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超能力という名の呪い  作者: ノーム
六章 アスファス親衛隊編
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104話(神サイド) 観戦


「貴様がアルドノイズ様を奪った事は絶対に許さない」


 宏人は必死に体に鞭打って立とうとするが、体がいう事を聞かない。

 いや、聞けない。

 既に満身創痍の状態だ。

 口を開くことすらままならない。


「だが……貴様がアルドノイズ様を宿している事もまた事実」


 宏人は必死に目を見開いた。


 ──そこには、涙を流しながら宏人の頭を掴む──


「少し、考えさせてもらう」


 宏人はそのままドサッと落とされた。


 宏人は倒れ込んだ。

 宏人の隣には──凌駕がいた。


「待っ……て」


 宏人はそのまま意識を失った。


 *


 ──宏人の『世界』が、どんどんと構築されていく。


「僕は黒夜だよ!」


「言ってろ」


 黒夜が嬉しそうにそう叫ぶと、宏人の姿が消えた。

 

 これは『変化』の世界、『変化自在』。


 宏人が今まで獲得してきた『物』で埋め尽くされた、不可思議で不気味な『世界』。

 宏人の獲得した『変化』が全て収集される、変幻自在の世界!

 ここでなら宏人は──神にだってなれる。


「死んどけ」


「──え?」


 黒夜は消えた宏人を探しながらあちらこちらに『魔弾』を撃っていたが──突如出現した『ナニか』によって胴体が泣き別れた。

 いつの間にか、黒夜の背後には宏人がいた。


 そう、この『世界』なら宏人は、何にだって成れ、何にだって出来る。


 黒夜の上半身が、ドサッと落ちた。


 *


「どうだったー?僕のおもちゃ」


「……」


「あはははは、そんな怒らないでよぉ」


 『龍宮城』に帰還した後、宏人は片手で黒夜の頭をガシッと掴んでいた。

 それに対し黒夜はただ笑う。

 宏人は黒夜の実の性が女という事を信じられなくなりつつある。


「宏人兄さんいたいいたい〜」


 黒夜が笑いながらそう言うのを見て、宏人はため息を吐いて黒夜を落とした。

 頭から落ち鈍い音がするが、黒夜は笑うだけで何も痛そうにしない。

 繰り返すが宏人は黒夜が女か本当に疑わしくなりつつある。


「まあまあ、宏人くんもそんな虐めないでやってください」


 そう宏人に言ったのはカミルド・ミグナス。

 かつてアルドノイズと戦った事がある、神の一柱である『知神』ニーラグラの持つ神業の退化版の能力を持つ少年。

 当時の臆病さはもう微塵も無く、かと言って自身もなく、ただただ虚な目をしている。

 

「……そうだな、アスファス様から次の任務が与えられたしな」


 宏人はそう言って先程アスファスから渡された書類に目を通す。


 ちなみになぜ黒夜を叱っていたかと言うと、黒夜の持つ『擬人』の能力によって使った偽物の体に意識のみ移して宏人に戦いを挑んできたからである。

 そう、あのデートはそのための布石だったのだ。

 ちょっと最後に良い事言ったと思っていた宏人の心は少し傷付いた。

 あの時気づいたから格好がついたものの、気づかなかったら実に恥ずかしい場面だった。

 気づいてよかった。


 そんな事はどうでもいいとして、宏人は意識を切り替えて文章を読む。


「──マジかよ……」


 最後まで読み、宏人はチラッとカミルドを見ながらため息を吐いた。


 *


 辺り一面、壮絶な熱狂に支配されている。

 人が倒れるたび、人々は歓声を上げ、金が動く。

 ここで人生が一発逆転する者もいれば、反対にどん底に突き落とされる者もいる、ここはそう言う場所。


 ──コロシアム。


 能力者同士が戦い、勝負に勝った者、また賭けに勝った者のみが生き残れる、この世紀末時代に堂々と君臨する日本の闇。

 そんな場所に、宏人は足を踏み入れた。


「着きましたね」


「わー、すごーい!」


「……」


 そして後方の二人の声を聞いてため息を吐いた。

 そう、今回の任務は周期的に宏人とアトミックだったはずだが、今回は内容だけに追加で二人応戦に来たのだ。

 その二人とは、お馴染みの黒夜とカミルド・ミグナス。

 先ほど宏人はなぜ関わりのないカミルドが話しかけてきたのか、よく分かった。

 

