134話(神サイド) Explosion
──七録カナメ。
昔の話。
カナメには五つ上の姉がおり、カナメが十五歳の頃、姉──七録菜緒は『神人』と成った。
最初は意味が分からなかった、いや、菜緒の方が意味が分からなかったか。
家に突然国の首相が来て、姉を連行していった。
「……カナメくんのお姉さんは、神を超える存在と成ったんだよ。君も優秀な姉だと誇っていい」
闇裏菱花という日本の首相はそう言い、カナメの頭にポンッと手を置いた。
その時だった──カナメが覚醒したのは。
「──『爆破者』」
*
「──『身体者』!」
カナメの『爆破』の嵐を、幸太郎は遥かに人間の領域を超えた身体能力で以って避け、カナメの懐に入り込んだ。
幸太郎の全力の拳がカナメを襲うが、カナメも拳を作りそれに歯向かった。
通常ならそれではカナメの拳が粉砕されていた事だろう、だがしかし、カナメは拳に『爆破』の衝撃を付与し、一時的に幸太郎と同等の威力を出した。
お互い手を痛めながら身を引く。
「いいね!今のどうやったの?絶対それめちゃくちゃ難しいでしょ!」
「……幸太郎。覚悟はいいな?」
すると、カナメは再度周りにいくつもの『爆破』を展開した。
「……アレ?てっきり式神でも来るのかと思ったんだけど。芸がない」
幸太郎はそう言い、カナメの元へ駆け出した。
カナメはそんな幸太郎の元に『爆破』を飛ばす。
やはり幸太郎はそれを簡単に避け、カナメの懐へ──
「──花火」
先程幸太郎が避けた『爆破』らは、何一つ爆破せずに、一つの塊と成っていたのだ、それをカナメは一つに凝縮した。
大爆発。
カナメは毎度の如く自分の足元を『爆破』し離脱、外に出た。
その時にはもう隠れ家は跡形もなく無くなっていた──が。
やはり、『者』級はそんな困難も乗り越える。
「すっげーな、今のは避けきれなかった……」
もくもくと漂う煙の中から、幸太郎は出て来た。
その見た目はボロボロだが、それは灰や炭が体に付着しているだけで、幸太郎自体にそこまで負傷はない。
幸太郎は軽く顔や体に付着しているものを払った後、そのまま再度カナメへ突っ込んで来た。
カナメも今度は格闘で対応する、先程と同じ様に『爆破』を上手くコントロールし、衝撃を乗せた拳。
だが幸太郎は『身体者』、格闘術では一歩劣るが、それを『爆破』でカバーする。
幸太郎の拳がカナメの腹に食い込む。
「カハッ」
咳き込む程度まで堪え、そのまま腹に『爆破』の衝撃のみを発動、幸太郎が少し体制を崩す──そこにまたカナメの拳が炸裂。
「!?」
カナメは幸太郎の腹をぶん殴った後、そのまま『爆破』。
至近距離でのためお互いぶっ飛んだ。
カナメの『爆破』は付近で発動すると己自身をも巻き込むという欠点を持っている。
──数秒、静寂。
それから幸太郎は、屈伸やジャンプといった準備体操を始めた。
「さあ、これからだろ?」
「……ああ。もちろん」
幸太郎が最後の伸びを終わったところで、カナメはゆっくりと両手を合わせた。
「──式神展開『消炎都市』」
カナメの『世界』が構築されていき──やがて巨大な大火事の都市と成った。
全て燃え、至るところで建物が崩壊していく。
そんな、普通で、だからこそ、異端な『世界』。
幸太郎は初めて来た訳ではない、この前、カナメがいない状態でここに訪れた事があった。
その時、アリウスクラウンや創也と協力して、隅々まで、至るところ全て調べ、調べ尽くした。
──だから幸太郎は、負けない。
「……ん?何やってんだカナメ」
カナメは上空にて、幸太郎を、この『世界』を見下ろしていた。
悲しい顔で、見下ろしていた。
少し、幸太郎の背筋に悪寒が走る。
カナメは、その体制で口を開いた。
「幸太郎、俺の式神について調べてくれたんだろ?どんなだった」
「……カナメ以外に数十秒毎に落ちてくる建物に加え、カナメの『爆破』を強化するかのように出来ている油の地面。これくらいだろ?」
「……じゃあさ、もし、さっきの──花火をここから投下したら、どうなると思う?」
「あ?……まさか」
戦いの最中に置いて、初めて幸太郎は冷や汗が──否、血の気が引いた。
カナメの目が、幸太郎を射抜く。
そこで、幸太郎は気付いた。
