続・ゴミスキル『虫眼鏡』が覚醒して『神眼』に進化したので、俺を無能扱いして追放したやつらにざまぁする!
まさかの続き。前作知らないと何がなんだかなので、あらすじか前書きだけでも御一読を。
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「んっ、お父さんの煮物おいしい」
「そうだろそうだろ!」
「美味いのはミルが『魔抜き』したからだろ」
「そうよねえ。お父さんの料理はもともと魔力過多だし」
約二か月ぶりに故郷の村に帰省した私は、両親と二つ年上の兄と共に夕食をとっていた。家族はみな作物を育てるのに役立つスキルを保有していることから、村でずっと農業をしている。
「でも、お芋に十分な魔力が含まれてなかったらこうはならないよ」
「そうだろそうだろ!」
「ミルはお父さんに甘いわねえ。成長促進スキルしか使えないってはっきり言っていいのよ?」
「だな。親父もせめて適正配合サブスキルを育てれば、もうちょっと作物に甘みが出るのに」
「お前ら、俺に厳し過ぎないか?」
十分な魔力を含んだ作物はとても美味しい……らしいが、総じて大味のようだ。そのため、保存食として加工することで、素材の隅々まで魔力が浸透して多様な味わいとなる。そして、保存期間が長ければ長いほど、濃い味覚をもたらす魔力が徐々に抜けることから、収穫した作物の多くはすぐに保存食として加工されている。
「まあいいか。ひさしぶりにミルが『魔抜き』した酒がうまい!」
「お父さん、飲み過ぎないようにね。でも、ミルもありがとうね。今回も村で仕込んだお酒を全て『魔抜き』してくれて」
「帰省のついでだし、別にいいよ」
「いまやウチの村の名産だもんな。麦や干し肉の『魔抜き』もいいが、出荷量は限界があるし」
村にいた頃も、私自身が料理をすることで無意識に『魔抜き』を行っていて、なぜか味が大きく変わることがわかっていた。けれども、王都の教会で炊き出しの手伝いをしている時に、私が材料を用意しただけで同様の効果があったことから、『魔法現象無効』の詳細が判明していった。今では、無効化の範囲を細かく操作することが可能だ。
「じゃあ、明日の朝には王都に戻るね。これ、今回の仕送り分」
「本当に、王都で活躍しているんだな。司教様達は親切か?」
「うん、とっても。こうして、数か月に一度は帰省させてもらえるし」
「そうか。くれぐれも無茶はするなよ。最近は魔王軍の活動の影響で、王都周辺に魔物が頻繁に出没するらしいからな」
「……うん」
私は、故郷の家族に冒険者として活動していることを知らせていない。今でも、王都の教会総本山で奉仕活動を続けていると思っている。相応の収入は、判明した『魔法現象無効』を活用した貧民層救済活動への王宮からの補助金より賄われている……ということになっている。
もっとも、冒険者稼業の合間に教会での手伝いは継続しているから、嘘ではない。まあ、情報網がほとんどない僻地にある村なので、私が『Sランク冒険者として活動しているミル』ということはわからないままだろう。村の出入りは行商人ばかりである。余計な心配はさせないに越したことはない。
◇
そうして翌朝、王都に戻るため―――家族には、隣村からの護衛付き乗合馬車で戻ると伝えたが―――森の中の細い街道をてくてく歩いていると、道の先の方から、魔法によるものと思われる戦闘音が聞こえてきた。
ごうっ……
ぶもおおおおおっ!
