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超能力という名の呪い  作者: ノーム
五章 封印前夜・後編
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101話(神サイド) 神身封印


「うっわー最悪なんですけど。やっぱあんたこの世界で一番嫌いだわ」


 ダクネスはそう言って地面に唾を吐いた。

 ここは概念も法則も何もかも『昔』に回帰した異世界──『旧世界』。

 その『旧世界』の主であるダクネスは、目の前の男に心底腹が立っていた。


「僕はきみと仲良くしたいんだけどな、ダクネスちゃん」


 名前は吐夢狂弥。

 能力は『時空支配』。

 ダクネスと厳密には同じ『神人』で、敵。


「馬鹿な事言わないで。せっかくこれ用意したのに……」


 ダクネスはそう言って自分の横にある機械を見た。

 酷く禍々しい、砲台みたいな何か。

 これはこの世界に存在しない、『死神』の遺産。

 ダクネスは死神を殺し、これを奪ってきたのだ。


「お願いだからそれで『冥神』を殺してくれないかな?頼むよぉ〜」


「却下。あんたのお願いなんて絶対に聞いてやんない。もう絶対に何があってもしない」


「僕が死んでお願いしても?」


「今のあんたは敵じゃないから無意味よ」


 なぜ、ダクネスな狂弥を殺すために式神を展開したというのに呑気に会話なんてしているのか。

 それは──


「あんた力失ったくせに図が高いのよ」


 そう、狂弥は力を失ったのだ。

 だが狂弥は気にした素振りも見せない。


「そうだね。でもそんな強者こそ絶対理論でいくときみがアスファスに仕えているのはなぜかな?あの人は雑魚──」


「それ以上言ったら殺すぞ?」


 狂弥はいつの間にか首をダクネスに掴まれていた。

 いや、狂弥は見えてた、気付いていた。

 だが……対応しなかった。

 否、対応出来なかったのだ。

 ダクネスの鋭い眼光が狂弥を射抜く。

 しかし狂弥は動じない。

 自分が今逆転不可能な大ピンチ状態だというのに、気にする素振りもない。

 自分の命を軽く見ている──それが凪が考える吐夢狂弥の心情だ。


「僕はどうせ殺されるよね?」


「うん、情報を吐き出してからな」


 そう言いながらダクネスは手に力を込める。

 狂弥の首はミチミチと変な音をたて始めた。


「今回は一体何をしていた。お前に関する情報が少なすぎる」


「じゃあお望み通り死んだげる」


「おい聞けよ。まずは情報──って……え?」


 ダクネスは目を見開いた。

 特に殺すような事もしていなければ、自殺をさせる隙も与えていない。

 だと言うのに──吐夢狂弥は死んでいた。

 なんと狂弥は宏人と『異世界』で会う前から毒を飲んでいたのだ。

 例えどんな状況にあろうと自分を変えない。

 それも、徹底的に。

 それが吐夢狂弥という人間だ。


「ムカつく……!」


 ダクネスは狂弥の死体に唾を吐いた。

 そして何処かへさっさと行こうとすると──


 鼓膜を破らんばかりの大爆発が起こった。


「ッ──!?」

 

 それも狂弥の死体が。

 もちろん唾を吐けるほどの距離にいたダクネスもくらい、両足がズタズタにされ血塗れになった。

 

 ──『時間設定』。


 吐夢狂弥が最も得意とする、時間差攻撃だ。

 発動条件は──自分の死体に唾がかけられる事。


「は、はは……」


 ダクネスは静かに笑っ──


「あっはははははははは!あんたまだ絶対生きてるでしょ!あんたがそんな簡単にアスファス様の野望の妨害諦められるならこんなループしてないもんね!絶対に何度でも殺してやる!絶対に何度でも殺してやる絶対に何度でも殺してやる絶対に何度でも殺してやる絶対に何度でも殺してやる!」