カナメは、一才悲しい目なんてしていなかった──それは、ただただ冷たい、冷徹な目だった。
「幸太郎……俺は、お前より大切な居場所が出来た」
カナメは、ぽつりと呟く。
「うおおおおおおおおおお!」
幸太郎はありったけの力を足に込めて跳躍し、カナメに向かって手を──
「──花火」
空中にいる幸太郎に向かって、『爆破』の塊──花火が投下された。
宙にいるのに加え、カナメに向かって手を突き出していた幸太郎は──モロに『花火』を喰らいながら、地面に落ちていった。
そして──大爆発。
爆音から一瞬後、辺り一面が吹き飛び豪風がこの『世界』を支配する。
空気に火が混じり、ロクに呼吸がままならないなか、カナメは平然と未だに宙に浮いていた。
式神展開『消炎都市』の能力──それは、油分で構成された『世界』の構築と、この『世界』の影響を使用者に適用させない事。
そのためカナメは、いくらこの『世界』を壊そうと、一切影響がないのである。
「……」
前が見えない程の豪風のなか、カナメは無言で微動だにしなかった。
先程は幸太郎より大切な物が出来たと言ったが、それは半分嘘なわけで。
「……そういえば、何であいつが俺のこと殺そうとしたのか、聞いてなかったな……」
カナメがぽつりとそう呟く頃には視界が開けており──何もなかった。
この『世界』が構築した都市すらも、跡形なく消え去っていた。
これがカナメの式神展開『消炎都市』──全て燃やし、全て破壊し──全て消し去る。
カナメは地面に降り立ち、思考に耽った。
まずは宏人たちと合流……したいのはやまやまだが、いかんせんどこにいるか分からない……。
別れ際に『場所は分かるね?』とニーラグラに聞かれ瞬時に肯定したが、あの時は幸太郎に対して神経を研ぎ澄ませており、テキトーに返事してしまったのだ。
まあ、戦場は主に守龍街なのは分かっている。
『式神』解除後の場所は何処にでも指定出来たが、ボーッとしていたのだ。
ボーッとしていたから、直前まで気付かなかった、気付けなかった。
「ッ!?」
「──ハハァッ!」
背後から強烈なパンチ、一瞬で全身を『衝撃』で防いだが、相手は──『者』級。
カナメは未だ燃え続ける炎の中に突っ込んだが、カナメはこの『世界』の影響を受けない。
よろよろと立ち上がり、背中の激痛に顔を顰めた。
先程喰らった拳とは段違い、最高の構えと余裕の時間があったために貯めた拳は、『衝撃』でカバーしても仕切れない威力であった。
「……まあ、背骨がバラバラにされてないだけいいか。なあ──幸太郎?」
「ハハ!」
顔半分が肉が焼け落ち骨が見えており、身体中に痛々しい火傷を負っている幸太郎は、そのまま笑いながら超ジャンプでこの『世界』の天井へ──
「式神展開の壊し方──それは、使用者が一番守りやすいところを叩く事」
幸太郎が目指すは──先程までカナメがいた上空、そこに拳を叩き込む──!
かつて『魔王剣』所持状態の海野維祐雅がアトミックとの戦いで己の『世界』を壊すために魔王城を壊したのと同じように、見事そこは『消炎都市』の弱点で──
『世界』が、崩壊した。
そしてかつて宏人たちの隠れ家だった場所へ。
「……幸太郎」
「ハハ!何で生きてるかって?そりゃあもちろんたまたまだ!お前の花火を直で喰らったからなぁ!俺が落ちるはずだった地との接触ギリギリで抜け出せたんだよ!まあ爆発に巻き込まれてこのザマだけどなぁ!」
幸太郎はクツクツと笑いながら、続けた。
「だから俺はもう戦えない……」
「?」
幸太郎は自分の体を触り、パラパラと崩れ落ちるのを見た。
カナメもそれを見て、確実に今殺せると確信──『爆破』の構えを取る。
「だから──頼んだ、二番隊」
「ッ!?」
──瞬間、周りの木々の間から人が──百数人!
アスファス親衛隊二番隊が、カナメを殺そうと襲いかかってきた。
その間に、一人の隊員に幸太郎が炙られて走り出した。
「ッ!」
カナメはそれを追おうと、至る所に『爆破』を展開するが、いかんせん数が多いッ……!
「幸太ァァァァァァァァァァ!逃げるな!」
「ハハッ!またなカナメ、これで一勝一敗だ!次こそ決着つけようぜ!」
カナメは、その後、無言で二番隊隊員を全て蹴散らした──