97話(神サイド) 封印前夜⑤
はい、今まで出ている様で出ていなかった凪くん回です。今回も温かい目で見てくれればなと。
暗い、暗い、暗い。
ここは、ただただ黒くて暗い……しかし、視覚情報のみは確保出来る、不可思議な『世界』。
『式神』が展開された上に『式神』を展開してしまった際に起こる、世界のバグ。
「ここに来たのは久しぶりだな」
その世界に入り、凪はすぐに行動を開始した。
宏人や智也でさえも小一時間は気絶せざるを得なかった世界で、凪はなんともないように動く。
もちろん、共に来たニューマンはがっくりと気絶しているため、そこら辺に投げ捨てた。
ここは無重力と違い性質のため、ニューマンはふわふわと浮く。
「……?」
移動してから数十秒と経たずに、凪は異変に気付いた。
この何もない『世界』の中で、人が数人ニューマンと同じ様に浮いていたのである。
凪はそのまま近づく。
「……何でこいつらがこんなところに」
凪はそう言いながらため息を深く吐く。
なんと浮いていたのは『YES』のメンバーと元『NoS』のメンバーだったのである。
これは河合凌駕の管轄だ。
一瞬凪は呆れたものの、直ぐに警戒心を強くした。
──狂弥と決めた時間より、少々事が運んでいるのが早いからである。
予定ではまだ凌駕はここにいるはずだ。
てはなぜいないのか。
それは予定外のイレギュラーな事態に直面してしまったからに違いない。
「……」
凪は考える。
凌駕はそこそこ強い上に、優秀な人物だ。
今はニーラグラに力を貸してしまっている以上分からないが、本来の強さは落ちた神以上はある。
そんな凌駕が、予定していた事を可能にする事か出来なかったという事は……やはり。
「迷ってる暇はない、か。『流水ぐ……ん?」
凪が覚悟を決め、出来るだけメンバーを巻き込まないようこの『世界』を『流水群』で破壊しようとすると……目の前に『時』を連想させるような扉があった。
『時』を連想させるような扉……それくらいしか説明出来ないほど、言葉にするのは難しい扉だ。
その扉を前にし凪は入ろうとしたが……やめて、反対方向へ走った。
そして、再びニューマンの元へ戻ると──
「ごふっ!?」
……ぶん殴った。
強烈な拳が、ニューマンの幼くも可愛らしい部類に入る顔にめり込む。
するとニューマンは苦痛の叫びと共に起きた。
「な、何すんですか凪さってえええええええ!?」
ニューマンが起きたのを確認した瞬間、凪はニューマンの手を引っ張り爆走。
そして扉の元へ戻って来──
「じゃあ、行くぞ」
「なんでみんな水に溺れて死んだ人みたいにぷかぷか浮いてんのー!?ナンチャン助けてー!!!」
凪は扉に手を掛け、ニューマンと共に中へ入った。
──瞬間、二人は光に包まれた。
……宏人も智也も美琴も、この『世界』へ侵入した際、光になど包まれていなかったが……。
*
「……ッ!」
ハッと、凪は目を覚ました。
気がつくと、そこは白だった。
つい先程までいた黒い世界ではなく、今度は逆にただただ白い世界。
不気味な程白く、恐ろしい程白い。
手を繋いでいたはずのニューマンは、いつの間にか消えている。
「どこだ……ここ」
凪は不覚にも自分が緊張している事が分かる。
こんなの、何十回ものループでも初めてだ。
「やあ、凪」
そんな世界で、凪を呼ぶ声がした。
──その声の主を、凪は一瞬で理解した。
「狂弥か?」
「ああ、そうだよ」
「……姿が見えないようだが」
「……ちょっと予定が狂ってね」
凪は少し嫌な予感がした。
この展開は、初めてではない。
狂弥がこんな風に呼び出してくる時は、大体ロクな事が起きていない。
今回のループは易々と失敗する事は許されない大切な……ラストチャンスかもしれない回なのだ。
だからこそなのか、とても嫌な予感がする。
「今回の向井宏人とアルドノイズの件だな。……お前が関与する必要は皆無だったはずだが?というか自分の管轄はちゃんとやったのか?」
