111話(神サイド) 正体
対立するカミルドと黒夜の横を、急速な何かが通り抜ける。
「ガッ!?」
「「ッ!?」」
それは宏人にぶち当たり、吹っ飛ばした。
奇声を発しながら転がる宏人を横目に、黒夜とカミルドは警戒を強め辺りを見渡す。
するとそこにいたのは──
「向井宏人、落ち着け」
──凪。
新野凪。
能力名──『模倣者』。
「『魔弾』ッ!」
「父さん!『破矢』!」
カミルドは凪にノータイムで同時に発射。
悪寒、恐怖、本能、どれでもいい。
何かが、カミルドを突き動かせ、凪に向かって攻撃したのだ。
それに対し凪は『空間切断』と呟き、空間に裂け目を入れなんとはなしに対処した。
そんな凪に、カミルドは緊張を高める。
さまざまな神の『カミノミワザ』を操るこの男に、勝てるビジョンが見つからない。
──『空間切断』。
それは、その能力は、『力神』ソクラノトスの『カミノミワザ』。
「ガルル……ッ」
そして、ついに──宏人が動き出す。
「ケモノか」
「ガアアアアアアア!」
「いや──哀れな子羊か」
凪はそう呟きながら、襲い掛かる宏人に戦闘態勢を取る。
そして楽しそうに手をクイクイとする。
まるで──今まで何回もやってきたかのように、慣れているように。
「久しぶりにやろうか、宏人」
「『ガアアアアアアァァァァァア』!」
宏人は叫びながら『無重力』により宙を舞う。
それと同時に『変化』にて手と足を『銃』に変え──撃つ!
空中より放たれる何十もの弾丸が、地上へと無慈悲に注がれる。
「ちょッ……!それは勘弁ですッ!」
「あはははは!やっぱ宏人兄さんすげー!」
カミルドと黒夜は一目散に逃げる。
それを凪はなんなく『空間切断』により回避。
弾丸の雨が止む。
それと同時に凪は『空間切断』によってこじ開けた空間に手を入れ──
「『空間切断』」
「ッ!?」
そこからさらに『空間切断』。
宏人の真後ろの空間に使用し、自分が手を突っ込んだ空間と繋げる──!
「堕ちろ」
「──ッ!」
そして凪はその空間に『流水群』!
神水を纏ういくつもの隕石を、避けようのない空間に投入。
宏人はモロに全て食らい、地へと叩きつけられた。
宏人の身体の至るところが壊れた生々しい音が響く。
「……宏人兄さん?」
そこから数秒、数十秒経っても、宏人は起き上がらない。
そんな宏人を心配するように、不安そうや黒夜の声が響く。
「あなた、新野凪ですよね?」
そんな黒夜をよそに、カミルドは凪に話しかけた。
凪は無言で頷く。
「では、さっそく言わせてもらいますが──」
「──ッ!?」
カミルドが話している途中、殺気を感じた凪は咄嗟に退避。
するとその一瞬後、自分の首があった部分をオルグトールの剣が通り過ぎた。
「……何の真似だ?」
凪はそう言った後ため息を吐いた。
そんな凪にカミルドは舌打ちをしながら凄む。
「アレは僕の復讐対象です。邪魔しないでいただきたい」
「そうは言ってもだな、宏人はお前じゃ対処出来ない。──死ぬぞ?」
「やってみないと分からないでしょう。それに僕は父さんという─ッ!」
瞬時、凪とカミルドは話を辞めて横に跳ぶ。
だがカミルドは一白遅かったのか、半身に攻撃を受ける。
攻撃──地獄の業火。
放った者は──宏人、否。
「アルドノイズ。目が覚めたか」
そう、凪の目の前に悠然と佇んでいるのは、アルドノイズ。
宏人の身体を『器』とした姿の。
そんな宏人──アルドノイズは苦虫を噛んだ顔をしながら、凪を睨みつけた。
「……ああ。癪だがな」
「……?どういうことだ」
「お前には関係ない。黙って戦え。『バースホーシャ』」
アルドノイズは容赦なく『カミノミワザ』を連射。
