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超能力という名の呪い  作者: ノーム
九章 神魔大戦・中編
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146話(神サイド) 神魔幻戦②


「──すまないな少年」


 冷徹な眼が、創也を射抜く。

 

「えっ……」


 幼き頃の──七音字幸太郎は、その光景に呆然とするしか無かった。

 学校から帰ってくると、家族が全員血に沈んでいたのだ。

 加えて目の前にいる男と、幸太郎を囲む何十もの大人たち。

 幸太郎は何も出来ず、手が震え、過呼吸になる。

 そんな中、幸太郎の肩に手が置かれた。


「少年、奥の部屋に行こうか」


 男に連れていかれた部屋には、幸太郎の妹が、口を塞がれ、椅子に縛られた状態で泣いていた。

 そう、泣いていた、死んではいなかった。


「きみには、色々協力してもらおうか──『身体者』くん」


 男の胸にはネームプレートがあった。

 この男と会うのはこれっきりだったが、今でも覚えている、忘れるわけがない。

 

 ──闇裏菱花。


 *


 宏人と幸太郎が対峙する中──宏人は自身の『能力』量が、信じられないほど回復している事に気が付いた。

 なにせ宏人は本日式神を三回展開し、莫大に能力消費する完全体の『黒龍』にも成ったのだ。

 だが宏人の能力量はニューマンと戦う前の状態より遙かに増していて──


 ──アルドノイズ関連か……?


 そう、なにせ先程まで宏人の身体をアルドノイズが使い、『能力』を行使していたのだ。

 アルドノイズが表面化すると、宏人はアルドノイズの残った『能力』をフル活用出来るというわけなのだろうか。


 まあ、何はともあれ。

 宏人は右手をアスファスに、左手をアルドノイズに。

 アルドノイズの方が因子が強いためか、威力が格段に上なのだが、左右で違う威力というのは、相手が混乱しやすいのだ。

 そんな宏人に、幸太郎は首を傾げた。


「……?お前式神使えるんだろ。なぜ使わない」


「なんでお前みたいな満身創痍の人間に式神使わないといけないんだよ。大事な能力は温存しとかなきゃな」


「ハッ!その大事な能力とやらは死んだら意味ねぇよなぁ!」


 幸太郎は跳躍し、空に消える。

 もう飛んでいる領域のそれは、雲によって姿が見えない。

 刹那、辺りにある全ての雲が霧散し始める、狙いが定まらない。


「というか、よくあんな怪我しといてそんな動き出来るよな……!」


 宏人は苦笑いしながら意識を集中する。

 雲が霧散しているのは、おそらく幸太郎のえげつないパンチ力から発せられる空撃。

 だから次に霧散されそうな雲の位置に狙いを定めて遠距離攻撃を──


「──俺はカナメを殺さなくちゃいけない」


「ッ!?」


 突然幸太郎の声が。

 宏人はバッと振り返り臨戦体制を──いない。

 背後に幸太郎はいなかった……まさか。


「残念、真正面だ」


 幸太郎が限界まで威力を高めたフルパンチ。

 宏人は一瞬で顔の前に両手を持っていくが、両手が鈍い音をした後、馬鹿みたいに吹っ飛ばされた。


「カハ──ッ!」


 建物にぶつかり肺から酸素が漏れる。

 両手はバキバキに曲がっており激痛が凄まじいが、これは『変化』でどうにでもなるので気合いで無視。

 宏人は立ち上がり、目の前の幸太郎を見据えて構えた。


 これでも、万全時の幸太郎の全力には程遠いだろう。


 宏人は先程の拳を受け止めてそう思った。

 衝撃の最後の最後で、幸太郎は自身の体を気遣ってか少し引いた気がするのだ。

 おそらく、七音字幸太郎は接近戦は最強。

 なら、する事は決まっている。


 ──意識を、たった一つの事に集中させる。


『変化』し直した、左手に。


 想像するは地獄の灼熱、創造するは──アルドノイズの炎。

 

「?なんかやばそっ」


 幸太郎が駆け出してくる。

 

 だがこれでも足りない、『エンブレム』じゃ、足りない。

 もっと、上位の炎、もっと、格別の熱。


 もっと──アルファブルームへ……!


