123話(神サイド) 睡魔
「退がってろ凪!」
カナメはそう言い、戦闘態勢を取る。
凪もいくら体がぼろぼろでも能力ぐらいなら出せるため、警戒した。
「カナメも冗談を言うようになったな。ここは室内、しかも地下だ。お前の『爆破』なんぞ使ったら自分もろとも生き埋めになりかねんぞ」
「ッ……!クソ」
カナメは舌打ちをした。
まあ確かに、いくらここが国が菜緒を監禁する場所といっても、どこまで頑丈に作られているか分からない。
カナメは渋々、戦闘態勢を解く──ふりをして。
「『爆──」
「やめなさい、カナメ」
「!?菜緒!」
カナメが『爆破』しようとした瞬間、菜緒がカナメの前に現れた。
「何のつもりだ?あんたなら生き残れるだろ」
「いやまずそう言う問題じゃないでしょ……。ここ私の家的な場所だし。と言うか何より……私は公平な者でして」
そう言いながら、菜緒はエラメスとアスファスの前に立った。
「凪たちにも協力するし、もちろん──アスファスたちにも協力するよ」
*
「宏人様、五番隊のあの隊長いなくなったみたいですが大丈夫ですか?」
「なんやっけ?黒夜だっけ?」
「コラ、様を付けろ。元五番隊隊長に加えて宏人様のご友人だぞ」
「……」
凪とカナメが四苦八苦している中──宏人は面倒な部下二人と食事していた。
そう、宏人の持つアスファス親衛隊第六部隊のメンバーだ。
特にこの二人は百人の中でも際立って強く、空いた幹部の席に座ってもいいと思われていた数名の中の二人。
まあ、突然横から城坂が入ってきたわけだが。
「まあ、黒夜は自由奔放な性格してるからな。いなくなる事くらいあるだろ」
「そんな軽いものですか……?というか、アスファス様それで許しますか?」
若干引き気味にそう言う真面目そうな口調の男が昌斬星哉。
「別にいいんやない?アタイ知っとるよ、アスファス様が城坂の復帰を二つ返事で許可したって」
そしてこの方便口調の女が革緑茅。
二人とも戦いの中では実に頼もしいというのに、日常では面倒。
……将来的に敵対するのが怖いくらいの頼もしさだが。
「もういいだろ、黒夜のことは。何度も言うがあいつは自由奔放が取り柄。そこら辺でうろちょろした後、城坂みたいにまるで自分は悪い事してませんって顔で戻ってくるだろ」
宏人はそう言い終わると、席を立った。
「任務なん?」
「ああ、この戦争前にな……。じゃあ行くぞ、星哉」
「はい!」
*
「今回の任務はここ、旧京都の街、守龍街にて、ある能力者を倒す事だ」
「うわー。僕初めて守龍街来ました。すごい活気ですね」
昼食から一時間後、宏人と星哉は守龍街に来ていた。
宏人は最近来たばかりだが、ここは用がないとまあ行かない。
星哉は一時興味深そうに辺りを見渡していたが、ハッと姿勢を整えた。
「すみません!任務なのにまるで観光みたいにはしゃいでしまって……」
「いやいいよ。今回の『睡魔』の能力者は夜しか行動しないらしい」
「はあ……。単純に夜の方が行動しやすいからなのか、それとも能力が関係しているか……」
「後者の推測は的を得てると俺も思う。何せ『睡魔』なんて強力な能力が真っ昼間から連発されちゃ勘弁だ」
そう会話しながら、宏人らはよく『睡魔』が現れるという守龍街の中心から外れた裏通りへ来た。
『睡魔』。
その能力は、そのまんま相手を眠らせる能力だ。
その能力の存在、発動条件、持続力共に全然分かってないが、ここ最近の死体がそれを物語っていた。
──ここで最近増えている死体の殆どが、寸前に眠らされた後切り刻まれる様に殺されていたのである。
