21 あたし会社いってない
「疲れた。疲れた。死にたくなったさ」
「出ずっぱりって、会社か何かの仕事?」
「会社と違う。あたし会社行ってないよ」
「ふうん」
「今日も大変だったの。朝番だったんだけどね、へんなお客さんで」
風俗関係の人か、と君は気づいた。色々詮索してもつまらないと考え、君は口を閉ざしたが、チヒロの方から問わず語りに語ってきた。
「昼の客の方がね、変態みたいなやつが多いの。はげおやじとか、もうすぐ死ぬんでないかと思うような、なまら歳くったじじいとか。あたしの前にひざまづいてね、あたしの見たいってね、しみじみせがんできたりするの。じじい!ばっかみたい。見せる気になんかなれないよね、商売だから見せちゃるけどさ、やんなっちゃう。
それからさ、若いのでも、自衛隊はおかしいの多いよ。あれ、あれよ、おしっこ。おしっこよ。おしっこ飲ませてくれっちゅうのさ。別に飲ましちやってもいいけどさ、おいしくないしょ。おしっこ。そう思わない?」
急に機関銃みたいに喋り出したので、あっけにとられたが、その通りだと思って君は「うん、そう思う」と言って同意した。
「でも、夜は夜でさ、酔っ払いばっかさ。乱暴はするし、お風呂の中でいびきかいて眠っちゃうのもいるよ。眠るくらいならいいけど、そのままポックリいかれちゃったら大変でしょ。いやだよ、ホントに」
自分で自分の言葉にうなづいて、チヒロは言う。
「いやなこと多いよ」
「いや、でも、その、会社員と違うその仕事、続けにゃならんというのは、お金が欲しいからなの?」
「うん」
「大変だね」
「うん」
ちょっと間があって、
「でも何ともないの」
「いやな客ばっかでも?」
「うん」
「いやな客でも、かわいそうな人たちだって思うから?」
「うん」
チヒロは車窓の向こうの吹雪の空を、ぼうっと眺めている。そして語る。
「うん。何かいやんなっちゃうけど。かなしいような、さみしいような、なんもかもいやんなっちゃうよ」
「落ち込む・・・・?」
・・・・・つづく