「……ダクネスちゃんが『死神』カールデス・デスエンドを殺した」
突然狂弥が放った一言に、凪は一瞬時が止まった気がした。
無理もないだろう、なにせ目の前?にいるのは『時』を操る超能力神なのだから。
「……は?」
狂弥の言葉を、凪は遅れて理解した。
ダクネス。
本名を、ダクネス・エクスカリバー・シェス。
ふざけた名前だ。
なにせダフネスという親が付けた名前を弄った上にエクスカリバーもシェスもかっこいいからという後付けのものだからだ。
だが、強さは本物。
超能力神、能力名を、『旧世界』。
そんなダクネスが、『魂』を管轄する死神を殺した。
「まあ死神はこないだ戦った『アンデット』の『呪い』を持つセバスって人の中に半身預けてたらしいからまだ生きてるだろうけど……多分、めちゃくちゃ弱くなってると思う」
「……それはお前と何の関係がある?」
「僕は今から全ての力を君たちに預ける」
凪の問いに、狂弥は何かの覚悟を決めた様な口調でそう言う。
──全ての力を預ける。
凪はまるで心臓を鷲掴みにされた様に震える。
とても、全身に嫌な予感が迸る。
「どう言う意味だ……?」
「僕はダクネスちゃんに、殺される事にするよ」
「そんな事──!」
狂弥がそう言うと共に、凪が言い返す暇もなくこの白い『世界』は消失した。
──狂弥の能力によって、凪の頭の中にはこれからやるべき事が記された記憶が入ってきた。
「また、絶対に会ってやる……!」
凪は最後にそう呟いた。
*
爆炎が、宏人の前に現れる。
「……」
アルファブルーム専用のカミノミワザである、『猛炎と聖水の邂逅』。
それに──宏人は見惚れていた。
諦念も含まれるが、それよりも汚れ一つない綺麗な炎に、ただただ見惚れていたのだ。
宏人は、そのまま飲み込まれ──
「諦めんな、向井宏人」
──途端、人が割って入ってきた。
蒼く流麗で前髪が長い白髪に、長身でだぼったい黒いパーカーを着ている少年──新野凪が。
「『流水群』」
すると凪はいくつもの水の弾丸を放った。
その中の数個は一つとなり『猛炎と聖水の邂逅』と激突しを相殺、その他は見境なく降っていく。
だが不思議と宏人だけは避けられている。
これも凪の仕業と宏人は思ったがそうではなく、凪に片手で服の裾を使われたニューマンの『強運』の能力のお陰だ。
そのため、凪は気にする事なく存分に力を振える。
「この登場の仕方は仕様か?神ノ凪!」
もちろん、『流水群』はアルファブルームにも容赦なく降る。
ニューマンの『強運』もあってか、それも凄まじい勢いと量でだ。
しかし、アルファブルームは少し楽しそうに笑いながら、自由自在に己の得意分野でもある爆炎を使って粉砕していく。
その姿はまさしく『魔神』。
全てを、炎で焼き尽くし、灰と化していく。
そんなアルファブルームを見て──凪も笑う。
「ああ、かっこいいからなぁ!『空間圧縮』」
凪は手をアルファブルームに向けてグッと力強く握った。
するとアルファブルームの身体がグシャッと握り潰され、ゴミ屑のような姿へ。
だがアルファブルームは一瞬で元の姿へ戻り──凪の背後へ現れた。
そして、爆炎を凪に浴びさせ──
「ッ!ニューマン!」
「う、うわああああああああ!」
凪は突然背後に現れたアルファブルームには対応出来ないと一瞬で判断し、ニューマンの名を叫んだ。
事前に取り決めてる、名前を叫んだら取り敢えず転ばせろ大作戦である。
作戦通り、ニューマンは凪を力強く引っ張り転ばせた。
「は?嘘だろ……?」
するとアルファブルームが凪に放った『猛炎と聖水の邂逅』は、ちょうど凪を避けるようにして通り過ぎていった。
それにはさすがのアルファブルームも驚き、呆然とそう呟いた。
凪はその瞬間を見計らってニューマンを片手に跳躍。
そして、未だ地面に座り込んでいる宏人の元へ。
──宏人と凪の目が合う──
宏人は、いつの間にか呟いていた。
「お前も、吐夢狂弥から力を渡されたんだな」
凪の目は、さっきまでの宏人の様に、時計の形をしていた。