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超能力という名の呪い  作者: ノーム
五章 封印前夜・後編
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98話(神サイド) 封印前夜⑥


「ああ、狂弥が俺に託したものだ」


 宏人に、凪はそう端的に答えた。

 瑠衣によって『YES』の過去について知ったものの、凪については未だよく分かっていない。

 

 ──いきなり凌駕が連れてきた、神の力も真似る『模倣』の超能力者。


 宏人が黙っていると、凪はため息を吐いた。


「俺はなんで狂弥がお前に力を与えたかさっぱり分からん」


「……仲間じゃないのか?」


「仲間だ。だけどあいつは秘密事が多過ぎる。だが……一番信用している奴でもある。だから、これを再度お前に託そう」


 凪はそう言うと共に自分の眼に手を当てた。

 それも、開いたまま、眼球にだ。

 アルファブルームも何か様子がおかしい凪に警戒を見せているためか、今のところ動く気配はないのが救いだ。

 

 静寂がこの場を支配する。


 そして、何かが終わったのか、凪は手を離し、目を瞑って……唱える。


「『模倣』」


 しかし……何も起こらない。


 不発。


 この場の、宏人も、アルファブルームも、ニューマンもそう思った。

 

 そして、凪は目を開いた。


 するとその眼から──『時計』が消えていた。

 

 どこに行ったのか。

 宏人は、己の力が湧いてくる感覚を再度感じた瞬間、その答えが分かった。


「3対1だ。存分に力を振るえ。負けるわけねぇ」


「……ああ!やってやる!」


 凪に肩を叩かれ、宏人は立ち上がって思わずそう叫んでいた。

 万能感を得ると、人の感情も、他人の事も、自分の事すら大体どうでもよくなっていくのだ。


 ──ただただ、自分の欲望のままに突き進むのだ。


「俺はアルファブルームをぶっ倒す」


「ほざいてろ。少し状況が変わったくらいで調子にのるな、若造が」


 宏人がアルファブルームにそう言うと、アルファブルームは少し苛ついた様に返した。

 さすがのアルファブルームも想定外の事態なのだ。

 

 宏人はもう一度凪を見る。

 不思議な人だと宏人は思った。

 凌駕とは全く性格が違うのに相棒らしき関係で、吐夢狂弥とは旧友の仲の様に親しい。

 そして──正真正銘の『神』であるアルファブルームにも臆していない。

 素直に、カッコいいと思ったのだ。

 宏人はそんな凪を見て覚悟を固めていると……。


「って、ニューマンいたんだ。何やってんだよお前、こんなところで」


「……さすがにひどくない宏人?僕さっき頑張って凪さんを助けたんだからね?」


「あれは避けようと思えば出来た。だけどお前の運使った方が楽だったからワザと助けられてあげたんだよ」


「……みんなひどい」


 ニューマンは辛辣な宏人とぶっきらぼうな凪に涙目でそう呟いた。

 メンタル面が非常に駄目な少年である。


「じゃあ……殺ろうか、アルファブルーム」


 そう凪が言うと共に、凪と宏人はアルファブルームに向かって走り出した。

 アルファブルームはただ待ち構えている。

 まるでその姿は挑戦者を待ち受ける悪魔。

 悪魔の『始祖』でもあり、アルドノイズでもある……アルファブルームなのだ!


「やってみろ。人間」


 アルファブルームはそう言うと共にノータイムで地面に大きな『闇』の沼を出現させた。

 

「チッ……!」


 宏人はそれを防げなかった自分に腹が立ったが、来る攻撃を警戒する。

 だが宏人は直ぐに気付く。

 さっき倒したカオスが沼の中へ沈んでいったのである。

 これは、さっきと同じ──眷属の復元魔法。


 ──宏人の眼から、『12』が消失した。


「させるかよ!『時空支配』!」


「無駄だと理解しろ」


 宏人は時を止め自分だけの世界を創るが、アルファブルームはその中でもぎこちないながらも動く。

 アルファブルームは宏人の攻撃を難なく対処しようとするが──


「お前じゃねえ!まかせた凪、ニューマン!」


「ああ」


 宏人がそう叫ぶと、ニューマンは固まっているものの凪は普通に答えた。

 意味を理解しているなんてすごいと思う前に何故『時空支配』の中でも動けるのかが疑問だが、宏人は構わずアルファブルーム……の下にある沼へ!


