第九話 ちゃんちき
「お前は何処から来て、何をして、何処に行こうとするのか?」
大家さんの重々しい声が響く。
「私は彼方より、光に導かれるままに此方に来て、自らの歩みのままに在るべき場所を目指します」
「おば」さんの澄んだ声が返す。
「この在所に訪ねて発する言の葉はありや?」
「誠とは行いの中にあり」
「拍手の音は右手か左手か?」
「シワとシワを寄せて、しわよせ・・・。あれ?」
「お前の志とは如何?」
「大海の如し」
は?
黙って聞いてたけど、おかしいんちゃう?
二人とも尤もらしいこと言い合ってるけど、全然話が先に行ってないし。コクダイノゲヒボンナンとか言い出してるし。
大家さんは、「なかなか話の分かる奴だ」とか言って、いそいそとお燗のおかわりをつけてる。え?分かってんの?
「おば」さんは綺麗なお姉さん系の方だけど、なんと片膝立てて一升瓶で茶碗酒だ。
(ちなみに大家さんは正座だ)
ようするに酔っぱらいの戯言だ。
なんで私だけが禁酒なんだと、ヒエラルキーの下層の悲哀を実感した。
それはともかく。
「「おば」さん!」
「はい!」
あ、良いお返事。
「具体的に!あなたはどちらから来たのですか?」
「はい。異世界の方から来ました」
「『の方から』って、詐欺の常套句だぞ。『消防署の方から』の人は消防士ではない」と大家さん。
この前の町内の避難訓練で『消防署の方から来ました』って挨拶された人はみんなから警戒されてしまっていた。でも、たぶん、本物の方だよね。
「えっと、じゃあ・・・。
異世界から来ました」
えー。言い切った方が怪しさが増えた気がする。
「あなたは女神を信じますか?」