なんなく凪は対処するが──カミルドが動かない。
「チッ……!」
凪は『空間切断』によりカミルドを回収、そしてそのまま『重力操作』で以って黒夜にカミルドを渡した。
マトモテリオの『カミノミワザ』──『重力操作』。
「わっと」
黒夜は自分に向かってきたカミルドをキャッチ。
その見事な曲線と、受け取った時点での衝激の軽さから『重力』的な異能を使ったと理解する。
それと同時──カミルドの右半身が焼け焦がれていることも分かった。
「ッ──!」
カミルドは痛みを堪えながら呻く。
そんなカミルドを見て、黒夜は──無感動。
そう、黒夜は宏人以外どうでもいいのだ。
──瞬間。
「チィィッ!向井宏人、干渉するな──かはっ……!」
アルドノイズが、凪の『模倣者』によって作られた『カミノミワザ』で押されていた。
宏人の身体が、どんどんと痛め尽くされていく。
黒夜はチラリとカミルドを見る──気絶している。
「……」
黒夜はそのままカミルドをそっと地面に置き、歩き出した。
何度も、何度でも述べよう。
黒夜という少女は、向井宏人以外どうでもいいのだ。
それすなわち、向井宏人はどうでもよくない。
向井宏人だけは、絶対に守らなくてはいけない。
「ナギッ……!」
凪はさきほど、宏人を傷付けた。
理由は単純、宏人の理性が失われていたから。
しかしそんなこと──まったく関係ない。
黒夜にとっては、まったく関係ないのだ。
だから──宏人を守るという指令がある以上、上司である凪に逆らうのは致し方ない。
「凪。ちょっと待って。宏人兄さ──宏人様の対処は私もやります。あなたは過剰過ぎて見ていて不安です」
「……相変わらず、お前の宏人好きには困ったものだな」
そう──黒夜。
牙咲黒夜は、別名──セカンド。
アスファス親衛隊にスパイとして潜入した向井宏人の──スパイ。
*
アルドノイズが向井宏人の身体の自由を掌握するのと同時刻──アスファスは気付いた。
「フフッ……」
アスファスは堪えるように口元に手を置いた、が……。
「フハッハッハッハ!やはり!やはり貴様はまだ生きている──アルドノイズ!」
アスファスは涙を零すほど笑う、笑い続ける。
最近音沙汰が一切なく、何かしらあったかと思われていたアルドノイズの気配を感じた。
つまり──アルドノイズは、アスファスの好敵手は、まだ生きている!
「待ってろアルドノイズゥ!──決戦の日は近いぞ」
アスファスは、笑う、笑い続ける。
「あはは。アスファス壊れたね、エラメス」
「口を慎めダクネス。アスファス様は今、幸福絶頂にあるのだから」
*
アルドノイズが向井宏人の身体の自由を掌握する直前──宏人の精神世界にて。
「俺の方が頑張った──努力した方がいい、か。なるほど。シンノ凪か」
アルドノイズは少し思考し、黙る。
今──この身体、この状況で、勝てるか否かを。
そんなアルドノイズの思考を破るように、宏人は言った。
「んじゃ、凪によろしく言っといてな」
「……は?」
「そしてぶっ飛ばされてここに戻ってこい。俺が俺の身体を使うのは、それからでいいぜ」
──瞬間。
アルドノイズは、宏人の身体の主導権を握っていた。
そう、宏人が突然抵抗を辞めたのだ。
凪に、新野凪に──勝てるものなら勝ってみろ、と──
「ふざけるなよ……向井宏人ッ!」
アルドノイズは、怒りとともに、地獄の業火を撒き散らかす。
そして、証明するのだ。
たとえどんな状況にあろうと、神は人間如きに遅れをとらない、と。
「アルドノイズ。目が覚めたか」
「ああ──癪だがな」
まるで向井宏人が、自分を試しているようで。