「くそっ、炎の槍がまるで効かねえ!」
「束縛スキルも力づくで跳ね返されちゃう!」
「お前たちは馬車の乗客を連れて森の中へ逃げ込め! 俺が水魔法付与の剣で逃げ道を作る!」
「リーダー!? 囮になるつもり!?」
「いいから、行け!」
もしかすると、私が乗ることを想定していた乗合馬車だろうか。何頭もの魔力変質した巨大な猪に襲われている。いまのところ怪我人は見当たらないが、馬車は破壊され、護衛と思われる冒険者と乗客が魔物に取り囲まれている。
ここで見過ごす選択肢はない。私の進行方向でもあるし、勝算もある。そう思い、近づこうとして―――
「ふっ、俺の神眼スキルが囁いている! そう、こいつらの弱点は目だ!」
「んなことはわかってる! マッドボアの情報はギルドの初級本の真ん中辺に書いてあるからな!」
「ごふっ」
「せめて、魔法付与された弓を使う者がここにいたら……!」
………………。
通常運転の彼を見た私は、脱力するしかなかった。なんだってこんなところに……。
いや、脱力している暇はない。私は、近くの木の枝を何本か折り、『魔法現象無効』の範囲内として意識する。そしてそのまま、魔物達に突っ込んでいく。
たったったっ……
「え、誰!?」
「おい、近づくな! 危険だ!」
猪たちに囲まれていた冒険者や乗客たちは、走り込んできた私に気づいたが、巨大な猪たちは私に気づいた様子がない。どうやら、魔物としては高度に魔力を含んでいるようだ。だから、五感も魔力に支配されている。
ぐさっ
ぶおおおおおおおおっ!?
1頭のマッドボアに後方から近づき、思い切り枝を挿す。それだけで、巨大な猪は苦痛と戸惑いの声を上げ、そして、
「えっ、魔物が黒い霧になって消えていく……!?」
「あんなの、初めてみたぞ……!?」
剣と魔法を繰り広げていた冒険者達から驚愕の言葉が漏れる。どうやら、王都で活動する冒険者ではないようだ。この一年で『私のこと』はギルド内で相応に知られている。でも、だとしたらカイはなぜここに?
「ミル! ミルじゃないか!」
「……カイ、なぜ、ここに?」
「こいつらが、俺を追放したパーティメンバーなんだよ!」
「あのままいたら、お前確実に死んでただろうが! つーか、今まさにそうじゃないか!」
なるほど、もともとカイも地方都市の冒険者だったのか。だから初対面の時、私のことを知らなかったのか。
まあ、それはどうでもいい。今は魔物達を確実に倒そう。
「リーダーの人! 私がこのまま逃げ道を作ります! 3頭ほど消えたらすぐに皆を外に誘導して下さい!」
「……わかった!」
剣で魔物への牽制を続けていた冒険者のリーダーらしき人物が、私の意図を汲み取ってうなずく。リーダーだけあって、決断力はあるようだ。
「いやいや待て、俺の『神眼』によると、この魔物は俊敏性が高く……」
「見てればわかるだろうが! さっさといくぞ!」
「ぐえっ」
カイの首根っこを掴んで引きずっていくリーダー。面倒見のいい人だなあ。
そんなことを考えつつも、確実に逃げ道を確保するため、私は魔物達の一角を次々と『消滅』させていく。
「よし、全員脱出できた! これからどうする!?」
「私が捉え損ねたマッドボアに対応して下さい!」
私がもともといたあたりまで後退した冒険者達(首根っこを掴まれたままのカイを含む)と乗客を確認した私は、一気に殲滅に走る。文字通り、走って。
ぶぼおおおおおおっ!
ぼふっ、ぼふっ、ぼふっ
仲間が不可思議な現象で消えてしまったというのに、残りのマッドボアは私に相対するように向かって来る。魔力過多の動物は、その精神が荒々しい短絡的な性質に変化するという。必ずしもそうとは限らないが、この魔物達に限っては、判断力を失う方向で変化したようだ。
その巨体を揺らしながら向かってきた魔物の1頭に、『魔力現象無効』の範囲にしたままの枝を投げる。命中精度は良くなかったが、目のあたりを掠ることはできた。
ぶもおおおおおっ!?
