表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
超能力という名の呪い  作者: ノーム
九章 神魔大戦・中編
156/301

149話(神サイド) 神魔幻戦⑤


 ──私は、何を見ているのだろうか。


「グキャアアアァァァァァァァァァァァ!」


 この世の理から逸脱した最強の生物の咆哮が、『呪術者』たちの鼓膜を叩いた。

 ──栗樹那種は、耳を手で塞ぎながら現状を整理する。

 目の前にいる男に『呪術者』全員で襲い掛かったのだが──なぜか、それからの記憶がない。

 次に目を覚めたのは、一分後か、一秒後か、それとも一瞬後か。

 定かではないが、とにかく皆が気絶した──1人を除いて。


「──『スラッシュ』」


 火絶傀羅の『呪い』──『スラッシュ』は、傀羅が横に手を振ると斬撃が飛ぶという異能。

 傀羅はそれを駆使し、己に迫る脅威を乗り越えた。


 脅威──それは龍、『白龍』!


「ふん。なかなかやるな、少年」


「あんたこそほんと何者だよ。強すぎるだろ」


 エラメスは容赦なく『流水群』で四方八方を穿つ。


「ッ!」


 エラメスはそのまま傀羅に肉薄し、拳を喰らわせる。

 傀羅は小さく呻き、姿勢が崩れる。

 エラメスは止まらず傀羅に向かって直で『流水群』を──


「ッ!傀羅!」


 春片雅という少年が、背後よりエラメスに己の異能で以って。


「『クリエイト』!」


 『クリエイト』にて作成したオリジナルの刀でエラメスの首に横一閃。

 だがエラメスは後ろに反って回避、そしてエラメスも同じ様にその太い腕を横一閃に振り払う。

 

「がっ……」


 雅の顎に見事腕が激突し、意識を刈り取る。

 だがエラメスは甘くない、そのまま息の根を止めようと雅の元へ走り出す。


「させるか!」


 背後より持ち直した傀羅が、真正面より夜村創世がエラメスに向かって異能を──!


「つまらん」


「ッ!?」


 エラメスは創世が異能を使うより早く『流水群』を発動し、創世の頭を打ち砕く。

 そして傀羅の『スラッシュ』を最低限の動作でかわし、背から多少の血飛沫が舞うが気にせず雅に肉薄し──命を刈り取った。


「……」


 那種は、頭の中が真っ白になる。

 今まで、『呪い』所有者みんなで、一生懸命生きて、人権を勝ち取ろうと頑張ってきたのに。

 それを一人の男が全て破壊しようとしてくる。

 思わず、頭を抱えて疼くまる。

 目から涙が止まらない、これは恐怖か、悲しみか、否──絶望だ。

 今、那種がこうしている間にも仲間は死んでいく。

 誰かが那種を呼んでいる様な気がする、いや、罵声か。

 そうしている間に──音が止んだ。


「……?」


 恐る恐る顔を上げ──思考が止まった。


 今、ここにいるのは、那種と傀羅と……エラメスと『白龍』のみだった。


「──ッ!」


 那種は絶句した。

 11人もいた『呪術者』は、たった1人の男によって、ほぼ殺し尽くされたのだ。

 いや、エラメスだけではない、殺したのはほぼ白龍だ。


「那種、立て」


 もう既に瀕死の傀羅が、無理やり立ちながら那種を見る。

 その目には何の感情もない、那種が隅で怯えていたなんて知らない様な、ただ戦力を求める目。

 傀羅の『スラッシュ』の速度では致命傷を与えられないエラメスに、威力が足りない白龍。

 勝てっこない、だが、まだ戦おうとしている。


「……なんで?」


「なんでも、だ。やるぞ」


 エラメスは待っている、それは余裕か、はたまた那種たちへの敬意か。

 知り得ないが……那種は、好機だと思い乱暴に目を擦った。

 目が充血して赤色に染まる。

 そして唱える、那種の、己の『呪い』を。

 

「──『サタノファニ』」


「……?」


 エラメスは首を傾げる、何も起こらないからだ。

 不発という線が頭をよぎるが──途端、那種の気配が変わった。

 刹那──白龍がぶっ飛んだ。


「なに!?」


 エラメスは瞬時に那種に見る──いない。

 白竜はやがて地面を転がり、低い唸り声と共に体制を立て直す。

 そして口より球体が出現し──光線を発射。

 傀羅は必死に回避、エラメスも舌打ちをしながらその場から退く。

 双方がそうしている間に──あの少女はほくそ笑む。


「ハーァ!」


 那種は白龍の頭の上に乗ると、踵蹴りで頭を地面に叩きつけた。

 那種は続けてエラメスに肉薄、エラメスは苦い顔をしながらも冷静に那種の猛攻を食い止める。

 急な殺気にエラメスは己の胸に手を──そこに白龍のツノがぐさりと刺さる。


「ッ!?」


 そして、那種は高笑いしがらエラメスを蹴り飛ばした。

 

「やーっぱ、式神が問題だよな。能力は避ければどうとでもなるけど式神はそうはいかない」


 那種はぶつくさ言いながらニヒルな笑みを浮かべる。

 それを見て──エラメスはため息を吐いた。


「……ふん、完全に七音字のそれだな。『サタノファニ』。降霊、憑依の類か」


 エラメスが思考を巡らしている間にも那種は白龍に迫る。

 白龍は怒り狂った様に光線を発射しまくるが、どれも那種には当たらない。

 超人的な動体視力に、超人的な身体能力が追い付く事で可能となる奇跡の回避を、幾度も繰り返す。

 やがて白龍の喉元へ迫り──


「終いだ、デカブツ」


 貫いた──!

 白龍はうめき声と共に地に伏せ、粒子の粒と成って霧散した。


「ハッ!」


 那種は不適な笑みを浮かべながら傀羅を回収し、この場を離脱していった。

 エラメスは追おうと足を一歩踏み出すが……。


「……さすが、と言ったところか、クソ亡霊」


 那種は既に、エラメスを撒いていた。


 *


「こっちこっちー!」


 智也が空に向かって大声でそう言うと、人が二人落ちてきた。


「ヒッ……!」


 敵襲かと思ったのか、急に飛鳥が気絶した。

 クンネルは飛鳥を介護すると共に目の前の2人を見る。

 一人は満身創痍で今にも倒れそうなくらいボロボロの男、もう一人は──


「……ッ!」


 クンネルはゴクリッと息を呑む。

 なにせ、もう一人の少女は、不自然の塊だったからだ。

 大人しそうな雰囲気で、暴力的な気配を身に纏っている……と言ったところか。

 クンネルは飛鳥を抱えながら身を引く。

 だが、智也は警戒もゼロで気さくに話しかける。


「傀羅、那種すげーな!あのエラメスから逃げられたのか!」

 

「俺は何もしていない……やったのは全て那種だ。那種の、『サタノファニ』のお陰だ」


 傀羅はそう言い隣りの那種を見る。

 すると、那種は痙攣している己の手を見つめて、微動だにしていない。


「……那種、どうしたんだ?」


 智也は不思議そうに首を傾げる。

 そんな智也に、ふっ、と那種は笑い、静かに言う。

 その様は、いつかの七──


「カナメを、頼んだ」


 ──那種は、糸が切れた様に倒れた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