「な、お前まさか……!正気か!?」


 アルファブルームは宏人の意図に気付き対処を図ろうと動くが──遅い。


「お前こそ理解しろよ。たった今この瞬間だけ、この世界を支配してるのは俺なんだぜ?」


 そして宏人は、沼の中へと入っていった。


 *


「……お前が原因で、アルドノイズの手下は無限に復活する事が出来んだな?」


「ははは!無限なんてそんな訳ないだろう!ちゃんと有限だ」


 宏人は『眼』に囲まれていた。

 見渡しても、上も下も『眼』。

 どこを見ても、どこかの『眼』と目が合ってしまう、気持ちの悪い世界。


 その世界の中心で、男は座っていた。


 快活に喋り、『勇者剣』を持つ少年──太刀花創弥。


 宏人は戦闘態勢を取り、油断なく構える。


「いや、別にそんな警戒しなくていいぞ!戦おうって訳じゃないんだ!というか今は『本物』の俺じゃないんだ!」


「は……?」


 宏人が首を傾げると、創弥は続けて言う。


「この俺の意識はリモート中だが、本体はそこら辺にある『眼』たちを集めてくっつけて似せただけなのだ!」


「なんでまたそんな面倒な事を?」


「お前に会うためだよ」


 宏人がこういうタイプ苦手……と思っていると、創弥はいきなり真剣な口調でそう言った。

 創弥の纏っている雰囲気が変わる。

 宏人は深くにも、背筋が凍る様な感覚を覚えた。


「お前の市場価格が今相当値上がりしているのは知っているかい?」


「俺が完璧な『器』だからだろ?それがどうした……っていうか仲間戦ってんだから早くしたいんだけど」


「安心したまえ。この擬似『式神』に僕の『式神』を吹き込んだ。同じ系列だから調整も結構楽だから、こちらの1分が向こうの一瞬ほどにしているよ」


「お前……!戦いの一瞬ってどれほど大切か──」


「俺の情報にも、それだけの価値はあるんじゃないか?」


 創弥の眼が宏人の眼を射抜く。

 創弥の眼は自身に溢れ、生き生きとしている。

 だがそれと同時に……危うさも多大に含まれている。


「綺麗な眼だ。『器』の上に吐夢狂弥の『能力』。それでまたお前の価値はうなぎ登りだ」


「どうでもいいな。で、早く話してくれ」


「すまないね。よく周りから話がすぐ脱線するねと言われたものだ。……では、単刀直入に言おうか」


 創弥はそこまで言うと黙り、宏人と視線を合わす。

 合わせ、合わせ続ける。

 宏人は早くしろと言っているのにさっさとしない創弥に腹が立つが、不思議と怒れない。


 頭が、真っ白に、な──


「お前の所属していた『B』チームを壊滅させたのは……この俺だ」


「……は?」


 宏人は固まった。

 思考が渋滞する。

 毎日。

 毎日毎日毎日繰り返される夢の終わりに告げられる一言が鮮明に脳内で叫ばれる。



 (翔華くんならこんな事にはならなかった!)



「あ、ああ……!……」


 宏人は頭を抱え蹲るが、すぐに冷静さを取り戻し、ゆっくりと立ち上がった。

 目の前には、まだ、ちゃんと創弥がいる。


「……」


「おや、来ないんだ。昨日までのお前とはまるで大違いだな。心境の変化……じゃないな、今までの『世界』について詳しく教えてもらえたのかな?」


「……ああ、昨日までの俺ならすぐにお前を粉々にしていたかもな。でもそんな事して……何も残らない。過去は……変えられない」


「……ははっ」


 宏人の言葉に対し、創弥は吹き出した。

 

「あっはっはっはっは!お前、自分の『眼』を見てから言葉遊びするんだな!まあいい!アスファス様からの収集時間前の暇つぶしとしては十分だ!また、戦場でな!」


 創弥はそう言うと突然力なく倒れた。

 それと同時に、『世界』もどんどんどんどん崩れていく。

 だが、足場は崩れない。


「……やっぱあいつ、俺めちゃくちゃ嫌いだわ」


 俺はどしどしと音がすると共に地面が振動するのを感じ、深く創弥を恨んでため息を吐いた。

 どうやらアルファブルームは『眼』というモノを使って『眷属』たちを復元しようとしたらしい。

 それを創弥は自分の身体と俺と話すための意識を一時転移するのにフルで使い消滅……したはずだったんだが。


「オマエ……ツヨクナッタ。タノシミ」


「今までの戦績は一勝一敗。昨日は途中で任務が入ったから数えねぇ。勝手だと言われようが知ったこっちゃない。……決着つけようぜ、No.2(カオス)!」


 宏人は、少し楽しそうに、そう叫んだ。



 ──宏人の『眼』と、カオスの六本のナタが激突する──

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