいく。


 ──ここは宏人とアルドノイズの魂が暮らす精神世界。


「オレの全てをやる。だから──アスファスを殺せ」


 『焔』が、『凪』を呑み込んだ。


「……」


 アスファスの顔が、驚愕に見開かれる。

 当たり前だ、神の最高出力の異能は、『器』如きがどうこうしたところで発動出来る代物ではない。


 という事はつまり──アルドノイズは、積極的に宏人に肩入れしている。


「貴様はそれでも神か?アルドノイズ!」


 腹を直した宏人がよろよろと立ち上がる。

 アスファスの厳しい視線を受けながら、宏人は手を閉じ、開く。

 まだ、戦える。

 神に有効なカミノミワザというカードが手に入ったのだから。


「じゃあ、ラウンド2といこうか」


 冷たい潮風が、両者の頬を撫でた。

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