目が弱点というのは間違いなく、わずかなかすり傷―――『魔力現象無効』によってかすり傷の周囲が少し消えたことで、魔物は急に突進をやめて激しく悶え、蹲る。
「……残念だけど、このまま消えてね」
ぽすっ
地面の上で固まっていたマッドボアの頭に触ると、あっという間に黒い霧となる。先ほど枝で消滅させた時よりも、より早く消えていく。
そこでようやく気づいたのだろうか、残り2頭が突進をやめて後ずさりをしたと思ったら、森の中に逃げていった。冒険者や乗客がいた方向とは反対だったことから、そのまま見逃す形となった。
◇
ガタゴト、ガタゴト
「そうか……。君もこいつには苦労させられているようだな」
「ええ、まあ」
「酷くね!?」
「酷くない! あんた、こんな小さくてかわいい娘に何迷惑かけてんのよ!」
「だよなあ。少しばかり特別な鑑定対象を覚えたせいか、余計ヤバくなってねえか?」
「王都なら、カイもできる雑用が多いと思って向かわせたのだがな……」
「ざまぁしたいやつらにざまぁされた」
途中の宿場町まで向かう方向が同じだったことから、ついでに乗合馬車に乗せてもらって移動することになった。先ほどの魔物退治の報酬代わりという体裁だ。私がカイを王都に回収するついでともいう。
ちなみに、破壊された馬車については、パーティメンバーのひとりがもつ復元スキルで元に戻った。時空間魔法とはすごい.思った以上に上位の冒険者パーティのようだ。カイは間違いなく足手まといだろう。
「でも、ミルちゃんの能力?体質?もすごいね!」
「一気に倒すと、討伐証明部位までなくなってしまうのが欠点ですけどね」
「いやいや、なによりすごいのがその度胸だ。いくら『魔法現象無効』といっても、魔物にだって多少の物理攻撃は含まれるだろう」
「そうですね。そこは、王都ギルドの修練場で訓練を受けました。ナイフを避けるとか、護身術レベルですが」
作物の『魔抜け』の話ではないが、強力な魔物もある程度の実体はある。魔物のスモールマッドベアは弱い部類だが、あの爪をまともに食らったらそれだけで大惨事である。
「ところで……この街道って、あんな魔物が頻繁に出没するような場所じゃないですよね?」
「そうだな。いよいよ、魔王軍の活動が活発になってきたか」
「レオは……まだ四天王の隠し砦が発見できないようですね」
「ん? 『勇者』と知り合いか?」
「ええ。同じ王都ギルドの所属ですし、一度、勇者パーティに誘われたりもしたのですが……」
「え、なんだよそれ! 俺を紹介してくれ!」
「お断りします」
カイはざまぁとか以前に『身の程知らず』という言葉を覚えた方が良いようだ。まあ、魔王軍に関する知識を詰め込めば『神眼』スキルが結構活躍しそうなのだが……未だに文字を覚えていないカイは、それ以前の段階のままである。
「それで? 勇者パーティ参加を断ったのか? なんというか、魔族の天敵のような存在だと思うのだが」
「多勢に無勢ですよ。先ほどのような魔物の群れ程度なら遅れを取りませんが、膨大な魔力を有しながら知能が高いのが魔族です。戦略的に対処されたら、私なんて瞬殺です」
明確に『天敵』とみなされて大群をぶつけられたらおしまいである。私はいつまでも戦い続けることはできない。一応、勇者や王宮には認知されており、いわゆる『切り札』のように捉えられている節はあるのだが。秘匿とまではいかないまでも、私の存在が国土全域に広く知らされていない理由としては妥当かもしれない。
「よし! それじゃあ、魔王軍四天王の砦を探しに行こうぜ! 一度でも俺が見れば、似たようなものがさくさく見つかるだろうしな! さすが俺! さすオレ!」
「カイはその前に、魔王軍の基礎知識を学ぶべきかと。推定規模は?」
「……一万人くらい?」
「二百万だ、アホ!」
「なあ、こいつを勇者パーティに入れて魔王領に放り込んでもらった方が良くね?」
「ああ、そうね。万が一にも魔王の決定的な弱点を認識できるようになるかも」
「ミルと違って、帰還しなくても我々に損失はないし」
「いーやーだー! お前らにざまぁするまで死にたくねー!」
ざまぁしたい人々の前で何を言っているのだろう、この人は……。
だからといって、ミルが勇者や追放パーティのメンバーとくっつくわけでもありません。(前作後書きからの続き)