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第七話 モグモグタイム

ドッコーーン!


急に轟音を立てて目の前の扉が吹っ飛んできた。

たぶん、大家さんがお部屋の外から、「おば」さんを扉ごと蹴っ飛ばしたんだと思う。

大家さんが人や物を蹴り飛ばしたり放り投げたりしたら、大抵私はその下敷きになる。こういうのは巻き込まれ体質というらしい。

体質だから仕方ない。

今もこうして扉の下で押し花にされている私。


大家さんの怒鳴り声は警告であり、優しさである。

その後の数秒後には大家さんは完全に気配を無くし迅速に対象を駆逐していく。プロのサイレンスサービスといえる。


目端の利く人は一目散に明日の希望に目掛けて走っていくのだが、私はそんな理不尽な今日から決して逃げ出したりしない。

巻き込まれ体質だから・・・。



しかし、いざ扉から這い出してみると「おば」さんの姿はない。

周りを見渡すと廊下の曲がり角で片目だけ出して震えながらこちらを見ている。

一瞬での逃げ足はアッパレであるが、そんな距離では大家さんの間合いの内である。


「待って、私が何とかする!」


今にも飛び掛かろうと身構えた大家さんを制して私は台所に向かう。

せっかく前話で前振りしておいたのだからカウンセリングスキルをお見舞いしようと思ったのだ。

お湯を沸かしてカップ麺に注ぎ、それを部屋の前の床に置く。


「美味しいよ。食べて良いよ・・・」

「ザ・餌付け」である。


私は優しく「おば」さんに笑いかける。

しかし「おば」さんは真っ青になってガタガタ震え出す。

保健室ではにっこりとクッキーと紅茶を出された時は、ほんわかしてとても幸せな気持ちになれたのに・・・。

なんか、よほど悪どい薄ら笑いに見られたっぽい。


で。

食べ物を見たら急激に空腹を覚えてきた。

思えば半日以上ずっと「おば」さんと闘っていたもので、体力や気力の消耗なんかも加味すると当然ではある。


毒が入っていないのを証すためにも味見をすることにした。

バリバリ、グシャグシャ。


「お前・・・。

3分は愚か30秒も待てないのか・・・」


大家さんが呆れるが事態は急を要する。

そもそもコーヒーなんかお湯を入れてすぐ飲めるんだから、3分なんかカップ麺屋さんの企業努力不足といえる。

それを消費者の知恵で短縮しているのだから、いっそ画期的だとさえ言える。

皿うどんよりは柔らかい。


でも。美味、うま。

お箸が止まりませんわ・・・。


夢中で食べていてふと前を見ると、10センチ手前に「おば」さんの顔があった。


スッゴい真剣な目付きで私を見ているのでちょっと引いた。

カップを覗いてみたら麺が数本とお汁が少し残っていた。

「食べる?」って訊いたら、すごい勢いでコクコクされてしまった。

「はい、どうぞ」


「おば」さんはススッと麺を食べるとコクっとお汁を飲んだ。

そして、涙をボロボロ流し出すと、シクシク泣き出した。


足らんかったんやろか?足らんかったやろな。

ま、足らんやろうな。ちょっと、罪悪感・・・。


大家さんがいるからか、それでもやはり声は出さない。さすがの危機管理だ。

そしてそれは意地らしさをアピールしたのか、鬼の目に涙の効果をもたらした。


「わーった!新しいのを作ったるから泣くな」

大家さんは自分の部屋からカップ麺を持ってきてお湯を注ぐ。


あ!

私の、安いやつのしかもミニやのに、大家さんのは高い美味しいやつでしかもデカ盛りや・・・!

贔屓やろか?贔屓やな。ヒイキや!!!!!!!!!


私の抗議の視線に気付いたみたい。

「チッ」って言った。チッって言った!チッって言った!!!


傷付いた・・・。傷付いた、傷付いた!!!!!!!!!!!!!!!!

もう大家さんのご飯なんか食べてあげない!いらない!欲しくない!!!

今度お金が無くなっても泣きついたりしないで一人でお部屋で餓死してやる!!!!!!!!

そしたら滞めたお家賃も永久に払えないんや!ザマーミロ!!!!!!!




しばらくいなくなっていた大家さんがカップ麺を私の前に置いた。

「ほら、お前の分な」


キャー、キャー!!

卵焼きも入ってるやん!!!!大家さんスペシャルやん!!!

これはもう、食べてあげるしかないやん!!!!!!!!!!!!


大家さん、「おば」さんのカップにも卵焼きを放り込まはったけど、これはええねん。贔屓ちゃうし。お揃いやし。

お揃いは美味しいねん。


私がお猿さんみたいにモシャモシャ食べてる横で、リスみたいにほっぺをふくらませながら「おば」さんもモムモムしていた。



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