戦いが終わって
「ここは……?」
テルマが目覚めたのはベットの上であった。テルマは体の疲れを感じたこともあり、テルマの意識ははっきりしていなかった。
「目が覚めましたか?」
テルマの耳に聞こえたのは壮年の男性の声だった。テルマの意識は次第にもどり、テルマは自分の腹部を触った。そして、胴体はつながっており、斬られたはずの腕もある事に気が付いた。
「……腕がある? 生きてる?」
テルマは横になったまま声のする方向に目を向けると、水差しからコップに水を入れようとしている白髪の男性の姿がみえた。テルマは部屋を見渡したがテルマには見た事がない部屋だった。
「……私はテルマと言います……ここは何処でしょうか?」
テルマは白髪の男性からの答えを待っていたが、返事がないので天井を見つめ直した。すると、扉が開く音がテルマの耳に入った。
「師匠、テルマ様は……あ、テルマ様! 気付かれたのですね?」
その声は聖女候補のルイーザのものであった。そして、ルイーザから発せられた「師匠」という言葉、テルマの意識がはっきりしていく。
「そ、そんな……」
テルマが起きようとしたのに気付いてルイーザは慌てて駆け寄り、テルマの上体を起こして背中を支えた。そこに白髪の男性がコップを持ってやってくる。
「意識が戻って本当に良かったです……」
テルマに声を掛けたのは以前の栗色の髪ではなく、白髪になった壮年の顔つきをしたレイフであった。
「自分の生命力を使って私を助けたのか?」
「ええ……テルマがいない世界では生きている価値がありませんから」
テルマは下を向き、腰までかかっているシーツの上で指を握りしめる。手の甲には涙が落ちていた。
「レイフの人生を奪ってしまった……」
「そうですか? テルマは年の差を気にしていたので、年相応になって僕は嬉しいですよ?」
レイフは自身の生命力を魔力に変換してテルマの命を救っていた。レイフの膨大な魔力であってもテルマの命をつなげる事ができず、レイフは自身の20年分の生命力を使った。その影響でレイフの髪は白くなっていた。
「わ……私なんかを助け……」
「言ったでしょう? 僕はテルマの為にしか魔力を使いたくないのです。結婚してくれますか?」
泣きながらレイフを責めようとするテルマを途中で止め、少し強い口調でテルマに話しかける。レイフがテルマに近づいてテルマの両手を包むように掴むと、テルマの肩がビクリと震えた。
「ず、ずるい……そんなことを言われたら断れないじゃないか……」
「愛していますよ。テルマ」
レイフが優しく微笑むと、テルマは手を振りほどきレイフの体に抱き着いた。
「私も愛してる。レイフ」
テルマは抱き着いていた体を離すとレイフの頬を手で包み、その手でレイフの顔を引き寄せて唇を合わせた。
◇
真っ青な空のもと、草原で一人の少年が模擬刀を両手で構える。迎え撃つのは片手を背に回して同じく模擬刀を持つ男。
「ファルコン・スピード!」
少年は男の前から姿を消す。男はその状況に焦ることなく、横から突き出された剣先を弾いた。
「気配の消し方が足りねぇよ。もう終わりか?」
少年は剣を構え直すと静かに呟くと、男は引き攣った顔をみせて魔力を練り出す。少年は剣に雷を纏わせ、男に立ち向かう。
「雷鳴剣・鬼神」
少年が電撃を纏った剣を男に振るったが、男は剣筋が当たる前に姿を消した。少年が男の位置を確認しようとしたが、ポカンと軽く剣で頭を叩かれた。
「危ない技を出しやがって、俺でなけりゃ死んでるぞ……まあ、上達したのは認めてやる」
技を繰り出した少年は模擬刀で頭を叩かれれて、その場にしゃがみこんで頭を項垂れた。模擬剣を片手にした男は晴れやかに笑っている。
「師匠に追いつくにはまだ精進が足りないようです」
少年が男に言うと、男は苦虫を踏み潰したように答えた。
「そうそう追いつかれてたまるか! お前の母親にどんだけやられたと思うんだ!」
男はそう答えたが、少年は理解していない顔をしていた。
「アレク師匠はそう言いますが、本当に母は強いのでしょうか?」
「はいはい。アレンもアレクもお疲れ様。おやつを持ってきましたよ?」
アレクと呼ばれた男は文句を言うつもりで少年に詰め寄ろうとしたが、割り込んできた声を聞いて止める事にした。
「テルマ師匠……あんた変わりすぎだろう! それに息子に何を教えているんだ! 世界を滅ぼす気か?」
アレクの言葉を聞いたテルマはコロコロと笑いながら、アレクに話しかける。
「魔術の練り上げは夫が教えているのよ? 私は知らないわよ?」
テルマがお菓子の皿を差し出したので、アレクとテルマの息子のアレンはお菓子に手を伸ばす。
「どう? アレンは強くなりそうなの?」
テルマが質問したのだが、アレクとしては複雑な思いで答える。
「剣舞の才と魔術の才の両方を持っている上に、英才教育されていて強くないわけがない……」
「アレクがいうなら大丈夫ね。安心したわ」
アレクはテルマからの返事を聞いて、少し照れながらテルマに対して話しかけた。
「師匠……なんか綺麗になったな。なんか前よりも若返った気がするよ……」
「アレク、それ浮気。私に対して失礼すぎ」
その答えをしたのはルイーザだった。突然現れたルイーザに指摘されてアレクは慌てる。
「おいおい! 俺はお前以外に愛してるって言ったことないだろ! そもそも、言った相手は俺の師匠だぞ!」
「アレクとルイーザはいつも仲が良いですね」
穏やかな声で現れたのは白髪のレイフだった。レイフは双子の娘を連れていた。その声を聞いたテルマは笑顔で話しかけた。
「私達よりも仲の良い夫婦はいないわよ? 私は幸せだわ!」
テルマはレイフの側に駆け寄り、レイフに唇にキスをした。
Fin.
読んでいただき、ありがとうございます。
今回は企画という事で、不惑女で書かせて頂きました。今回はアクションファンタージーという形でアクションを多めで書かせてもらいましたが、恋愛要素は外さない形にしたつもりです。
色々と書きましたが、アクションは難しい要素である事がわかりました。今回恋愛アクションを執筆できたのは良い経験だったと思います。
皆様が良い小説に出会えることを