表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
超能力という名の呪い  作者: ノーム
八章 神魔大戦・前編
143/301

136話(神サイド) Start of war


「──『ホリズン・ブレイク』!」


 上空よりニーラグラの『カミノミワザ』が地上の五番隊隊員達をぶっ飛ばした。

 アルファブルームの『バースホーシャ』の特性が炎だとすると、ニーラグラの『ホリズンブレイク』は風だ。

 猛風で全てを吹き飛ばす、広範囲の『カミノミワザ』。

 五番隊隊員は高い身体能力でバランスを取りながらなんとか対応しようとしてみせるが、いかんせん『カミノミワザ』だ、大体が死んだ。

 残党も、ニーラグラがもう一度『ホリズンブレイク』を撃つと死んだ。

 ……宏人は、何とも言えなかった。


「ニーラグラ、幹部を何人殺せた?」


「一番隊と二番隊!あとこれで五番隊!の隊員!」


 ニーラグラは指でピースサインを作りながら、ニッコリと微笑んだ。

 まるでただ仕事をこなしてきたという顔付きで、宏人は殺しに躊躇いがあるのは自分くらいだと思った。

 しかもこれは優しさでも慈悲でも何でもない、実際もう何人も殺している訳で、宏人のこれは、ただの甘さ。

 誰も得せず、宏人だけが損をする、余計な感情。


「……宏人くん?」


「……あ、ああ。すまん、取り敢えず瑠璃のところへ戻ろう」


「そうだね」


 ニーラグラは頷くと、宏人を持ったまま先程のアパートへ直行した。


 *


「……どうした、それ?」


 宏人とニーラグラが戻ると、そこにはカミルドを縄でぐるぐる巻いている瑠璃とクンネルの姿があった。

 カミルドは死んだり気絶すらしていないが、虚な目で「父さん」と繰り返し呟いている。

 やけに不気味だ。


「いや、なんかこの人味方か敵か分からないから……。一応聞くけどこの人あなたと協力関係築いていたのよね?」


「……ああ、まあな。何よりよくここの戦力でカミルドを倒せたな。腐っても親衛隊の隊長なんだが……」


「いや、それは自分たちの力ではない。自分もそうなのだが……なぜか他人から取った能力が発動出来なくなったのだ。それも突然」


 クンネルは『操作』と念じてみるが、やはり何も起こらない。

 宏人もそれを聞いて確信に変わる──先程『重力』が発動しなかった理由が。

 そこでニーラグラがおずおずと手を上げた。


「それ、もしかしたらアスくんのせいかも……。確か随分前にルールの容量だか何とか言ってた……」


「アスくんって……アスファスの事よね?ルールの容量?よく分からないわね。まあとにかく他人の能力は使えない、でも自分のは使える。それでいいじゃないの。今までの方がおかしいと考えるべきよ。この話はこれで終わり。今はこんな事を話している余裕はない」


 瑠璃は小さく手を叩き、皆の視線を集めた。


「まずは現状確認と現状整理よ。作戦はそれから。で?宏人とニーラグラはどうだったの?」


「ニーラグラは一番隊と二番隊、俺は五番隊……のみ」


「……まあ、想像の範疇だからいいわ」


「……何とも言えない」


 宏人は少し惨めだと自分で苦笑すると同時に……胸の支えが取れたというか、どこかホッとしている自分がいる事に気付いた。

 

「何はともあれ、民間人の救出はこれでいいでしょ。門は三つ解放された訳だし、大勢の人が逃げられる。まずは相手の戦力分析からね」


 瑠璃は一度部屋の奥まで行き、数分後書類と飛鳥の裾を引き摺りながら戻ってきた。


「痛いって言ってるでしょ!?マジでやめて!」


「私もそうしたいところよ。でもそれだとあなた来ないじゃない。参加しないにしても、最低限話は聞くべきよ」


 そう、瑠璃が連れてきたのは北岡飛鳥。

 能力は『再生』、こちら側の唯一のヒーラーだ。

 だがとても死にたくないらしく、敵に目をつけられても困るからという理由で命に関わるような重症以外治癒しないと宣言して部屋に引き篭もっていたのだ。

 瑠璃は書類を机の上に投げ置くと同時に、飛鳥から手を放した。


「痛!?」


 飛鳥は涙目になりながら自分のお尻を『再生』した。

 瑠璃は資料を広げる、それはアスファス親衛隊の宏人を抜いた隊長と副隊長──計二十人。

 瑠璃はその内一番隊と二番隊、五番隊の副隊長を二人ずつ抜いた。

 そしてチラリと背後のカミルドを見て……更にもう一つ抜いた。

 残るは──


「あと十三人。あとカナメも多分七音字幸太郎を──」


「──逃した。すまん」


 すると、突然窓から静かにカナメが入ってきた。

 一瞬の事だったため、この場にいる全員が警戒したが、カナメの表示を見て静まった。

 

