アレがアレでアレをして
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更新遅めですみません
「痛ぁ!!」
骨折をしていた事を忘れていた。強めにテーブルを叩いた右手が、じんじんと痛みだす。隣から、大げさな溜息が聞こえてきた。ふわ、と温かくなった右の手。見下ろすと、王太子殿下が、私の右手を自らの手で上から押えていた。
「まったく……骨折している手でテーブルを叩く馬鹿がいるか」
「…………いた……く、ない?」
「治癒魔法をかけてやった。痛みだけは消す事が出来る」
「え、待って待って。だったら、足の捻挫も治癒魔法かけて下さいよ。医者を呼ぶまでもないでしょ。なんでさっき、すぐにかけてくれなかったんですか?」
「…………相性があるんだよ。治癒魔法にも」
「相性?」
「フラットのような医者は、相性関係なく治療できるように訓練を受けている。私は医者ではない。だから、相性の悪い相手に治癒魔法をかけると、かえって具合を悪くさせてしまうのだ」
「は? なにそれ。だったら、なんで今勝手に治療したわけ? 余計具合悪くなっちゃう可能性もあったってことでしょ?」
「貴様と私の相性は最高なんだ!!」
忌々しいと叫びながら、王太子殿下は顔を背けてしまった。はい、相性最高いただきました。貴様と呼んで蔑んでいる相手である私が、相性最高。そりゃあ忌々しい事だろう。
「え、でも、そしたら最初の質問に戻るけど、なんでさっき足の捻挫にかけてくれなかったんですか?」
「だから! さっきは、貴様が貴様だと気付かなかったから……!」
「ああ。白塗りオバケの中身、知らなかったんですもんね」
「白塗りオバケ……」
「で、話を戻します。事件の匂いがするんですよね」
王太子殿下が気付かない内に、ファーストネームを呼び合う仲になった。これは、よくある魅了魔法のせいなのではなかろうか。短い時間しか話した事がないが、慎重そうな王太子殿下。ピンク女の淑女として全くなってないマナー。前世でよく見た、あざとい女っぷり。これ即ち、魅了魔法でヒロイン気取って逆ハー狙いのクソヒロインなのでは!
「魅了魔法って、なんなんだ」
「あれ? 御存知ないので? そうですねぇ、なんて言ったらいいんだろ。強制的に惚れ薬を飲まされるみたいな、そんな魔法ですかね」
「王太子に向かってそんな魔法を?」
「好きになって欲しかったら誰にだってかけるでしょ。そいつが、自分勝手で、思いやりのない人間ならば」
他人の心を操る魔法だ。使う人間の品位を疑う。万人向けに、自分を魅力的に見せる魔法とはワケが違う。本当に愛している相手がいる人間に惚れ薬を使って自分を愛してもらおうなんて、浅ましいにもほどがあるのだ。相手の人権を無視しすぎている。魅了魔法を使用した人間は、極刑に値する。私はそう思う。
前世が入り込んでから、ずっとヘラヘラしていた私が、急に真面目に語り出したので、周囲の人間は、驚いていた。
「まともな事も言えるのだな……」
「その言葉、白塗りの人向けに言ったのだと思う事にしますけどよろしい?」
「白塗りと今の貴様と両方に言ってる!」
「なんですか! 魅了魔法使われて馬鹿になってた分際で!」
「貴様! 親戚だって不敬は不敬だからな! なんだその言い方は! だいたい私は魅了魔法など使われていない! 精神を操る魔法を防ぐ加護があるからな!」
「アレ還りは何でも大目に見てもらえるって聞きました!」
「アレ還りだとしても限度がある!」
前世還りの人は、この世界の常識など全く知らない。だから、色々な事を大目に見てもらえる。故に、王族にだけは前世還りの情報が行くのだ。事件が起こってしまった際に、前世還りをした人間が不利な事にならないように。まあ、この世界の常識を知らなくても、今さっき私が口にしていた事が不敬だということはわかる。
「王太子殿下が馬鹿になってた件は置いておいて……では、何が起こったのでしょうか。親しい仲になった覚えはないという事ですよね」
「……馬鹿にはなってないが……そうだな、あの令嬢と、親しくしようと思った覚えはない。そして、何時の間にか、ファーストネームを呼び合うようになっていた……」
「その件については、私が説明しましょう」
突然、個室の扉が開き、白い髪の青年が入ってきた。穏やかそうな顔だ。どこかで見たような気もする。
「フラット」
王太子殿下が彼を呼ぶ。こちらをチラチラ見ながら。なるほど、顔を覚えていない私にさりげなく教えてくれたのね。紳士。ちょっと見直してしまったわ。
「アダージョ医師。その節はありがとうございました。今日もまた申し訳ありません。再び、王太子殿下のせいで怪我をしてしまいまして」
「私のせいではないぞ!」
「王太子殿下がおかしくなっていた件について、何かおわかりなのですね?」
文句が聞こえてきたが無視をした。隣で王太子殿下が唇を尖らせて拗ねているのが見える。なんというか、微笑ましい事。対面に座っている母も、王太子殿下をちらちら見ながら口を扇で隠していた。あれ、絶対笑ってるわ。
「私も、卒業パーティーの時に、男爵令嬢とファーストネームを呼び合っていた事に違和感を覚えまして、少し調べてみました。王太子殿下、貴方は、あの令嬢から、『ファーストネームを呼び合うのが当たり前のようにふるまえる魔法』をかけられておりました」
「魔法の名前、長ッ!!」
今までおとなしく成り行きを見守っていたクレシェンドが、目を丸くして叫んだ。
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