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地底探検  作者: 新庄知慧
39/126

39 あたし知ってる

チヒロは店の中央にあるプールの水面を眺めながら言った。




びしゃり、と緑と赤の縞模様をした魚が水の上に跳ねて消えた。




「そうか。息しなくなっちゃって、死んだのか」




君は我ながら馬鹿な返事だと思いつつそう言って、グラスに残った氷を口にほうばって転がした。




チヒロはプールを指さして、




「ここのこれ、何か、海みたいだね」




と言った。




「海。そうか、小さな海。こんな暗い空間に、ひっそり存在する、小さな海」




「小さくないよ。大きいさ。こういう海、あたし知ってるんだ。暗い地底にあるんだよ。こういう海。きれいださ。




それでね、恐竜とか、大きな亀とか、うみへび、大きな大きな、うみへびいるのね、こういう海って」




「は・・・?」




君は訝しげな目でチヒロを見る。何の話だろう。




子供の死んだ衝撃で、変なことを口走っているのか。弱い青い光の中で、ようやく儚い存在が見えるプール。これが海か。




なんだか詩的で賛同したい。うん、そうだね、海だね、これは。




「地底の海ださ。あたし、読んだんだよ」




チヒロの目は生気をとりもどした。




「ほら、跳ねた。生き物。あれ、きっと子供だ。恐竜の子供だよ」




君はプールを見た。また熱帯魚が跳ねたのだ。今度はかなり大きかった。黒々とした肌が光を反射して、一瞬、眩しかった。






青い闇の中から不意に人影が現れた。




大きな人影。






店のボーイだ。お待ちどうさまでしたと、笑顔で現れた。薄暗い中なのに、そのボーイの笑顔、にっと笑った口元にこぼれた白い歯が、何故か良く見えた。




例のカナディアン・ウイスキーを持って現れたのだ。二つのグラスと氷やマドラーの入った容器、それと水の入った黒いガラス瓶を持って現れた。




やはり美味しくなさそうなカナディアン・ウイスキーのボトルは、不用意に大きかった。




「飲む?」と言って、君はボーイのようにして水割りを作り始めた。チヒロの様子を見れば、彼女に水割りを作ってもらうなどは、とんでもないことだと思った。




「おう、おう、飲も、飲も」




チヒロは叫ぶと、また一気にグラスのウイスキーを飲みほした。きわめて激しい勢いで飲みほした。




喉を鳴らして飲み終えると、またプールの海を見つめなおす。そうして、また君に向かってナイフのような視線を投げつける。あんたも飲めよ、という視線。




君は仕方なく、また飲み始める。




遠慮がちにグラスに口をつけてしまうわけだが、またもやチヒロに「ばかもの!」と一喝されて、一気飲みをやらざるを得なくなる。




そんなことを何度か繰り返すうちに、いい加減、酔っぱらってくる。当たり前のことだ。




・・・・・つづく







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