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超能力という名の呪い  作者: ノーム
八章 神魔大戦・前編
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135話(神サイド) Extinction


 まず宏人は五番隊のところへ。

 門を守護する五番隊の副リーダー二人は、それなりに強かったが苦戦するほどでもなく──殺せた。

 

「……クソッ」


 宏人は先程の自分の行動を思い出していた。

 手のみ『黒龍』にし、横一閃、それだけで、最高の身体能力を持つ二人の胴を分断した。

 その光景が瞼の裏に焼き付き、吐き気が込み上げ口を手で抑える。

 何より──この門の右隣には、六番隊。

 いくら覚悟はしたとはいえ、実行するのは気が引ける。

 

「だけど……瑠璃が言っていた通りだ」


 宏人が周りを見渡すと──至る所に死体、死体、死体。

 そう、アスファス親衛隊を潰さないと、大勢の人が死ぬ。

 それは、宏人の周囲の者達も例外ではない。


 何より、河合凌駕という前例がある。


 だから──しなければならないのだ。


 宏人はそのまま六番隊へ行こうとして……やめた。

 別にわざわざ六番隊から攻める必要はないのだ、そのため宏人はまっすぐ先の門を警備している八番隊の元へ向かおうと──


「ッ!?」


 その瞬間、巨大な地鳴りが宏人の鼓膜を叩いた。

 それだけじゃない、その地鳴りはこちらに向かって来て──その正体は、およそ百名の人間。


 その者達には、見覚えがある……。


「五番隊隊員ッ……!」


 そう、宏人が今さっき副リーダー二人を殺した隊の隊員達。

 それが、宏人に向かって突撃してくる。

 なぜこんな情報が早く回っているなどの疑問をかなぐり捨て、とにかく対応しようと己に『変化』を──しようとした時、聞き覚えのある悲鳴が。


「きゃああああああああああ!宏人くうううううん!助けてー!」


「……」


 そう、五番隊の前を、ニーラグラも必死に走っていた。

 まあニーラグラが悲鳴をあげているのはいつもの事だが、いかんせんそれを凪の体と声でされると……まあともかく。


「ニーラグラ!」


 宏人もニーラグラの方へ駆け出し、手を取り──


「式神展開『変化自在』!」


 五番隊が追い付く前に、宏人はニーラグラと共に式神の中へ入った──


 *


 ──同時刻。


「あなたがアルドノイズサイドの司令塔──池井瑠璃ですね?」


「……あなたはカミルド・ミグナスだったかしら?」


 宏人たちと別れた後も名も知れないアパートの中で待機していた瑠璃の元に──カミルドが現れた。

 カミルドは少し微笑んで瑠璃を見て、小さく笑った。


「……何かしら?」


「いえ、報告書にあった通りだと納得しまして。アスファス様は以前神仰教の組織を破壊したあなたを危険視されてましたが、今回は司令塔、そして凪くんの体が修復されている。神が関わっているのに確信したのに加えて──『地平線の破壊方程式(ホリズン・ブレイク)ときた。当て嵌まるのはニーラグラ様しかいません」


「へぇ、見事ね。正解よ。ところでなぜここが分かったのかしら?気配も痕跡もみっちり消したはずなのだけれど」


「僕の能力──『眷属』は契約した死者の魂と同調する能力です。それで契約している父さん──オルグトールに至ることろの建物の中に敵がいないか調べてもらっていたんです。壁すり抜けられて便利ですからね」