アスファスは、これを『睡魔』の能力者だと判定した。
そして今回の任務で、可能なら『睡魔』を味方につけろ、とも言われた……。
「ここ、黒夜と来た時結構荒らしちゃったとこだ……」
実に薄暗い、まんま裏通りだ。
だがやけに生活臭があるのは、やはりここは何らかの組織の陣地なのだろうか。
黒夜が締め上げた漢たちの中に、リーダー格がいなかった事を祈ろう。
この時期に面倒ごとは勘弁だ。
「さすが宏人様です!あの無能力者ながらも屈強な肉体を持つ男たち相手に!」
そんな俺の気も知らず、星哉は目をキラキラさせながらそう言う。
「いや全部倒したの黒夜な」
「……それでもです!」
何がそれでもなんだと思いながら、チラッと辺りを見渡して──
「ッ!」
突然の殺気を感じ、宏人は身を屈めた。
するとさっきまで宏人の頭があった部分を小さくナイフが通り抜けていく。
それは後ろの激突し、コトンと地面に落ちた。
「このナイフ……」
「敵襲です!宏人様、お下がりください!」
宏人がナイフを注視していると、星哉が前に出た。
星哉は腰に下げていた鞘から長剣を抜き、警戒する。
長剣──アスファス親衛隊部隊隊員全員に配られる物だ。
そう、アスファス親衛隊の隊長以下の位の者の八割はこの長剣を使って戦う。
何より、部隊隊員のほとんどが『身体能力上昇・上』。
『超』はたまにいて、『特大』なんて2、3人いるかいないかといった具合だ。
そして──星哉は2、3人いる『特大』の内の一人。
「『身体能力上昇──特大』ッ!」
星哉はそう叫ぶと共に、彼方此方に乱暴に剣を振る。
『特大』の凄まじい風圧が辺りの物をぶち壊し、周りを丸裸にした。
だが相変わらず敵の姿が見えない。
「ッ!」
瞬間、星哉の目の前に少女が現れた。
少女は一瞬でさっきと同じようなナイフを10本発射。
だが『特大』を持つ星哉がそんな少女の投擲なんか当たるはずもない。
星哉は圧倒的な動体視力で以って躱そうと──
「ッ!……嘘だろ」
「星哉!」
少女の5本のナイフが、見事星哉の身体のあちこちに命中していた。
「……油断してました。すみません……」
星哉はそう言い終わると、ガクッと力なく地面に倒れた。
星哉の手から落ちた長剣を、少女は拾い上げしげしげと眺めた。
そしてそのまま星哉の首に──
「させるかッ!」
「はい掛かったー」
宏人は全力で星哉の元へ駆けつけると、今度は宏人の目の前に例のナイフが3本。
「ッ!『変化』!」
宏人は一瞬で手を神剣『白竜』レプリカにし、ナイフを全て吹き飛ばした。
攻撃手段はナイフだけか──いや、この異様な速さのナイフはなんだ?
なぜ、星哉の『特大』の動体視力を凌駕した──?
「あ」
答えは、簡単じゃないか。
「お前も『特大』か!」
「正解でーす、お死にくださーい!」
気付いた時には、遅かった。
宏人の目の前には星哉が敗れた量と同様の10本。
ヤバい、負ける──なんて、思わなかった。
ただただ、いつものように、自分の能力を使うように──
「『変化』」
──ああ、そうだ。
海野維祐雅に首を狙われた時も、同じような感覚に落ちた。
簡単に言って、変な感覚だ。
二重人格の内一人の存在を強く意識したような、そんな感じ。
いつも、俺は、ピンチの時に、無意識に──
──宏人に直撃するはずだった6本のナイフが、霧散した。
「えぇ!?」
少女の顔が衝撃に染まる。
そんなのお構いなしに、宏人は一歩踏み出し──
「この『睡魔』詐欺師が」
少女をぶん殴った──!