「そっか。ところでカナメ、どうしてここの場所が分かったの?」


「……いや、お前と宏人が分かりやすく飛んでここに入ってきてたからな。で、どうするんだ?親衛隊の奴らがここに押し寄せているけど」


 カナメのその言葉に、飛鳥の顔が青ざめ、瑠璃の額からブチっと何かがキレる音が……。


「あなたたち──」


 ──瑠璃の言葉を遮る様に、先程の五番隊の進行よりも酷い地鳴りが鳴り響いた。

 

「ッ……!」


 宏人は唇を噛み締め、打開策を模索するが──思いつかない。

 瑠璃も顔を引き攣らせながら、窓の外を見てみると──


「あー、大変ね。これは」


 およそ五百人──そう、アスファス親衛隊の全戦力が目の前にいた。

 

「は、はは……」


 これには、宏人は笑うしかなかった。

 カナメの『爆破』、ニーラグラの『風』で一斉に逃げたところで、数の暴力で叩き落とされるだけ。

 正面から迎え撃とうとも、絶対的に戦力不足だ。

 こちらはカナメやニーラグラといった個人戦最強格を抱えているものの、向こうにはアリウスクラウンや創也、アトミック、そして──城坂。


 もう、手段は、何も──


「──あ」


 そこで、やっと思い立った。

 今まで思考から除外していた、味方か敵かいまいち分からない存在への協力──それは。


「──式神展開『変化自在』」


「宏人くん!?」


 ニーラグラが驚くのも無理はない、なにせ先程宏人はこれで倒れたのだから。

 だが今回は──それが目的なわけで。


「──久しぶりだな、アルドノイズ」


「……何の用だ?向井宏人」


 宏人はアルドノイズに頭を下げた。


「頼む。今、この状況だけ──協力してくれ」


 アルドノイズは、宏人の頭を数秒見つめ──はあとため息を吐いた。


「いいだろう、協力してやる。ここにいる奴ら全員を、アスファスの部下から守ればいいのだな?」


「あ、ああ!ありがと──」


「勘違いするなよ。今回手を貸してやるのは無事セバスと合流出来たからだ。次は無いと思え」


 ──瞬間、宏人の意識は途絶えた。


 *


「──とくん!宏人くん!宏人くん!」


 アルドノイズが目を覚ますと、新野凪が涙目でこちらを見ていた。

 ……ぶっちゃけ気色悪いと思ってしまったが、この有様と雰囲気、存在からしてニーラグラだと確信した。

 宏人の中からでもギリギリ音は拾えるが、視覚情報は共有出来ないのだ。


「宏人ではない、俺はアルファブルーム……いや、アルドノイズだ」


 アルドノイズは一度自分を見て、ため息と共に訂正した。

 その言葉に一同全員が身構えるが、ニーラグラは皆を宥めてこう言った。


「アルくん、宏人くんから聞いていると思うんだけど、協力してくれないかな?」


 アルドノイズは、宏人の身体から『変化』を解く──それなりに掴んできた、『変化』の仕方を。

 そして鬼化した宏人の身体で、アルドノイズはこう答えた。


「──いいだろう。協力してやる」


 アルドノイズは、力強く、そう言った。


 改めて考えてみて、今この場にいるのはアスファスを打倒しようとしている者たち、そして──アルドノイズの敵ではないのだ。

 アルドノイズは小さく笑い、片手を上げて『変化自在』を解いた。

 座標を元の場所のままにし、一同全員が古臭いアパートの中へ転送されると──


 そこには、案の定、残っているアスファス親衛隊の四角が。


「おお、逃げたかと思ったけど帰ってきた。……何しに式神の中入ったの?」


「ハハハ!これでダクネスから教わった『式神』を二重に展開させて出来るバグの実験をする必要が無くなったな!」


「ふむ。実に興味深い──向井宏人、あなたのそれは、何です?」


「あー宏人くんかっこいいー!なにそれ、なんかアルドノイズと似てるねー」


 アリウスクラウン、創也、アトミック、城坂の順で、そう口を開いた。


 そして──


 アリウスクラウンの前にカナメが、創也の前にクンネルと瑠璃が、アトミックの前にニーラグラが──城坂の前に、アルドノイズが。


「さあ、殺ろうか!さっきまでの生温いモノじゃない、ホンモノの戦争を!」


 城坂が、高揚しながらそう叫び──火蓋が切られた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