130話(神サイド) Thanatos
これは、少し後の事。
時と共に、状況は目まぐるしく変わる。
アスファスが計画していた対戦相手も、死んだ者もいれば既に決着がついた者もいる。
向井宏人率いる五番隊も、人員を半数ほど失ってしまった。
だがしかし、別にいい。
なぜなら──アスファス陣営の方が、絶対的に有利なのだから──
「久しぶりだな、アルドノイズ」
アスファスの目の前には──アルドノイズ。
「……ああ」
アルドノイズはそう言い、己の陣地に戻っていく。
アスファスもそれを笑いながら見送る。
これはアスファスとアルドノイズの戦争だ、どちらかの駒が全て壊れた時、王の首を狙える。
「じゃなきゃ面白味がない」
アスファスには確信がある、アルドノイズと一対一で戦ってもギリ勝てる、と。
だから駒同士で争わせる、これも負ける気はない。
ついに。
「アルドノイズを殺せる」
そして、戦争は始まる。
*
「……凪」
例のホテルにて、待機していた凪とニーラグラの元にカナメが戻ってきた。
カナメは手に握っていた金を机の上に払うように置き、ベッドに仰向けで倒れた。
「カナメか、無事合流出来て尚よりだ。……その様子だと」
「ああ、失敗だ」
カナメはそう言い、手を握りしめる。
その手から血が垂れ、ニーラグラが無言でカナメの手を包む。
「……宏人くんに会ったの?」
「……会った。そして振られた」
「……祐雅は?」
「分からん……。すまん」
それを聞いて、凪は立ち上がった。
カナメとニーラグラが凪に注目する。
──一瞬で、凪は思考する。
アルドノイズとの戦争が、もうそろそろ始まる。
確証はないが、『Gottmord』の組織を襲ってきたり、宏人を掌握したりと、状況が目まぐるしく変わっている──こちらにとって、悪い状況に……。
圧倒的戦力不足に加え、更にこちらの戦力が削られた。
黒夜、祐雅の行方不明、宏人の寝返り……もううんざりだ。
だから、凪は。
「ニーラグラ、頼みがある」
*
「やあカナメ、久しぶりだね」
暫くして、凪らがいるホテルの窓から、一人の少年が入ってきた。
カナメは、何となく、予想はついていた。
戦いになってもそうそう負けず、連絡係としても超優秀な人物。
しかもそれが、カナメらの敵となれば、大分絞られる──いや、カナメは、分かる。
「──幸太、お前も元気そうじゃねえか」
「ああ、もちろん。カナメも元気そうで何よりだよ」
カナメが笑い、幸太郎がニヤける。
お互い、長い付き合いだ。
だから、考えている事なんて、簡単に予想がつく。
カナメは幸太郎の作戦を、幸太郎はカナメがそれに気付いた事を。
「オイお前ら、逃げるぞ」
「……カナメ?」
「……いいから、逃げるぞ!」
カナメはそう言い、二人を抱えて足元を『爆破』。
辺りに粉塵が巻き起こり、部屋も『爆破』し空を飛ぶ。
もちろん、幸太郎は逃がさない。
自慢の跳躍で簡単に同じ高度へ。
幸太郎は強敵だ、だがこちらには超能力者二人に加え神が一人、負けない。
だがそれは、幸太郎が一人だったらという話で──
カナメは地上にいる二人の人物を見る。
「ハッ!この前と同じメンバーか!いい趣味してんな!」
そう、ここにはアリアスクランと、創也が。
いや、それだけではない、なんと一番隊、二番隊、七番隊の部下たちも、こちらへ進軍してきている。
つまり……総勢300人!
「ええええ!?笑ってる場合じゃないでしょカナメ!これヤバイでしょ!」
「……死んだわね」
「お?瑠璃が起きた」
カナメは更に上空へ飛ぼうとしたが──
「『炎舞』。カーナメ、天敵が来たぞー」
アリウスクラウンがそう言うと、カナメの足元の『爆破』が霧散した。
そう、アリウスクラウンの能力である『炎舞』は、炎を操る能力。
その異能は『超能力者』であるカナメの『爆破』さえ操れる、正にカナメの天敵!
