152話(神サイド) 神魔幻戦⑧
「──えっ」
突然、ミリィの真上よりエラメスがこの『世界』に侵入してきた。
ミリィは瞬時に狙いを変更し、エラメスに向かって『酪底門』を一つぶん投げる!
「あはぁ!」
「ふん、また過去の人間か──あの世で大人しくは、出来んのかァァァァァァァ!」
エラメスはいきなり『凪』を発動!
『酪底門』は『凪』を吸収しようとするが、全体攻撃の筈の『凪』がなんと『酪底門』に一旦集中。
一つしかないからか、容量オーバーなのか、『酪底門』は粉々に粉砕した。
ミリィの方頬が若干引く。
「ハッ……来ると信じていたぞ、エラメス」
「はい、アスファス様。遅れてしまい申し訳──は?」
エラメスはアスファスを見て固まる。
左手が、無いのだ。
いや、アスファスは神だ、治そうと思えば今すぐ治せる。
だが今は式神展開に加え、『凪』、『マーレ・サイズミック』という大技を連発しているのだ、これ以上余計な『能力』の消費は避けたいのだろう。
エラメスは、それを理解している。
理解した上で──怒り狂っている。
「貴様ら……アスファス様に、死んで詫びろォォォォォォォォ!」
エラメスは一瞬でミリィへ間合いを詰める。
「ッ!」
ミリィは笑いながらも、焦りながら後方へジャンプ。
エラメスはその隙を逃さず──放つ。
「──『マーレ・サイズミック』!」
「「「ッ!?」」」
刹那──ミリィ、ソウマトウ、フィヨルドの足元がまるで生きた魚になった様に、水柱を作り呑み込んでくる。
一度経験した技、ミリィとソウマトウはそれなりの対処が出来るが──!
「フィル!」
「ソウマトウ様、私に構わず──!」
フィヨルドは言葉を最後まで紡ぐ前に水柱に呑み込まれていった。
「フィルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
ソウマトウの絶叫がこの『世界』に響く。
アスファスがニヤリと口角を上げる。
「まずは、一人」
「絶対に、許さない!」
常に声が小さいソウマトウからは考えられない程の大音量。
そんなソウマトウに、更なる絶望を与える大技を、エラメスは持っている。
「ふん──顕現せよ、『白龍』」
「ッ!」
上空で争う『白龍』と『暗龍』の間に、更にもう一体の『白龍』が入り込む。
神の龍の力は常に互角、それが意味する事は──!
とにかく、『暗龍』が敗れるのは時間の問題。
「ど、どどどどどうしよう……」
ソウマトウは両手を震わせながら両膝を地に着く。
そんなチャンスを、エラメスが見逃さないはずがなく──エラメスがソウマトウにありったけの『カオスリヴィエール』!
ソウマトウは迫り来る死を分かっても尚動かず──それを、ミリィが残り一つの『酪底門』で止めた。
「まだミリィいるよぉ!だからあのおじさんも大丈夫ぅ!」
「ッ!ミリィ!無事だったの?」
「そうだよぉ!ミリィは──無敵ぃ!」
ミリィはそう言い放ち、『カオスリヴィエール』を止め切った。
そう、ミリィはフィヨルドの『能力』で作られたもの、それはフィヨルドが死すれば消滅する。
これが意味するもの、それはソウマトウにとっては何より──
「……ありがとう、ミリィ。めっちゃやる気出てきたよ」
「良かったぁ、反撃開始ぃ!」
ミリィは『移動』と残り一つの『酪底門』で突撃、ソウマトウは己の背後より『闇』を顕現させながら『ファントムファンタジー』を両手より、計二発繰り出す!
だが未だアスファスは顔に余裕の笑みを貼り付けており──
「今度こそ場を荒らせ、水妖」
ソウマトウが今放った全ての攻撃を、無数に湧き出る水妖が身代わりとして受け止めた。
だがかなりの威力のためか、しばらく水妖が出てくる気配がしない。
「……行って!ミリィ!」
「あはぁ!」
ミリィはそのままエラメスへ殴る様に『酪底門』を突き出す。
「ふん、勝ち筋が明らかな奴の対処ほど楽なものはない」
エラメスは最低限の動作でそれを避け、ミリィの手をがっちり掴み──
「──あ」
──ゼロ距離『流水群』!
ミリィは己の前に『移動』を発動、その『移動』空間によって『流水群』を回避。
『酪底門』も使用したが、やはり二つで一つ、耐えきれずに霧散する。
目の前にエラメスが、『酪底門』もない……詰み──そこで、思い付いた。
──確実にエラメスを倒す方法を。
ミリィの『能力』の、バグを。
「あはぁ!」
ミリィは戦いが好きだ。
己よりも強い者と戦いたいのではない、唯一無二の、誰にも勝てない絶対的強者と戦いたいのだ。
惜しむべくはそれだ、エラメスはどこまで行っても2位。
このバグは、ミリィの命、いや、存在を代償とする。
──でも。
「ぶっちゃけぇ……強ければ何でもいいやぁ!」
ミリィはそのまま『移動』を閉ざさず己も中に入ろうとする。
だがやはりエラメスの拘束を解く事は出来ない。
「そうじゃなくっちゃぁ!」
ミリィはかつて無い程集中し──再度唱える!
「式神顕現『酪底門』!」
「ッ!?」
エラメスの背後に『酪底門』を顕現させ、押し付ける!
やはり強者、そう簡単に吸い込まれてくれない。
だが、ミリィの狙いはそれではない。
もちろんそのまま吸い込まれていってくれた方が楽なのだが……ちゃんとした作戦がある。
それは、エラメスを『移動』空間に自らもろとも引き込む事。
そしてその中でミリィは自害し、『移動』空間自体を消滅させる!
「──チィッ!」
早くもエラメスはミリィの狙いが読めたのだろう、だがしかしミリィは既に逃げ場は封じている。
今度はミリィががっちりとエラメスの手を掴む!
「あはぁ!離さないぃ!」
「このクソガキがァァァァァァァァァァ!」
ミリィとエラメスの戦いの一方では──!
「『カオスリヴィエール』!」
「『ファントムファンタジー』!」
アスファスとソウマトウのカミノミワザがぶつかり、海が震える。
大量の水妖が海より産まれ、ソウマトウに襲い掛かる。
「くぅッ……!」
「ハッ!そんなものか、ソウマトウ!」
遂に、ソウマトウは無限に湧き出る水妖に体の自由を奪われてしまう──が。
「『ファントムファンタジー』!」
ソウマトウがそう呟けば最後、周りのものが一切消え去った。
ソウマトウは息を切らしながらも、よろよろと立ち上がる。
それをアスファスはつまらなそうに鼻で笑い、命じた。
「便利だな、そのワザは──水妖、津波だ」
「〜〜〜〜!」
雑音の様な奇声を発しながら、一部の水妖が海に戻っていき──数瞬後、巨大な津波と化してソウマトウに一直線。
もちろんアスファスはそれだけでは済まさない、余った水妖と共に、アスファス自身も『凪』を用意し始める。
完全に、今、この瞬間、アスファスはソウマトウを殺し尽くす──!
──……んな事、されてたまるか。
「『ダーク・ナイトメア』!」
「ッ。何だそれは……!クソ、これだから万年引き篭もりは情報が無くて面倒くさい」
苦虫を潰した様な顔をするアスファスの目の前には──黒いオーラを纏う、異形な怪物が。
これは、ソウマトウの奥義。
理性を失くす代わりに、己の力の全てを引き出す最強の形態!
「──────────!」
水妖とはまた違う、悲痛な叫びの様な声を上げながら、アスファスに向かって──!