108話(神サイド) 『呪い』
ある日の朝、宏人は急いで凪の元へ駆けつけた。
なんと、付近から莫大な存在が近づいてきているのが分かったからである。
怪獣か、魔人か、はたまた神か。
それほどの存在がこの『組織』に来ようとしているのだ。
なんとしても阻止しなければならない。
「凪!」
「……ん?なんだ朝っぱらから」
宏人は凪の部屋に入りバンッとドアを開けると、凪がゆっくりとベットから出て抗議してきた。
「なんだじゃねえ!何も感じ取れないのか!?」
「ん……?……ッ!まじか」
凪はハッと何かに気付いたかのようにしたが、すぐに落ち着きを取り戻してベットに入り直した。
宏人はそんな凪を不思議に思いながらも首根っこを掴んで玄関へ。
強く引っ張ってしまったからか凪の顔が真っ青だが、呑気なことを言っている場合ではない。
何かが、来る──!
「きみたちが『YES』だよね!」
突然、神の一柱が組織に突入してきた。
無論、宏人はすぐに戦闘態勢に入ったが──凪が前に出て手で制してきた。
「ニーラグラ、驚かすな」
「凪くんひどーい!こーんな可愛い子に──ていうか神に!その口の利き方は!」
すると凪とその神──ニーラグラは会話し始める。
さすがに宏人は対応に困り、おろおろしていると、凪は察して説明した。
「こいつは『知神』のニーラグラ。一応神の一柱だ」
「一応……?」
「ああ、一応」
「一応じゃないよ!正真正銘の神様だよ!」
宏人と凪が話していると、ニーラグラは抗議するように割って入った。
宏人はまるで神様とは思えないニーラグラに苦笑いする。
まあ今まで会ってきた神が濃い奴ばかりだったというのもあるが……アスファスとか、アルドノイズとか。
そう言えば神は八柱いるんだったかと宏人が思っていると、ニーラグラは何かを思い出したようにハッとした。
「そうだ!凪くん!ひろ……とくん!だったよね?」
「……まあ」
「宏人くん!大変なの!」
そう言い、ニーラグラはバッと自分の背後に手をやる。
一々大袈裟な仕草をする人……神か、そう思った。
そしてその背後を見てみると──二人の重傷人がいた。
「って──祐雅とカナメ!?」
凪はそれだけ言うと急いで組織内を走っていった。
必然、ニーラグラと宏人で二人きりの時間が作られた(意識不明の重症人は除く)。
宏人は気まずくチラッとニーラグラを見ると、ニーラグラは興味深そうに宏人を観察していた。
両者目が合い、ニーラグラは不審に思われたと解釈したのか慌てて説明し始めた。
「ごめんね、ほら、きみってやっぱり神の間だと有名人だからさ」
「……有名人、ですか?」
宏人は思わぬ単語に首を傾げた。
そう言えば以前ダクネスにもそのようなことを言われたなとも思ったが、やはり思い当たる節はない。
……いや、あった。
「え?まさか俺がアルドノイズ吸収したことって知られているんですか?」
「……え?」
宏人がテヘヘと後ろ頭を掻きながらそう言うと、空気が固まった。
宏人もわけが分からず固まった。
しばらく両者とも固まり、沈黙の時間が続き──
「ええええええええええええええええ!?」
「ッ!?」
突然ニーラグラが発狂した。
「どうした!?何があった!」
そして凪が長野華を連れて戻ってき、そう言った。
もちろんニーラグラはそんなこと知らない。
宏人は自爆したのだ。
そのことを知った凪に、宏人は盛大な説教をくらい、ニーラグラも言いふらすことはないよう強く言われていた。
やはり、ニーラグラは神というか……人間の少女感がすごいと、改めて思うのだった。
これが、宏人とニーラグラの初対面。
*
「よし、ぜってーぶっ殺そうぜ!」
祐雅が力強い声でそう叫ぶ。
もちろん、その声はアトミックの他二人に向けての言葉である。
……だが、無反応。
「オイ、ニー……瑠衣はともかく、カナメはどうしたよ?腹でも痛いのか?」
「おう、ぜってーぶっ殺そー……というわけにはいかないんだよ、祐雅」