カナメはそのまま地上へ落下、する瞬間。
「『地平線の破壊方程式』!」
「「「ッ!?」」」
カナメの脇の凪の手から、目に見えない波動が。
その波動は全てを薙ぎ払い、地上にいた人間を潰す。
「これは……『カミノミワザ』ッ!」
創也は駆け出し、アリウスクラウンの前に出て『勇者剣』波動を斬る。
すると──
「逃げられたな!」
「逃げられたなじゃないわよ……」
そう、創也とアリウスクラウンの目の前には、死屍累々の光景が広がっていた。
先程まで300人ほどいたアスファス親衛隊の部下の半分近くが、無惨な姿で死んでいたのだ。
アリウスクラウンは絶対またアスファスに怒られる……と思いながら、ふと辺りを見回す。
「というかアレ?幸太郎は?」
「お?いないな。カナメたちを追っていったんじゃないか!?」
「さすが。ゆうしゅっう!」
*
宏人がやるべき事は、主に四つ。
第一に、アルドノイズ側の主要の敵を一人倒す。
これはアスファスとアルドノイズの戦争だ、まずアルドノイズがいなければ成り立たない。
そのため宏人はアルドノイズとして活動しなければならない事から、まずアスファスに課せられた任である、相手側の主要人物を一人以上倒す、のを達成しなければならない。
第二、コット・スフォッファムを探す。
ダクネス曰く、どうやらコットはダクネスとの戦いで逃げきれたらしく、この世界のどこかにいるらしい。
アルドノイズより『バースホーシャ』を解禁してもらうにはコットを探し出す事が条件なため探しているが、ぶっちゃけこれは後回しでもいい。
第三、神ノーズに会う。
これについてはやろうと思えば出来る、なにせもう既にダクネスから場所を聞いている。
──そして、第四。
「『死神』カールデス・デスエンドの片割れ、セバス・ブレスレット。また会ったな」
そう、セバス・ブレスレットを仲間にする。
今、宏人の目の前にはセバスがいた。
「あなたは向井宏人です、ね」
セバスは不気味な笑みを浮かべながら、気持ちの悪い声色で話す──第一形態、かと思われたが。
「──と言うとでも思ったか?」
「……ッ」
セバスはそう言い、背に背負っていた鎌を取り出す。
それに対し、宏人も苦笑いで戦闘態勢を取る。
忘れもしない、一年前──この男に、完敗した事。
何も出来なかった、逃げる事しか出来なかった、そして──ニューマンも失った。
「オイ、ニューマンはどうしたよ?」
「……ここにいるよ、宏人」
すると、セバスの背後から一人の少年が出て来た。
もちろん、ニューマン・エーデン。
ニューマンはセバスから鎌を受け取り、構える。
……宏人の顔から、冷や汗が滴れる。
「まさかとは思うが……ニューマンと戦うのか?」
「そのまさかだ。今の私と戦っても貴様は勝てん。……何より、私が戦いたくない、アルドノイズ様をいつの間にか傷付けてしまう恐れがあるからな。それは耐えられん」
セバスは宏人を睨みながらそう言う。
前回の出来事から、セバスがアルドノイズに忠実に仕えている事は分かった、だから宏人を憎んでいるのも分かる。
──だから今回宏人は、それに付け込む必要がある。
上手い具合にアルドノイズと協力し、セバスを仲間に引き入れなければならない。
それも……明日までという期限付き。
そう、明日の戦争前に、このミッションをコンプリートする!
深呼吸をする。
ここは廃ビル、どうやら人間の頃のセバスの家だったらしい。
空気はおいしくないが、特段不味い訳でもない。
ニューマンが器用に鎌を回転させる。
そんな宏人とニューマンを、セバスが見つめる。
そして、宏人は構える。
「──『変化』」
身体を元の、悪魔と融合した姿に。
ツノが生え、体中が黒くなり、歯が鋭くなる。
そんな完全な悪魔に、とても似合わない程神々しい剣を手より生成する。
──神剣、『白龍』。
「さあ、戦ろうか宏人」
「ニューマン、すまんがぶっ飛ばさせてもらう」
「……では両者。──開始」
セバスの合図と共に、二人は互いに向かって駆け出した。