第一話 突然のピンポン
ピンポーン。
ドアチャイムが鳴る。
私には家に訪ねて来るような友人はいない。
だから来るとしたら訪問販売か町内会のお知らせか宗教の方か。
ビンボーな私だから宅配なんてハイソなご訪問はありえない。
どれにせよ、どっちみち面倒臭い。
私は即座に居留守を決め込む方針を立て、物音を立てないようにその場でゆっくりうずくまる。ついでに息も止める。
1、2、3、4、・・・。10まで数えたら苦しくなったので息を吐き出す。
ピンポーン・・・。
絶妙なタイミングで再度チャイムが鳴り、慌てた私は吐ききった状態でまた息を止める。
あかん、あかん。これは辛すぎる。
盛大に息を吸ってしまうと肺が悲鳴をあげ、私は噎せかえりながら床を転げ回る。ゴンゴロドンドン。
ピンポーン。待っていたかのようにチャイムの追い打ち。
オペレーションフェーリオ。居留守はばれました。
「はーい・・・」
仕方なくしぶしぶ返事をする。
するとパタパタと遠ざかる足跡がする。??
扉を開けてみると案の定、誰もいない。なんなの?
返事をした途端にいなくなるなんて変。
あ、もしかして、居留守を使われたのが分かって怒って帰っちゃったのかな?
自分がすごく嫌な子に思えて、膝を抱えて涙ぐむ。
会ったこともない人なのにすごい申し訳ない気分になって、もし次があったらちゃんと応接しようと自分に約束した。
すると
ピンポーン。
私の気持ちの高揚に合わせたかのようにチャイムが鳴る。
「はい!ただいまお開けします!!」
どこぞの執事様かというような返事と敬語を発して、おもむろに扉を開ける。・・・が。
誰もいない・・・。
肩透かし。
私の高揚は?私の覚悟は?私の期待は?
しぶしぶ学校に行ったら日曜日だったときのあの気分。
勉強は嫌いなのにその時だけは心の底から授業をしてほしかった。
眠いのに着替えて5分も歩いてたどり着いた私の頑張りを無にするな!と文部大臣に直訴したかった。
でも、もし平日だったら完全な遅刻の時間だから、怒られなかったのでラッキーと思うことにした。
でも今の私は違う。そりゃあ、最初は居留守を使ったけど、結局はちゃんと綺麗なお返事が出来たのだから、その対価としての満足感がなければならないと思う。正当な労働者の権利だ。
すると。
ピンポーン。
なんだかんだと30分ほどイジイジしていたら再びチャイムが鳴る。うむ、宝くじはまだ残っていたのだ。
私は返事もしないですぐさまに扉を開ける。が。
またしても、誰もいない・・・。
逃げ足、速すぎない?
もしかしたら、押した途端にいなくなっていない?
まさか、ピンポンダッシュ?
いたずら?