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超能力という名の呪い  作者: ノーム
六章 アスファス親衛隊編
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110話(神サイド) 崩壊


「さあ、そろそろよ」


「……」


「元気ないわね」


 宏人は池井瑠衣とともに、巨大な扉の前にいた。

 目の前の扉は壮大で黄金であり、隙間からは眩しすぎる光が漏れている──アスファスに会うための道。

 そこで、宏人は鬱陶しく話しかけてくる瑠衣をギロリと睨んだ。


「怖いわね」


 宏人は自分でも感じ悪いと思いながらも、感情の整理が上手く出来ない。


 なにせ、昨日は──


「あら、目つきが変わったわね」


「……さっきからうるさいぞ。失敗は許されないからな──いや、俺が許さない、殺す」


 宏人がそう言うと、瑠衣はニコッと笑った。

 小さく「元気じゃない」と言ってる瑠衣に宏人はため息を吐く。

 こういうところが、宏人が瑠衣を鬱陶しく思ってしまう要因だ。


「はいはい、分かったわよ。──じゃあ、行くわよ?」


「ああ」


 宏人がゴクンッと息を呑むとともに、瑠衣は『扉』を開いた。

 その先は──


 *


「宏人くん!」


 カミルドは突然の事態にしばらく唖然としてしまったが、ハッと我に帰りオルグトールに死者の腕を斬らせた。

 死者は糸が切られた操り人形のように、ドサッも膝から崩れ落ちた。

 しかし腕はまだ宏人の背に入ったままだ。


「宏人くん!大丈夫ですか!?」


 カミルドは黙りこくった宏人を心配しながらそう聞く。

 だが、宏人から返事はない。

 貫通していないため即死することはないだろうが、気絶するほど宏人は柔ではないはずだ。

 だから今優先すべきは──


「フィヨルドおおおおお!」


「来なさい!挑戦者よ!向かい撃て!我が盟友、ニカイキよ!」


 カミルドが『破矢』を撃つとともに、オルグトールも『八戒群』で剣を構築しフィヨルドに斬りかかる。

 ただでさえ何物でも壊す事の叶わない『八戒群』による攻撃。

 それがフィヨルドに当たる直前──


「──ッ!?」


 カミルドを中心とする空間の重量が、何十倍にも膨れ上がった!


