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第二十九話 面倒臭い人、二人目

「そうだ、面倒臭いのが、もう一人いたんだなあ・・・。

うずめ、オバはどこ行ったんだ?」


「えっと・・・。

あそこ!」

私は部屋の片隅を指差す。

そこにはなにもないように思えたが、じっと意識を凝らすとうっすらと恨めしげな顔をした女性の姿が浮かんできた・・・。

やっぱり「おば」さんは「ゆう」のひとかも・・・?


「うずめ、スッゴい失礼な思い出し方しませんでしたか?」

「おば」さんは羊羮で栄養をつけたせいか、力強い通った声で私に苦情を上げてきた。


「うお!?急にオバが現れた・・・。

それは異世界のスキルなのか?」


「忍法木の葉隠れ、ですか?ねー」


「『おば』さんは都合が悪くなったら人の目を避けるために、自分の存在をなかったように擬装出来るのよ」

私はここぞとばかりに自慢する。

敵の有効な情報を提供できたことに心が高揚する。

あ!・・・。敵じゃ、なかった・・・。

ガックリ・・・。


「スゴいですねー。

闇に隠れて生きる、って感じですかねー」


きゃー、四谷さんが驚いてくれた!

イッシ!!


「『都合が悪くなったら』って・・・。

貴方たちは不敬が過ぎます!!!

『闇に隠れて生きる』って・・・?!!

私は『オバーサンジャネー』ですよ!!」


「そうだよな、おばあさんじゃ、ねえわ。

中身は子供だ・・・」


「『天空におわす輝けし恵み』です!!!

『永劫に向かう朽ちなし光の導き手』です!!!」


おお!なんか、それっぽい呼び名だね。


木曽義仲は『朝日将軍』だったよね・・・。

でもあれ、お公家さんのただのヨイショだったというような・・・。


「『朝日村』に住んでいたから、という説もありますね」


えー!それじゃ、単なるお山の大将じゃん??

朝廷から将軍に指名されたぞー、って喜んでいるのに、実は田畑警備隊隊長・・・。

義仲さん無惨なり・・・。


京都人陰険説(「いけず」という)って言うのは平安貴族あたりからの綿々ぽいねぇ。

「お茶漬けでもどうです?」と言われても「はい」はNGらしい・・・。言葉の裏を読まないといけない。


ちなみに、この例は「早く帰れ」と了解しなければいけない。

長々と居座らはったから、さぞ、お腹も空きましたやろ?お茶漬けくらいお出ししてもエエのですけど、帰らはってご自宅で美味しいもんを食べはったほうがエエのとちゃいまっか?と、翻訳出来て正解。


「おば」さんの「朽ちなし光」も、京都風に翻訳したら「能天気も結構どすけど、たまには雨くらい降らせてもろてもバチは当たりまへんのちゃうやろか?」となる。



「神様とは言っても、所詮は自然災害みたいなもんだしなあ」


「御霊信仰などは、神様として祀れば、怨みを持って死んだ者が祟らないだろうという、お気軽なノリですしね。将門とか道真とか」


「そうだな。オバも非業の死とか遂げたら、神様認定されるんじゃ、ないか?」


「私は50億年、絶えることなく神としています!!」


「でも、こっちの世界じゃ、なんの力も出せないんだろ?・・・ニヤリ」


「ひゃあ!うずめ!!!

助けなさい!!!!!」


いえいえ「おば」さん、頼られても私に対処出来る訳ないですよー!

乙子ちゃんの「ニヤリ」は怖過ぎるよーー!!


「うずめさん・・・。

助けて下さい・・・」


きゃあきゃあ、「おば」さん!土下座はやめて!!!

さすがに心が痛いよー!


「乙子ちゃん、四谷さん、もうその辺で良いでしょう」

私はご老公かい!!?


「すまん、オバ。調子に乗りすぎた」


「手加減を間違えました」


ん?四谷さん、なにげに鬼畜ぽくない?


「わたくしめのことは、これからは大御神と言わず、小さ神とお呼びください」


これこれ、急に卑屈に過ぎるよーー!泣けるね。

でも、今まで、誰も、神様扱いしてなかったと思うけど・・・。



そもそも「おば」さん、腰が引けてる貴女の弱気が敗因ですよ。

水に落ちた犬は叩かれるって言うでしょ?


「うずっち、それは本来『叩くな』です。

何事も追い込みすぎてはいけません」


「は?『叩け』じゃ、なかったか!?

弱ったところから徹底的に潰していって全体の勝利に繋げていくもんだ」


なんか、3人のスタンスがバラバラだと判ったよ。



「オバは、場の雰囲気に流されるというスキルは持ってないのか?」


『場の雰囲気に流される』って・・・。

さっきの感動が台無しだよーー!

