第二十一話 朝も早よから
押し潰されるような胸の痛みにうめいていると、なにやら変な言葉が響いてくる・・・。呪文?お経?
重い瞼を何とか開いてみると、私に馬乗りになっている「おば」さんの姿がぼんやり見えた。
「お父ちゃんお父ちゃん、虎が『パンちょうだい』って言ってるよ」
「誰が『お父ちゃん』ですか!?」
『おば』さんがなにやら戯言を宣っておられる。
私はお酒を飲んでないのに二日酔いみたいに体が重い。さらに関節がギシギシする。
昨夜、夢現に何度か金縛りになった気もしたが、やっぱり「おば」さんが原因だろーね。
たぶん、「おば」さんが私を敷き布団か枕がわりにしたんだと思う。しかも現在は馬乗りにされている・・・。
やっぱり、気分は悪代官様に拉致された村娘だよ・・・。
「『おば』さんが変なおまじない言うから、すごい怖い悪夢にうなされていたんだよ!」
「おまじないじゃ、ないよ。落語だよ」
おい、知ってて使ったんかい?イミフ。
「どんな夢?」
「異世界であんぱんに転生して捨身飼虎するっていう・・・」
「あ、落語の内容そのまんまだ」
え?違ったと思うし。
そんな落語、笑えないでしょう?
「あ、もしかして正夢?」とボソリと「おば」さん。
おい!私は異世界行ったら食べられて死ぬんかい!?
すでに死亡フラグ?
怖すぎて突っ込めないから、聞かなかったことにして話を戻す。
「そもそも言葉はTPO を考えて使うものだからね」
「TPO ?」
「言いたい言葉を言うんじゃなくて、その場に『ふさわしい』言葉を言うべきなんだよね」
スベり歴イコール年齢の私が言うんだから確かだ。うん。
「『おば』さん、昨日お酒を飲むときに何て言った?」
「え?『君の瞳に乾杯』」
「それはね!
イケメンが言うから良いの!
押しが言うとときめくの!
アイドルが言ったら可愛いの!
人気者が言うから面白いの!
ブサメンがったら犯罪!
キモオタが言ったら公害!
オヤジが言っても石ころ!
女の子が言っても無意味!!
あ、ズカのお姉さんはOK」
「はあ・・・。」
いやー、久しぶりにアツく語ってしまったぜい。
「でも、大家さん、顔を赤くしてられましたよ・・・。
懐かしかったらしいです・・・」
「はい?乙子ちゃん、なんなの・・・?」
まさか昔、旦那さんが調子者のおスベりさんで、それをまんまと真に受けたとか?
この場合被害者はどっちだろう?旦那さんに全額ベット!!!
「おとこちゃん?」
「え?ああ。大家さん。
田力乙子」
名前を聞いた時に大家さんの子供時代の国語の時間の阿鼻叫喚がリアルに浮かんだ。
「田に力で男だってよ」と向こう見ずの男子が、笑った瞬間に圧倒的な腕力で青空に吹っ飛んでいく。
先生は立場さえ忘れて命乞いを繰り返す。「俺じゃない、親を恨め」って、先生それはNGでしょう?
女の子たちはフォローしようとして火に油を注ぐ。「男子が笑ったけど、私たちは笑ってないからね、たぶん」矛先を他に向けて自分達だけ落ち延びようという姑息さが見え見えな上に、『たぶん』ってあまりにも弱気でほとんど前途を諦めているし。
バイオレンスホラーだね。
現実は小説を越える!私の妄想ではないと思う、きっと史実だ。
怖くて検証できないけれど。まあ、他人事だし、どっちでも良いけどね・・・。
「さて、『おば』さん、行くわよ!」
「はい?どこへ?」
「朝ごはん。
私がPKOを教えてあげる」