「ところで宏人くん、アトミックさんは?」


「アトミックはちゃんとエントリーして戦ってる。あいつは正攻法でいくってさ」


「そうなんですか。……まあアトミックさんなら大丈夫でしょうが、効率悪くないですか?さっさとやりましょうよ」


「そうは言ってられんぞ。相手は『破壊者』だからな」


 そう、今回の任務とは──『破壊者』アングルの殺害。

 宏人たちは『破壊者』について一切の情報を持ち得ていないが、ただ与えられた任務に従う。

 そして今、その『破壊者』がよく出場、優勝すると言われているコロシアムに来、暗殺しようという事だ。

 しかし事はそう上手くいかない。

 なにせ相手は『者』級、世界に選ばれし者だ。


「そういえば僕らアトミックさんの『式神』知らないですよね」


「そういえばねぇー。なんでだろ」


 カミルドと黒夜はダラダラと会話し続ける。

 まあ無理もない、今はとても暇なのだ。

 現在宏人たちはコロシアムの試合を観戦している。

 わくわくするような試合などなく、やはり表の世界の住人の力はたかが知れていると再認識させられ──


「となり、いい?」


 宏人がボーッと試合を観戦していると、突然そう声を掛けられた。

 勝手にしろと思い首を少し上下させ、チラッとその人物を見てみると──


「どうかしました?」


「ッ……!いや、何でもない」


 カミルドにそう聞かれ、宏人は多少早口で答えた。

 そんな宏人を怪しく思い、カミルドは宏人の隣の席の人物を見る。

 そこにいたのは──ただの一般人女性だった。


「……?」


 カミルドはまあいいやと思い、黒夜と話しながら試合を観戦し直した。


 *


 それから観戦し続け、もう日も落ちてきた。

 アトミックは順調に勝ち続け、残すところあとは準決勝と決勝の二回戦だ。

 特に目立った人物は『破壊者』とアトミックだけの事から、今回の任務は順調にいきそうだ──とは思わない。

 宏人は再度チラッと隣の人物を見る。

 何の変哲もない一般人女性だ。

 『能力』も大した事ない、まあこのコロシアムを観戦している事から普通ではなさそうだが、それでも十分一般人だ。

 だが──宏人は知っている。

 この女は、『器』でしかない事を──。


「──やはり、今回僕らに出番はありませんでしたね」


 それから更に時間が経ち、あたり真っ暗になった深夜。

 アトミックは『破壊者』を無事捕獲し宏人たちは帰路についていた。


「なーにが危険度が高い、だー!アトミックげきつよなんだから一人でやらせればいいのにー!」


 黒夜はそう言いながら『魔弾』をテキトーに打ちまくる。

 宏人はそんな黒夜をチョップし止め、さっきからずっと宏人を見ていたカミルドに目を合わせる。

 

「……どうした?さっきからうざいぞ」


「すみません。いや、先程の女性は一体誰なのか気になりまして」


「……先程の女性?」


 宏人は意図が分かっているのにも関わらず首を傾げる。

 カミルドも宏人がそうしている事に気付いているのか、笑みを深めて掘り下げる。


「宏人くんの隣に座っていた女性です。僕の中勘違いだったらすみませんが……随分反応してませんでした?」


 宏人はそう言うカミルドの目を見つめる。

 その目は口調や言動と違い──ひどく歪んでいる。

 そう、カミルドがこんな目をする様になったのは……アルドノイズに、父親を殺されてから。


 その父親とは──オルグトール・ミグナス。


「いや、別に」


 宏人はそう答えた。

 カミルドの笑みが、更に歪んだ。

 宏人の脳裏に、なぜかこんか言葉が過ぎった。


 ──遠足や旅行は、帰り道すら含まれる。

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