もしかしたらふざけてる場合じゃないのかもしれないよ
ブクマ・評価、ありがとうございます~!
「どうもありがとう」
「いえッ! 移動の時は、またお呼び下さいッ」
カフェに逆戻りした私達は、先程と同じ部屋に通された。バランスを崩した拍子に足を捻挫してしまった私。黒服のお兄さん達の中から、一番ガタイのいい男性が、私を難なく抱き上げ、ここまで運んでくれたのだ。筋肉。良い。
ちなみに、私が抱きついてしまった王太子殿下は、驚くほどの素早さで私の肩を押しやって、顔を背けた。どれだけ嫌っているのかしら。失礼しちゃう。そしてすぐに先程のお兄さんを呼びつけて、私の背中を押したのよ。レディーに対する接し方を、ちゃんと学ぶべきだと思う。
「折角だから、わたくし、今度はジャンボチョコレートパフェと、南国から輸入された、お花の香りがするお茶にしようかしら」
「あッ、じゃあ私は、マカダミアナッツクリームたっぷりのふわふわパンケーキと北方地方のお茶をいただきます」
「二人とも食べ過ぎだよ。僕はフライドポテトとジンジャーエールにしようかな」
「ちょっと待ってくれるかな」
家族で楽しく話していたら、私の横に座っていた王太子殿下が、額に手をあてながら、感情を押し殺したような声を出した。
「あ、失礼しました。王太子殿下に先にメニューをお見せするべきでしたね。はいどうぞ」
「…………そういう事言ってんじゃなくてさ」
眉間の皺がすごい。そういえば、こういう顔をしていた気がする。あの卒業の日、一人で不機嫌そうだったものね。まあ、『前の人』が悪いんでしょうけど。
「あッ、そうだわ! 足の捻挫の治療をしなければ!」
母が慌てて店員を呼び、足を冷やすものをお願いしている。それでもないんだけどなぁと王太子殿下は溜息をついた。
「言いたい事は、はっきり言わないと! 何も言わずに相手に察してもらえると思ったら大間違いですよ殿下」
「…………」
「見詰めても駄目です。はい、どうぞ」
「…………さっき君……何故、私の目を潰そうとしていたの?」
「えッ、バレました!?」
「バレるもなにも……目を潰すって言いながら走ってきたではないか」
王太子殿下、耳がいい。しかし、目を潰されそうになったというのに、そんなに怒っていなさそうなのが不思議。卒業の日は、一人でプンスカしてたのに。あと、喋り方ね。あの時は、悪代官みたいな喋り方だったのに、今は、わりと普通の青年のようだ。もしかして、影武者? あり得る。
「影武者の方ですか?」
「何言ってるのかわからないんだけど」
「怒りん坊の王太子殿下が、それほど怒っていないのが不思議で」
「怒るというよりも、困惑が強いんだ。それで? 何故、君は私を襲おうとしたのかな? いや、そもそも、私は怒りん坊ではない」
真相を言ったら怒るだろうか。まあ怒るだろう。だが、正直に言ってしまう。私はいつも人に対して真摯でありたい。なんてね。しかし私も自分が可愛いので、なるべく笑顔を作って口を開いた。愛想って大事だ。
「えへへ、不良グループに因縁つけられると思ってしまいまして」
「……不良」
「だって、険しい顔した人と、その周りの黒服軍団が、ちょっと異様で」
「お忍びなんだ。王族とバレないように、護衛にも騎士服を着せていない」
「えッ、あれで忍んでたの? 嘘でしょ」
全然忍んでない。超絶目立っていた。通りを歩いている人全員の視線を独り占めしてた。これだから貴族のお忍びってやつは。私もよく知らんけれども。
「お・し・の・び・で、街を巡回していたら、ちょうどエイトビート侯爵夫人とクレシェンドが見えたから、挨拶しようと近付いただけだ。そこにいきなり君が飛び込んできた。そして勝手に転び、勝手に私に抱きついて来て、私の護衛に迷惑をかけたというわけだ」
「勝手にって……好きで転んだわけでは……」
「まあ乗りかかった船だ。今、治癒師を呼んでいる。少し待つがいい。うん? 君、右手も怪我しているのか? あ、そういえば……」
王太子殿下が、母と弟に視線をうつす。静かに私達の話を聞いていた二人は、急に王太子殿下に見られて、ピクリと動いた。
「殿下、何かございまして?」
「いや、その、アレ、は、どうしているかなと。卒業パーティーの時に、例のアレが起こり、アレもまた、右手を骨折していた。私のせいというわけではないが、少し気になってな。痛みなどは……出ていないだろうか」
「…………あら、気になさって下さるの? でしたら、本人に聞いてみたらよろしいのに」
母が微笑む。『アレ』ばかりの王太子殿下の話がよくわかったものだ。感心していると、母の手は、私をさしている。『アレ』って私? 確かにあの時に右手を骨折していたのは私だけだけれども。『アレ』は無いわ。王太子殿下、『アレ』の母親に向かって『アレ』は無いわ。母の目が笑っていない。手首を掴まれた時の痕とか見せているからね。母は、私が乱暴をされた事に、怒っていたのだ。
「え?」
間の抜けた声が、隣から聞こえてくる。声の主を見ると、目を丸くして私を見詰めていた。これは、例のやつをお披露目するチャンスなんじゃない? 私は大きく息を吸い込んで、顔の前で手を合わせた。
「ひっどぉい。殿下ったら私の事忘れたのぉ? フォルテそういうのよくないと思う~。ん? 違うな。フォルテ、傷ついちゃったなぁ~。かな。いや、なんかしっくりこないな。あとでイカレポンチ令嬢を観察しに行かなきゃ」
「は? え? その腹立たしいモノマネは……まさか……?」
「フォルテだよぉ。ひっどぉ~いひっどぉ~い。私のことがわからないなんてぇ~」
「いや、モノマネやめろ。言うほど似てないから。それより、貴様、フォルテ・エイトビートなのか!? 白塗りはどうした!?」
「愛が足りないよぉ、殿下ぁ~。婚約者なんじゃないのぉ?」
「候補にすらなってないわ! それに貴様だって、私を不良のリーダーと勘違いして……」
「姉上、それ、誰のモノマネ?」
弟が、ポテトを摘みながら目を見開いている。隣で喚いている王太子殿下を無視し、ニコリと笑って左手の小指を立てた。
「王太子殿下のコレだね」
「こらあああああああ!!」
「うわ! でかい声!」
「女の子が、そんな手つきをするんじゃありません! 貴様、一応、貴族令嬢だからな! それに、キャレイは私の彼女などではない!」
「ほら、こうやって、ファーストネームを呼び合っちゃう仲なんだよ~」
「違う! これは……これ、は……? あれ、何故だ? 何故私は、あの令嬢に、名前を呼ぶ事を許していたのだ。それに、特定の女子生徒とは関わらない方針で過ごしていたのに、何故私はあの令嬢を名前で呼んで……?」
本命(弟)の前で浮気をバラされたみたいな焦り方をしていた王太子殿下は、話している内に、再び眉間に深い皺を刻み始めた。これは、あれですよ。思いがけない方向に、話が進んでしまいましたよ? 王太子殿下が、真面目な顔で考え込んでしまった。部屋の中は重い空気だ。母も、弟も、緊張し始める。ここで私が言うべき事は、ひとつだ。両手をテーブルにバンとつき、勢いよく立ち上がる。空気をスウっと吸い込み、大きく口を開いた。
「事件の匂いがします!!」
読んでくださってありがとうございます。私のやる気の問題なのですが、よかったら下の方の★で、応援してくださいませ~