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第三十九話 ひとりめ

現在の私は、目の前に展開されているシュールな光景に戸惑っています。


誰もいない空間に向かって、ご自慢のヤツデの葉を模した特大の名刺を差し出して、鮮やかな笑顔を込めて自己紹介を続ける社長。その斜め後ろで「見た?見た?見たよね!!」アピールの眼差しを私に向けて、上機嫌でピョンピョン跳ねている「おば」さん。


私が今までの状況を説明した途端にこうなりました。

曰く、「遠方からこちらの団体ツアーの勧誘に来られた方です」と。


四谷さんには「あながち間違っていないのが凄いですね。超訳ですね」と誉められました。

乙子ちゃんは「お前、微妙に、オバと距離を取ろうとしてるだろ?」と指摘されました。

そりゃそうだよ。

周囲と馴染めない子が一人でいたのならハブられるだけで済むけど、二人でつるんだら目立つからイジメのターゲットにされちゃうもん。

底辺には底辺の知恵があるんだよ。


「社長。クライアントは4時30分の方向です」

私が指摘すると、社長は2m近くの巨体を感じさせない軽やかなステップで転じて、改めて、ヤツデ名刺を差し出す。

しかし、惜しい。あと5度ほど足らずで、「おば」さんとの対面に微妙なズレがある・・・。

仕方ないので、「協力してあげてね」と声をかけて、「おば」さんの肩を持って、社長の目線に「おば」さんを合わせる。

「おば」さんは特上の笑顔で頷いてくれて、さらに私に「見た?見た?見たよね!」と目で叫ぶ。


「若輩の未熟者ゆえにご無礼をしまして申し訳ありません。当社の天野には親しく接して頂いているようで、ありがとうございます。今後のご贔屓もお願い申します」


「しゃ、社長!私たち親しくなんかないよ・・・」

私の、「親しくなんか無いんだからね!」作戦を一蹴しないで下さい。「裏目引きの天野」という、昔の悪名が脳内を響き渡ります。涙。


「何を言ってる?お前から人にさわって、さらにお願いが出来るなんて。警戒しなくて良い相手なんだろ?」

な、成る程・・・。社長の洞察力恐るべし!

そういえば、人に触れたのって、何年ぶりだろ?

(人でなくて神様だろ?という指摘は今さらです)


「マサル。言葉が素になったところで聞いておきたいんだが・・・。

お前、オバが見えてないんだな?」

乙子ちゃんが怪訝そうに呼び掛ける。


「はい。若輩ゆえにまだまだ眼力が未熟のようです。汗顔の至りです」


「ね。ね?普通の人には私は見えないんだよ。

神様、嘘つかないあるよ。ホッホー」

これこれ「おば」さん、どこぞの国の人ですか?

トーテムへのお祈りの踊りは止めて下さい。宗派の天辺が他宗に乗っかったら信者が迷惑します。総合格闘で空手師範がマウンテングするような行為です。勝っても弟子たちが引きますよ!

ま、現在の信者数はゼロですが・・・。


「えー?!うずめがいるじゃん」

私は巻き込まれたただの一般人です。ご利益のない神様にはお祈り出来ません。

スジャータみたいなもんです。お腹を空かせた修行者にご飯をタカられた小娘です。


「うずめ。その説だと俺こそがスジャータだよな?」

これこれ乙子ちゃん、小娘って言ったっしょ!コムスメ!!それに、平時のバケツより難事のひと匙の水って言うじゃん。ひとすすりだったにしても、最初に餌付けしたのは私だよ。


「うずめと大家さんで私を取り合いしてるのかしら?

・・・。

じゃあ、先に手を離した方が本当のお母さんね」


「はあ?ずっと握り続けろ、てか?」

「私はセーフだよ。だって、最初からつないでないもん」


「天野、話が見えないのだが・・・。」


「あー。えとね・・・。

気にしなくて良いよ。年寄りの戯れ言だから」

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