大家さんが強引に話を戻してくれたけど、もう、さっきの、あのホームドラマ風には回帰出来ないね。


恋愛ドラマなんか、そうだよね。

クライマックスをボロボロ泣きながら見たのに、見直したら笑いのツボにはまったりするし。

「場の雰囲気に流される」というのは、確かに貴重なスキルな気がしてきたよ・・・。


「そもそも、私は昨日出会ったばかりの余所者ですから・・・」

なぜか「おば」さんは胸を張って応える。


「お前、すっごく常識的なことを言っているつもりだろうが、メシ時はお前の独断場だったよな」


「私はタダメシ食いのオーソリティーですから。えっへん」


これこれ、「えへん」はダメすよー!!

威張る要素がヒトカケラもありません。


「・・・」

「・・・」


「・・・。

ほら、『袖振り合うも多少の縁』て言うよねー」

やっぱり私がフォローするしかないよね。


「うずっち、それは『多生』です」


・・・。

こまい男は、せからしかねー!!!

・・・。


「いや、ほら、同じ釜のごはんを食べたというか・・・」

フォロー2発目!


「そうですね。

日本の心を共有出来たという所ですかねー。にこり」

「ほお・・・。

パンではご不足でしたか・・・?ぶすり」


きゃー、大家さんと四谷さんの反応が真逆だー。

朝ごはんのシェア争いがまだ続いていたのかー・・・。

お昼時を迎えるのが怖い!


「お昼はもちろんパスタですが、お口に召さないのでは?ヒヤリ・・・」

「仕方ないなあ。とっときの自然栽培のササニシキを炊飯しとくか・・・。うきうき」


今度も反応が真逆だ・・・。反転してるけど。

そうだった、ランチは、大家さんが和食で四谷さんが洋食派だった・・・。

しかし!

成り行きで、お昼ごはんもゲットだぜい!

偉いぞ、私!!

しかもなんやらフォロー成功してるっぽい。


「・・・。大家さん、四谷さん・・・。

鹿がせんべいちょうだいって言ってるよ・・・」

「おば」さんが敬虔な信者さんみたいに白い指を組みながらうつむいて・・・、残念なお祈りを始める・・・。


「・・・。

お前、食い物になると、威厳をかなぐり捨てるよなあ・・・。」


え?元から持ってないでしょう?

しかもきちんとTPOは出来てるし。伸びる子だね。


「無い物ねだりは駄目だよ、乙子ちゃん」


「・・・。

うずめ・・・。

もしかしたらお前が一番、オバの扱いがひどくないか?」


「神の威厳は信者が作るものです。

私のせいではありません」

え?スルー?こだわり、なし?


「なるほど。

じゃあ、向こうの世界ではちゃんとした神なのか」


「・・・」


あ!「おば」さん、目線、逸らした・・・。


「・・・。

まあ、『神にかまうな、仏ほっとけ』と言いますからね」


四谷さん、なんのフォローにもなっていません・・・。


「まあ、あれだ。

成り行きとはいえ、家族みたいなもんだと思って良いぞ」


お!ホームドラマ回帰?

大家さん、よっぽど100年の家庭訪問に同情してるのかな?

雲水修行と間違えてませんか?

「おば」さんのは、ただの行き当たりばったりだよ。



「はい?私はあるじで貴殿方はしもべですよね」


だめだ、こりゃ・・・。


「気負わずにリラックスして良いということですよ」


四谷さんナイスフォロー!


「え?では・・・。

四谷お兄ちゃん」


「はい????????」


「うずめお姉ちゃん」


これこれ、めっちゃ年上の妹?????


「オバはオバなんだから『お婆』だろ!!」

激しく同意!


「お姉ちゃん!お母ちゃんがひどい!!」


なんで下町言葉?


「お前は『嫁に行った長女の嫁ぎ先の向かいの醤油屋の隠居の将棋仲間の連れ合いの叔父の祖母』に決定な!」


「えーん、縁が多少過ぎるよーー」


「縁は『多生』ですよ」


「『水に落ちた犬は叩かれる』って、本当だね、うずめ」



「いえいえ、『叩くな』が正しいですよ。

突き落とした後はしばらくは観察してから対応を決めるのです。温情を売って手駒にするとか・・・。

何事も加減です」


「やっぱり『叩け』だろ!

貴重なチャンスを無駄にしてはいけない」


やっぱり二人とも鬼畜だね。


でも、「おば」さんは私と同じスタンスなんだ。

弱者目線だよねー。


「うずめ、それはただの敗北主義です」


「そうだぞ、叩かれるのが嫌なら、落ちなければ良いだけのことだ。

まあ、落ちたって、きっちり迎え撃つだけだが」


「お二人とも、すでに臨戦状態ですねー」


「おば」さん、嬉しそうに言うけど、お二人のやる気って多分こっちにも、とばっちりが来るよ・・・。


やっぱりホームドラマは無理で、戦記物になるのかなあ・・・。




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