表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/22

王宮侍女、レスリーの話・前編

2巻配信開始記念の番外編です。

前後編でお送りいたします。

私は落語が大好きでして、しばらく寄席にいってないなぁ~

困った時の落語仕様のお話。久しぶりに書いた落語仕様なので楽しんでいただけるか心配ですが、頑張って書きました!面白いと思われましたら、後編の最後に、★★★★★で評価などいただけると高いところまで飛び上がって喜びます!



 お初におめもじ致します。

 わたくし、王太子妃であらせられるフォルテ・グランディーザ様の、筆頭侍女を務めさせていただいております、レスリー・ハンターと申します。

 寡黙な侍女として有名な私ですが、実は心の中は結構饒舌な子爵令嬢でございます。何にでもすぐに対応できるチート侍女を目指して、日夜努力を重ねているところです。


 さて、私の家名である『ハンター』には、狩人だったり、探し求める者だったり、追及する者、なんていう意味があるらしいです。家名がそのまま家族の性格に反映するわけではありませんが……。

まあ、確かに私、こう見えて狩りは得意です。



 兄弟姉妹が多い家系で、家名のせいなのでしょうか、嫡男である長男は我が領の主要収入源である狩猟が得意です。そして次男は世界をまたにかけてお宝を探し求める、トレジャーハンターなどを生業としております。姉は追及したい欲求が激しすぎて、凄腕捜査官として王都では有名です。

 そんな兄や姉に囲まれて、健やかに育った私。あれは、五歳になるかならないかの頃でしょうか。お恥ずかしい話、王都を騒がせていた犯罪集団に、誘拐されてしまったのです。ええ、かの有名な犯罪組織『貉』です。身代金目当ての誘拐でした。彼等は、我が領を拠点としていたのです。

 ハンター家は愛情がないわけではないのですが、お金がない家でした。身代金を用意するために、我が家はあちらこちら走り回ってくれていたようですが、請求額に満たないお金しか用意できず、私のお迎えはいつまでたっても来ませんでした。


「お前、捨てられたんじゃね?」


 ボスと呼ばれていた男が、私を気の毒そうに見て言いました。

「……そうですかね?」

 その当時から、丁寧語が板についていた私です。落ち着いて丁寧語を話す五歳児。泣き喚いたりしない私を見て、ボスは目を丸くします。

「だってよぉ、いつまで経っても迎えが来ないじゃねぇか」

「身代金が集められないからだと思います」

「そうだけど! そうなんだけど! だいたい、お前のその冷静な態度はなんなんだ? 本当に五歳児か?」

「は? まさかこの私が、六歳児にでも見えますか?」

「五歳も六歳もたいして変わんねぇだろ!」


 ところで、その時私が連れて来られていたのは、犯罪組織の幹部達が作戦会議を練る場でした。そう教えられたわけではないのですが、誘拐されて一週間目、既に私はこの建物の構造を把握していたのです。

「犯罪組織『貉』の訓練施設、『貉の穴』……」

「は? お前、何故その名前を知って……」

「私の家族が身代金を集められないことも込みで、全て私の狙い通りです」

「わざと誘拐されたってことか?」

「ええ」

「…………いや、だってお前、その割には毎日夜になると抜け出そうとして、見張りに捕まって部屋に戻されてたよな」

「わざとです」

「ええ~?」


実は私はこの集団の訓練方法に興味があったのです。

 昼は各々、それぞれの生活に溶け込む必要があるために、こちらの訓練施設が開場するのは、夜間です。夜間訓練を行っている場所に行っては、満足するまでその様子を眺めておりました。頻繁に部屋を抜け出すので、逃げ出そうとしていると思わせなければなりません。訓練方法を一通り眺めると、私は敢えて部屋から逃げるように派手に動きまわり、見張りに捕まっていたのです。

ここでは、毒に体を慣らす訓練が多く行われています。以前、我が家に入り込んだ暗殺者がこちら出身で、魔法が使えない日でも、自分には毒が効かないと笑っておりました。普段ならば、毒は魔法でいかようにも中和することができます。ですが、この世界には、魔法が使えなくなる日がある。万が一その時期に毒を盛られるようなことがあったら、解毒剤が間に合わずにそのまま命を落としてしまうかもしれません。ですので、毒が効かなくなるような訓練があるのならば、私も受けておきたいと思ってしまったのです。


「そろそろ」

「あ?」


 そろそろお暇致します。


 呟きながら、印を結ぶ。これ、我が国の東方地域で流行っている子供の遊びです。『にんじゃごっこ』と教えていただきました。我が領の領民は、幼い時から強い力に憧れのようなものを抱いていて、恥ずかしながら私もその一人なのです。

 魔法を使用しますので、印を結ぶ必要は一切ないのですが、雰囲気でしょうか。私はこうする方が、魔法の効果が強いような気が致します。

 印を結んで目くらましの魔法を唱えると、ボスの目の前から私の姿は掻き消えました。ハっと我に返ったと思われるボスが、大きな声で『子供が逃げたぞ』と叫びます。

 いえ、実は目の前にいるんですけどね。さすがに転移の魔法は使うことが出来ず、私は壁紙に擬態しながら、部屋の様子を窺っているところです。とりあえず、もう用は無いので、こちらの施設は壊滅させます。

 懐から吹き矢を取り出し、確実に一人ずつ仕留めて行きました。仕留めると言っても、さすがに殺人は後味が悪いので、痺れ薬を命に別状がない箇所に命中させておくだけです。おそらく24時間は動けません。ええ、ただそれだけです。やはり、『貉の穴』で訓練をうけた仲間ですからね。いわば『おなじあなのむじな』ですからね。意味はわかりませんが、東方地域で出されている小冊子で言葉は知りました。ええ意味はわかりません。そして、彼らからすれば、訓練を盗み見していた私は仲間でもなんでもないのでしょうけれど。


 全員動けなくなったのを確認して、窓から身をのりだし、指笛を吹きました。それに呼応するように、遠くで狼が遠吠えをしています。直に迎えがくるでしょう。

 上空で三回火薬を小さく爆発させました。私が無事に帰宅するという合図です。愛情深い母あたりが発見したら、こちらに転移してくるかもしれません。私の飼っている狼と、どちらが速いか、見ものです。



 無事に家に帰った私は、それから数年、血反吐を吐きながら毒の訓練を続けていったのでした。

 少量の毒を摂取して段々慣らすというもので、超アナログな特訓です。あの施設で訓練を盗み見る必要もなく、東方の小冊子に書いてあることに、帰ってきてから数か月後に気付いたのですが、さすがの私も無駄なことをしてしまった悔しさに泣きそうになりました。五歳ですから涙脆いのも仕方ないことです。

 悔しさをバネにして私は頑張りました。あらゆる毒を口にして、何度も死にかけました。今でも、毒の中に得手不得手がありまして、これからも精進しなければならないなと思っている次第です。


 五歳の幼女に制圧されてしまった、私の『おなじあなのむじな』達は、心がポッキリ折れてしまい、今では真面目に働いているそうです。





後編へ続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