「……なるほどね。あなたの弱点は──そのお父さん。──クンネル」


「ああ」


 瑠璃の声に反応して、隠れていたクンネルが飛び出した。

 そう、瑠璃はカミルドに質問しているフリをして、『読心』を使いカミルドの内の声も読んでいたのだ。

 そして──お父さんの事を話している時だけ、やけに抑揚があったのが分かった。


「気が引けるけど──これは戦争よ。やって、クンネル」


「言われるまでもなく──『吸収』!」


 クンネルが右手をオルグトールに突き出すと、オルグトールがクンネルに吸い込まれそうに──それをカミルドはいち早く感知し、『眷属』を強める。


「父さん!」


 カミルドの方が一枚上手か、クンネルの『吸収』が弾ける。


「──父さん、そのまま八つ裂きにして」


「くっ……『操作』!」


 クンネルはかつて山崎智也より略奪した『操作』を発動し、剣をクンネルに向かって振り上げているオルグトールを操ろうと──


 *


「大丈夫!?宏人くん!」


 宏人は荒々しく呼吸しながら倒れ込んでいた。

 息をしようにも息をしている間に酸素が足りなくなり咳き込み、その咳で呼吸が出来なくなり……の繰り返し。

 初めてこの状態になるが、宏人はこの状態を知っている──能力残量の枯渇だ。

 今日、宏人はこれで二回式神を展開し、それに加えて能力を大量に食らう『黒滝』への『変化』も多様した。

 アルドノイズにもなったか。

 ニューマンとの戦いでは完全体だったため、それも響いているだろう。


 宏人の能力が枯渇しているためか、どんどん『変化自在』が崩壊していく──


「あわわわわ宏人くん!早く場所指定しないと、さっきの場所に──戻っちゃった……ね……」


 そう、今、宏人とニーラグラの前には──五番隊隊員およそ百名。


「クソッ──『重力』」


 宏人は最後の力を振り絞り、かつての英雄の異能を──!


 *


「えー!本当にいいのアスファス?それするとみんな更に弱くなっちゃうじゃん」


「いや、今までが強過ぎたんだ。──『能力』の多所持。これは式神展開同様神ノーズが造った法則にはない。いわゆるバグとは言い切れない、ルールの穴だ」


 アスファスは目の前の建物を見上げる。

 そこは──何の変哲もない、小さな孤児院。

 アスファスはその孤児院のてっぺんにあるアヒルの時計を見て、鼻で笑った。

 そのアヒルの時計も、もう動いてないただの古臭い時計だ。

 

「この間神界にいないからここに絞り来てみれば……正解らしいな、皮肉のつもりか」


「あー、ここ公園と隣接してるんだ」


 ダクネスは近くにあったブランコに乗り漕ぎ始めた。

 年季が入っているためギコギコと耳障りな音が響く。

 ダクネスが数回漕ぐとブランコは途轍もない速さで上下し──やがてブランコにおける一番高い部分に到達した瞬間、ダクネスは飛び降り、付近にあったジャングルジムの上に着地した。

 ダクネスはそのまま普通にジャングルジムから降りていく。


「ところで今日を選んだ理由は?これ戦争前でも出来たよね」


「まあそうだが。する事があまりないと言うのもあるが、何より今は誰にも勘繰られない、邪魔されない」


「……ふーん」


 アスファスはダクネスからの返答に珍しく間があったのが違和感に思ったが、気にせず孤児院に向かって歩き出した。

 ダクネスもそれに気付き、ジャングルジムからすぐに降りてアスファスの元へ。


「ところで、式神展開は私たち『神人』とアスファスとかの『純神』専用じゃなかったっけ?」


「ああ、だがどうやら人間に付与した『能力』のなかには簡易式神も付いてきたものがいくつかあったらしくてな、それが発展していったらしい」


「じゃー式神もルールの穴じゃん。潰さなくてもいいの?」


「潰したいところだが……いかんせんもう容量に空きがそうだ。人間に『能力』を付与するだけで『人間』という『設定』の容量はパンパンらしい」


「へぇー。じゃあそのパンパンの容量の隙間に、あと一個ルールを足せるってこと、それでその足すルールが──『能力結晶の不顕現化』って事ね」


「──ああ、だから私の組織の隊員たちの大半は、今まで己の能力のみを磨き続けた者が多い」


「え?なんか一人他人の能力頼りな子いなかったっけ?確か──カミルドくん?あの子の『眷属』、確か──他人のだよね」


 *


「……は?」


 それは、突然起こった。

 オルグトールは霧散し、クンネルの『操作』は発動しなかった。

 カミルドは何が起こったのか分からず何度も『眷属』を発動するが、いつまで経ってもオルグトールが顕現する事はない──


「と、と……父さん?」


 オルグトールは、出ない。


「とうさあああああああああああ!」




 場所は変わり、それは宏人にも──





「……うそだろ」


『重力』は、発動しなかった。


「宏人くん!」


 そこですかさずニーラグラが攻撃を放ち、宏人を連れて飛んだ。


 そう──たった今この瞬間、『能力』の法則に最初にして最後の、新たなルールが刻まれた。




 曰く──他人から略奪した『能力』を、発動する事は出来ない。

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