「ッ!これは『重力』!?」


 カミルドは地面に吸い寄せられるように叩きつけられ、オルグトールの『八戒剣』も地面に叩きつけられ粉々になり霧散した。

 オルグトールの攻撃は空振りで終わる。

 しかし──『破矢』は止まらない。


「重力が威張れるのは、この『世界』のモノにだけです!」


 カミルドの神速の『破矢』は、見事フィヨルドの腹を突き破った。

 フィヨルドはそのままぶっ飛び、コロシアムの端っこに衝突。


 当然無事では済まない。


 ……はずだが。


「……宏人くんの『重力』が効かなかった理由がすごく分かりました」


「はい、なんと私も死者です。『呪い』は素晴らしい、死して強く、美しく輝く。『能力』では実現しえない、自分で死者となった私を操る力。──素晴らしいッ!」


 フィヨルドはそう言いながら、何ともなかったかのように歩いてきた。

 かつての英雄、そして──仲間であったニカイキとともに。


 ──カミルドは、何もできない。


 『破矢』なら多少有効だと分かったはいいものの、まず撃てない。

 オルグトールは幽体のため『重力』は効いていないが、これも幽体のため攻撃手段がない。

 『八戒群』は、『重力』の効果の対象だ。


 式神は……もう出来そうにない。


 出来たとしても状況は悪化する一方だろう。


 なにせ、同じ『重力』の能力を扱う宏人に、手も足も出なかったのだから。


「僕は……無力だ」


「ほんとそれね!」


 ──瞬間、この世物質ではない何かが、フィヨルドに向けて放たれた。


 フィヨルドは死体。

 どんな攻撃がこようと、瞬時に自己再生が可能だ。

 しかし──


「これは──!?」


 フィヨルドとオルグトールは、その何かに一瞬で消滅させられた。

 カミルドは、思わず唖然としてしまう。

 これが、僅か半年で幹部にまで上り詰め、史上最年少の──


「あなた、そんなに強かったんですね──黒夜くん」


 カミルドの目の前には、ふふんッと鼻を鳴らす黒夜がいた。

 そう、今の攻撃は、黒夜の『魔弾』。

 その名の通り、わけのわからない物質の塊を投げる能力である。


「僕に言わせてみるとこのジジイはクソ雑魚だね。そしてそんなジジイに苦戦するきみはそれ以下だね!」


「あはは……ぶっ殺してやりましょうか?」


「え!?やる?やっちゃう?」


 カミルドがふざけて言うと、黒夜は待ってました!と言わんばかりに上機嫌に答えた。

 カミルドはあはは……と誤魔化した後、宏人の元に駆け寄った。

 黒夜も遅れて追いつく。


 宏人は──直立不動で突っ立っていた。


 それもさっきまでの位置と何一つ変わらない。


「宏人くん……?」


 カミルドは不審に思い、宏人の肩に手を置こうと──


「ッ!?」


 ──したが、殺気を感じ一瞬で戻す。

 だが、一白遅かったか腕から血飛沫が飛んだ。


「くぅッ……!」


 カミルドは痛みを堪えながらも一瞬で戦闘態勢を取る。

 ──だが、今の攻撃はどこからきたのか理解が出来ない。

 そう、どこにも敵が見つからないのだ。

 カミルドの視界には、黒夜と宏人しか──


「宏人兄さん……?」


 そこで、黒夜がそう呟きながら宏人の顔を見た。

 釣られてカミルドも宏人を見る。


 そこで、やっと、カミルドは理解した。


 血が滴る自分の腕。

 これは誰がやったのか。

 

 宏人の眼が、紅く光る。


「ガッ……!」


 宏人の頭から、2本の禍々しいツノが生える。


「ガァ……!」


 宏人の背中から、2本の翼が生える。


「ガァァァァァァァアアアアアアアア!」


 宏人の身体が、紅と黒に染まる──!


 否、戻る!


「これが、『変化』が解けた宏人くんの姿ッ……!」


 呆然とする黒夜を横目に、カミルドはそう呟いた。

 しかし、その声に悲嘆はこもっていない。


 なにせ──カミルドは、今、笑っているのだから。


「あっはははははは!まさかまさか!宏人くんと協力を開始した初日に、しかも数時間後に達成されるとは!」


 そう、カミルドの目標──それは、アルドノイズを復活させ、殺す。


「ありがとうございます宏人くん。これで、やっと復讐が出来ます」


 カミルドは『眷属』で以ってオルグトールを顕現させ、戦闘態勢を取る。

 宏人は、精神界でアルドノイズと意識の取り合いをしているのか、うめき声を上げながらしゃがみ込む。

 カミルドは好機と思い、オルグトールとともに宏人に向かって走り出すと──


「何のつもりです?──黒夜さん」


「きみに宏人兄さんは触らせない。──絶対に」


 黒夜はかつてないほど真面目な顔で、そう言った。


 *


「久しぶりだな。──アルドノイズ」


「……」


 どこか、にて、宏人とアルドノイズは対峙していた。

 分かっている、ここは魂の場。

 本来なら入れない空間。

 だが二つの魂がせめぎ合っている今となっては、ここは話し合いの場だ。


「一年。黙り過ぎて声の出し方分からなくなったか?」


「調子に乗るのもいい加減にしておくことだな小僧。一年前に宣言したことすらまともに叶えられていない豆分際で」


「……ひじょーに耳がいたいな」


 アルドノイズに言われ、宏人は苦笑いで頭を掻いた。

 そう、宏人とアルドノイズがここに来るのは、今回で二度目だ。

 

 その時、宏人は誓ったのだ。


『必ず、コット・スフォッファムを──』


 そこまで思い出して、宏人は頭を振った。


「だが、まだ期限じゃなあ。だろ?」


「……それこそあと1ヶ月強だろうに。ここまで何も成し遂げられていない。それで俺は十分だ」


「なにが?」


「貴様の実力を推し量るのに、だ」


「……」


 そして、両者とも沈黙した。

 宏人は言い返す言葉がない、アルドノイズはそんな宏人をただ見つめるだけ。

 すると、突然この『世界』にヒビが入った。

 あちらこちらに、大きな亀裂が走る。


「まあ、貴様も頑張った方だろう。なにせ1年弱俺をここに封じ込めたのだからな。そして今から──俺がお前を一生この空間に閉じ込めてみせよう」


「──1年弱?頑張った方?お前こそ、調子に乗るのもいい加減にしたほうがいいんじゃねえか?」


 そこで、さっきまで俯いていた宏人が顔を上げた。

 

「頑張った方がいいのは、お前の方だよ。アルドノイズ!」


 ──瞬間、現実世界で、ある男が舞い降りた。


 少し長い流麗な蒼色の髪を靡かせる──


「『模倣者』発動。『バースホーシャ』」

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