カナメはそう言いながら、『断罪人』を『爆破』した。
そう、今祐雅とカナメ……一応瑠衣は、二体の『断罪人』と戦っている最中なのである。
アトミック最強の業である『断罪人』は、実は対して強くない。
瑠衣からしたら脅威だが。
「アトミックさんと戦ったら私たち無事じゃ済まないでしょ?これから大事な任務あるのに?もう、ほんとーに祐雅はヴァーカなんだから──って痛あああああああ!」
瑠衣がカナメの説明を補足すると、祐雅が瑠衣の頭をグリグリした。
瑠衣は涙目で頭を押さえながら説明を続ける。
「祐雅はこれ聞くと興奮状態になるから言うなって言われてたから言わなかったけどさぁ、今はアトミックさんを倒すんじゃなくて──アングルくんの奪還」
アングル、その言葉に祐雅はピクリと眉を動かせ──はぁとため息を吐いた。
次の瞬間、この『世界』にヒビが入る。
何もない空間に、まるでガラスが割れたようなヒビが。
そんなヒビを創り出す能力──人間は一人しかいない。
アングル。
祐雅はチッと舌打ちしながら呟く。
「やっぱり、俺あいつ嫌いだわ」
「──『破壊』」
そんな言葉とともに、この『世界』にアングルが侵入してきた。
「よぉ、ひっさしぶりだなあああああああああ!カナメ、瑠衣──祐雅あああああああああ!」
*
宏人とカミルドは、戦闘終了後再度コロシアムに来ていた。
ここで巨大な『能力』が展開された気配がしたからである。
「──式神だな」
「そうですね、それも強大な。アトミック様でしょうか」
そう言いながら、二人は辺りを彷徨く。
すると、背後よりコツコツと人が歩いてくる音が。
「「──ッ!」」
気配は──感じたらことが出来なかった。
二人はすぐさま臨戦態勢を取る。
そんな二人に、音の主は口を開いた。
「コロシアムとは、本来ならトーナメント、ましてや一対一ではありません」
男は続けて言う。
「コロシアムとは、本来なら多対一。勝つために協力してはいいでしょう、しかし勝者は一人。二人で優勝、準優勝、第三位、そんな緩いシステムは存在しません」
男は遂に宏人たちから見える距離まで来た。
その男は黒ハットに黒いスーツを着込んだ老人だった。
──老人。
その姿を見た瞬間、宏人は『重力』を使った。
便利かつ使い勝手がよく、能力のコスパもいい優れた能力。
宏人が最近よく使う最強の業。
なにせ──生きとし生けるものは、重力に抗うことなど出来ないのだから。
その重力で以って、宏人は老人を潰した。
しかし──老人は動く素振りも見せず、何事もなかったかのように突っ立っている。
「マジかよ……!」
「私の名はフィヨルド・ナイト・オーパッツ。魔女狩りの対象となった『呪い』を、存命させる者です」
フィヨルドと名乗った老人は、完璧なお辞儀をしながらそう言った。
そしてフィヨルドは発動する。
「『ネクロマンサー』。ここにて死してしまった者を、蘇らせなさい。そして──本当のコロシアムというものを、教えてやりなさい」
宏人は拳を強く握る。
神ノーズとアスファスが人類に『超能力』を『設定』したのは1999年。
その瞬間、『設定』に耐えきれなかった人間が次々と死んでいった。
それから30年後強、『超能力』に耐え切った人類の一部に、さらに『呪い』が付与された。
だがしかし、『呪い』は次世代に受け継がれることはなかった。
アルドノイズが手中に収めたのが気に食わなかったアスファスがそうしたのか、はたまた最初からそのつもりだったのかは定かではない。
そして、色々な使い方やバリエーションがある『超能力』に対し、『呪い』は殺傷能力が高いものばかり──つまり人を殺すための業だった。
そのため、2100年8月、つまり2ヶ月前に、『呪い』所持の可能性のある2030年に生存していた人間が──ほぼ全て処刑された。
フィヨルドは、そんな理不尽な理由で処刑された人間と、処刑しフィヨルドに殺された人間、コロシアムで戦死した人間を──『ネクロマンサー』で以って、蘇らせた。