不良グループが現れた!
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「はあ~、怖いぐらいに買ってしまいましたね~」
王都でも有名なカフェ。貴族用の個室に通され、レスリーに細かく切ってもらったふわふわのパンケーキを口に運びながら、正面に座っている母を見た。ビッグサイズのフルーツパフェに目をキラキラさせていたが、私の声を聞いて、アラと笑う。
「何言ってるの? 寧ろ、少ないぐらいだわ」
「えッ、貴族怖ッ」
「姉上の場合、今まで身に着けてきたドレスや装飾品がすべて酷いセンスのものだったのですから、それを買い直すとなると、今日の分ではまったく足りないと思いますよ」
斜向かいに座っているクレシェンドが、上品にサンドウィッチを食べながら説明してくれる。食べ方が上手ね。生ハムとモッツァレラチーズ、更にとろけるチーズと生野菜をぎっちぎちに詰めたサンドウィッチを、パンの一欠片もこぼさずに綺麗に食べている。貴族って凄い。
ドレスは全てオートクチュールでと母が煩かったが、すぐに着られる普段使いのドレスで私の趣味に合うのが一着もなかったので、プレタポルテで何着か買ってもらった。安物でよかったのだが、母と弟が、それをゆるしてくれず、なんだか普段使いなのに高級品になってしまった。装飾品は、ネックレスとブレスレットとピアス。指輪は、愛する人に用意してもらうのが決まりだそうで、婚約者がいる女性や婚姻している女性しか身に着けないものらしい。だから王太子を殴った時も怪我を負わせる事ができなかったのだ。残念。そして靴は、ヒールの低いものをたくさん買ってもらった。お洒落よりも、足の安全を私は優先する。
「それにしても、このパンケーキ美味しいですね~。お母様のアドバイスで注文して、正解でした。なんだろ、生クリームとも、カスタードクリームとも違う、甘いけど甘くないみたいなクリームが、ぷわっぷわのパンケーキにたっぷり乗せてあって、くせになりそうな……」
「そうでしょう? このお店の一番人気のメニューなのよ」
「毎日食べたら確実に太りますけどね」
「そうなの。たまに食べに来るのが正解なのよ」
フォークを置き、左側に置いてあった珈琲カップを持ち上げる。酸味の強い珈琲は苦手と言ったら、酸味をおさえたタイプのブレンドを持ってきてくれた。色々行き届いているカフェだ。好ましい。ただ、貴族が相手だから、かもしれないが。
「前の姉は、ロイヤルミルクティーしか飲まない人でした」
「ん?」
既に食べ終わってしまっていたクレシェンドが、本を片手に微笑んだ。絵になる。素晴らしい弟だわ。
「ロイヤルミルクティーに、砂糖をたっぷり入れて。どんなに甘いケーキを食べていても、あの姉は、飲むものを変えようとしなかった」
「へえ~。私は、どっちかというとあまり砂糖は入れないかな。紅茶も飲むけど、ミルクぐらい? 珈琲派だし!」
「本当に、別の人なんですね」
「うん? ふふふ、寂しくなっちゃった?」
「そッ! そんな事は有り得ません!」
赤い顔を隠すように本を読み始めてしまったクレシェンドを見てから、母に目をうつす。お互いに困ったように笑ってしまった。酷いと言っても、幼い時から一緒に育ってきたお姉さんだものね。憎んでいたわけではないのだろう。これは、屋敷に帰ってから猫っ可愛がりしてやらねば!
カフェを出ると、何やら通りが騒がしくなっていた。皆が同じ方向を見ている。そちらを見ると、男性の集団がこちらに向かって歩いてくるところだった。集団のど真ん中を偉そうに歩いている紺色の髪の青年の顔は険しい。その周りをかためている青年達は、皆、厳つい顔をしていて、黒い服を着ていた。街の不良グループかしら? 関わったらまずい。
「クレシェンド、口を閉じて。お母様、目を合わせたら駄目よ」
「えッ、いや、姉上?」
「フォルテ?」
不良グループのリーダーらしき青年は、私達を見つけると、目を見開き、ゆっくりと近付いてきた。まずい。因縁をつけられるわ。どこかに連れていかれて売られてしまうかもしれない。ここは、世間知らずっぽい母と弟を、私が守らねば。
「二人とも。私が、あのリーダーの青年の目を潰すから、その隙に走って逃げるのよ!」
右手は骨折しているから、左手で勝負ね。大丈夫、目なら硬くないわ。私でも、相手を怯ませるぐらいは出来る。あまり力の入らない体を低くして、猛然とダッシュをした。驚いた顔の不良に私の左手が届こうとした時、後ろでクレシェンドが叫んだ。
「王太子! 王太子殿下ですよ姉上!」
「はッ!?」
振り返った瞬間に、バランスを崩した。左の足首がグキっとなった感触。痛いと叫びながら、転ぶ。転んだ先は、不良の胸の中だった。
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