 ダクネスの雄叫びは、この『世界』のどこまでも響いた。


 *


 凌駕は絶望した。


 ──強すぎる、と。


 目の前では、セバスが智也の胸ぐらを掴んでいる。


「おい離せよセバス……。俺らは同じ主に支えてる者同士だろ……」


「黙れ。アルドノイズ様をどこにやったかと聞いているんだ裏切り者」


 さっきから、ずっとこのような会話が続いている。

 どうやらセバスは智也が裏切り凌駕たち側となりアルドノイズを嵌めたと考えているらしい。

 凌駕からしたら智也を仲間に引き摺りこもうとしたのでなんとも言えないが、智也は違う。

 智也はキッパリと断り続けてきたのだ。

 だが凌駕は智也の味方をする事は出来ない。

 その理由は至極単純、もう、動けないのだ。

 アルドノイズとの長戦ですでに瀕死の状態だったのにも拘らずアルドノイズが消えた事によるセバスの暴走だ。

 凌駕はもう、限界なんてとっくに超えきっている。


「りょ、凌駕……大丈夫?」


 そんな凌駕を必死に守ってくれたのが永井美琴だ。

 美琴は肩で息をしながら、頑張って意識を繋いでいる。

 今までこんなに体力を消費した事はないのだろう。


 美琴の持つ能力の一つである『回避』によって命を繋げる事が出来たのである。

 

「ああ……多分」


 美琴の問いに凌駕は力なく答えた。

 

「で、お前は大丈夫──」


 凌駕は美琴の顔を見て聞こうとしたが──首が、なかった。

 

 凌駕の顔半分に血がベチャッと飛んできた。


「な、な……!」


「死ね、河合凌駕」


 セバスの鎌が、凌駕の首を吹っ飛ばした。


 *


 ──静寂。

 たった今『獄廻界』の中は、何一つ物音がしなかった。

 

 宏人とアルファブルームは、それぞれ身体の色んな所を無くしながら戦い続け──お互いの腹にそれぞれの剣を突き刺したまま立っていた。


 もう、両者とも瀕死状態だ。


 凪とニューマンも、アルファブルームの眷属を全て倒したが……全て倒した後、凪が倒れた。

 当たり前だ、アルファブルームの眷属は尋常な数ではない。


「……」


 ニューマンは凪をそっと横たわらせた後、宏人の元へ走った。

 ニューマンはここまで何も出来なかった分、戦いが終わった後の後処理くらいは自分で全てしたいと思ったのだ。

 そして宏人の元へ着き──絶句した。

 

 ──宏人が、息をしていなかったのだ。


「宏人!」


 ニューマンは宏人の肩を揺らしながら叫ぶ。

 だが返事はない。

 アルファブルームも同様に、アルドノイズに戻った姿で息をしていない。


 両者とも、たったまま、息を引き取っ──


「んなわけあるか!僕の能力は……『強運』だぞ!」


 ニューマンは必死に助かる方法を模索する。

 ニューマンの能力はニューマンに触れているとより効果がある。

 しかしここで息を吹き返しても応急処置が出来なければ意味がない。

 だがここにそんな手当出来る道具などないし、専門的な知識もニューマンにはない。

 

 ニューマンは必死にどうすべきか考えて考えて考えて──とある言葉を思い出した。


 (なんで宏人が一番何ですか?)


 大分前、僕はそうアスファスに聞いた事がある。

 それに対しアスファスは。


 (『器』の完全体だからだよ)


 と言っていたのだ。

 

 ニューマンにはよく分からない。

 だが、『器』という単語の意味ならアスファスからよく聞いていて知っている。


 だからニューマンは願う──宏人が、アルドノイズの『器』になり……意識を保つ事を。


 願い……願う!


「かはッ……!」


 すると、いつの間にかアルドノイズが消えていた。

 そして残った宏人が咳をして蹲る。


「宏人!大丈夫か!」


 ニューマンは宏人に駆け寄って顔を見る。

 

「ひ、宏人……?」



 ──宏人の頭から、ツナが生えていた。



 アルドノイズと一緒の、ツノが。


 

 ──悪魔の、ツノが。


「なんだ……コレ?」


 宏人は自分の左腕を見ながら呆然とそう呟いた。

 アルファブルームと戦って失った左腕が……生えている。

 いや、元の形ではなく、悪魔の腕だ……。


「よし、じゃあ凌駕たちの元へ急ぐぞ」


「え!?凪さん大丈夫なんですか?」


「問題ない。それより、早くしろ宏人」


「お、おう!なんかよく分からんが行くか!」


 宏人はそう言いながら、グッと拳を握った。


 自分がどんどんと、着実に強くなっていってるのを強く感じられるのだ。


 宏人が目指すのは──狂弥やダクネスといった、『神人』。


「絶対に、俺は強くなる」


 宏人はそう呟き、拳を緩めた。




 ──こうして宏人は、アルドノイズに『器』にされ……ニューマンによって意識を上書きする事に成功した。




 つまり──宏人は、アルドノイズを封印した。




    

         第五章 封印前夜・後編  完

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