 幸太郎の拳が、宏人腹に突き刺さる──のを、右手で止めた。

 またもや鈍い音、手が粉々になる。

 そのアスファスの手すら飛び越えて、宏人の腹にも凄まじい衝撃が襲ってくる。

 胃が悲鳴をあげ、何かが込み上げる、逆流する。

 だが──それでも左手は、アルファブルームは止まらない。

 宏人は、止まらない。


「──『バースホーシャ』」


 創造するは──アルファブルーム。

 

「──チッ。決着つけられなかったな──カナメ」


 爆炎が、幸太郎を飲み込んだ。


 *

 

「──ていうかさ、神ノーズの居場所ってどこで知ったんだよ」


 カナメがそう言うと、瑠璃はアルドノイズが去っていった方を指差して。


「宏人が。ダクネスに勇敢に立ち向かって聞いてきたわ」


「おぉう……そりゃすげーな。じゃあ尚更一緒に行った方がいいだろ」


「今の宏人はアルドノイズなのよ。あんな破天荒が一緒に行こうって言っても着いてきてくれるわけないじゃない。私たちにも出来る事があるはずよ」


「それもそうだが……じゃあ俺、ちょっとアルドノイズ追ってくわ。ついでにニーラグラが帰還したら一石で二鳥だし」


 カナメはそう言うと共に、駆け出していった。

 瑠璃は盛大にため息を吐き、その場に体育座りする。


「行かないの?」


 創也が首を傾げながら隣に座る。


「……私たちの主な戦力を教えてあげる。カナメ、ニーラグラ、凪、アルドノイズ、宏人よ。その全員がいないこの状態で友好的じゃない可能性のある神ノーズに会ってみなさい。皆殺しよ」


「うーん……。神ノーズからしたら宏人やカナメがいたところでだろうけど。あれ?というか俺いなくない?」


「あなたの強さは未知数だもの。それとまだ信用出来てないわ。こっちから誘っておいて申し訳ないのだけれど、別に疑っているというわけではないから安心してほしいわ」


「きみもすごい度胸だよねぇ。それを真正面にいる相手に言えるなんて」


 瑠璃と創也の会話が途切れたところで、智也が口を開いた。


「じゃあ飛鳥探すか。唯一の回復役なんだろ、貴重じゃん。しかもあいつ自身大のインドアだ。そう遠くに逃げてないはずだろ」


「それもそうね……じゃ、捜しましょうか」


 瑠璃がパンッと手を叩いてそう言うと、皆散り散りになって捜し始めた。

 

 *


「やぁ、カナメ……」


「ッ……」


 カナメが宏人を追ってから十数分後、カナメはもうほぼ原型を留めていない幸太郎と会った。

 幸太郎は建物に背を預けながら横たわっており、足は燃え尽き、手は無い。

 アルドノイズにやられたのだろうか、しかしそれにしては威力がお粗末にも見えるが……カナメはそこでこの思考を止め、幸太郎に向き直った。

 

「……最後に、聞きたい事がある」


「……何でも答えてやるさ、喉が生きてる内はな……」


 幸太郎は今にも消え入ってしまいそうな小さな声でそう言うと、ハハハと小さく笑った。

 

「何でアスファスに従っていた」


「アスファスが俺の願望を叶えてやるって言ったんだよ……」


「何で信じたんだよ、何を願ってたんだよ」


「この目で本当にアスファスが俺の願望を叶えられる確証を見たからだ……願っていたのは、唯一の家族の、妹の蘇生……」


「……」


「昔、菱花って男に拘束されてなぁ……この前アスファスに手渡されたって連絡が入ってきて……従うしかなくなった……」


「ッ!菱花……!?闇裏菱花か!?」


 カナメが目を見開いてそう言うと、幸太郎は「お前もあいつにやられたクチか」と小さく笑った。


「まあとにかく、そういうこった……すまなかったな、色々と……」


 幸太郎は言い終わると、まるで大事な事は全て話し終えたとばかりに目を瞑った。

 

 だが、カナメはまだ──


「まだ大事な事聞いてねぇよ」


「……」


「何で、何で──俺を殺そうとした。殺そうと……出来た?」


「……」


 カナメのその言葉に、幸太郎は何も反応しなかった。

 カナメは待った。

 待って待って……どれくらい経ったろうか。


 カナメは、薄々気付いていたが、認めたくはなかった。

 つい先程殺し合いをし、式神内で燃やし尽くした奴だが……共に過ごし、鍛え合った中でもあったのだ。


「じゃあな、親友」


 カナメはそう言って来た道を戻った。

 宏人は見つけられなかったが、もう疲れたのだ。

 戻っているだろうと何の確証も無く決めつけ、カナメは歩いて行った。


 幸太郎の死んだ場所には、幸太郎の死体はない。

 カナメが、止めをさしたのだ。

 幸太郎の強靭な肉体は、蘇生、復活は容易いだろうから。


 ──七音字幸太郎は、死んだのだった。

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