鍛錬が必要
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「貴様! 今度は、記憶喪失のふりか!」
紺色が、私の手を乱暴に掴み、怒鳴ってくる。それを、白いのが慌てて止めてくれている。
「痛い痛い、痛いって!」
「殿下、お止め下さい! 相手は侯爵令嬢なんですよ!」
「ええい、うるさいうるさい! この女狐には、令嬢としての扱いなど不要だ!」
時代劇の御殿様みたいな話し方をする。しかも女狐って。耐えられずに噴いた。目の前の男の顔に、おもいきり唾を吹きかけてしまった。
「あ、ごめん」
「ごめんですむかあああああ!!」
激怒した男が、掴んだ腕に力を籠めた。ぎゅうと絞られるような激痛に、思わず自由な方の手を振りかぶり。
「あッ、やべ」
男の顔面に、拳を叩きいれていた。
「暴行を受けました。怖かったです」
全治二か月。私の右手中指と人差し指の骨折の度合いだ。
今、王宮監察官から、事情聴取を受けている。右側に腰掛けた白い髪の青年は、治癒魔法をかけたのち、包帯を巻いてくれていた。私の記憶によれば、治癒魔法などという素晴らしく便利そうなものは、ぱぱっと怪我を治してくれるイメージであったが、割れた骨を元の位置に戻すぐらいの事しかできないらしく、あとは自然治癒を待つのだそうだ。よほど重症でないかぎり、大きな治癒魔法は使用されない。そうじゃないと、自己回復力が、無くなってしまうのだとか。まあ、どうせ、王族であったり政府の要人であったりすれば、全回復してしまうような魔法を使ってもらえるのだろうけれど。そこは、マネーがものをいう。お金の力は、いつの世も、どこの世界も同じだ。
「おい。暴行を受けたのは私の方だろう!」
「この左手の手首を見てください。強く掴まれて色が変化してしまっています。ああ、これ、痣になったりしないかしら。嫁入り前なのに、不安だわぁ」
「…………くッ……」
左隣に腰掛けて文句を言っていた紺色の髪の青年を無視して、監察官に訴える。眉を下げ、悲しげに手首を差し出すと、監察官の顔色が変わり、隣の男が静かになる。
私の攻撃は、見事にヒットした。だが、男の顔には傷ひとつつかず、かわりに私の右手の指二本が骨折してしまった。なんという非力な女。痛みに呻き声をあげているところに、誰が呼んでいたのか、王宮監察官が飛び込んできたのだ。殴った瞬間じゃなくて、本当に良かった。
「あの、私は、この部屋で、何か不正が行われる可能性があると報告を受けて、こちらに来たわけなのですが……殿下……これは……」
「ち、違う! 私は暴行など……!」
「しかし、現に、こちらのフォルテ・エイトビート侯爵令嬢は、全治二か月の重傷を……」
思いがけず、自分のフルネームを知ってしまった。変な名前。そして、侯爵令嬢で、女狐、だったかしら? 再び噴き出した。
「だから、何故笑う!」
「失礼。ええと、監察官様、こちらで何か不正が行われるというのは、どなたからの報告ですか?」
急に真面目に話し出した私に、紺色の男がぎょっとする。まず、おかしな話なのだ。気絶をした私と、多分お医者様。そして、殿下と呼ばれている人物。その三人しかいない部屋で、不正が行われる。その情報をもたらした相手は、いったい誰なのか。行われる予定だった不正とは? 何もわからない状態では、何かに陥れられても気付けない。少しでも情報を頭に入れておきたい。まあ、監察官が、密告じみた事をしてきた相手の名前を簡単に教えてくれるとは思えないけれど。
「キャレイ・ポンティ男爵令嬢です」
「あれ? 言っちゃうんだ。やばくない?」
「は?」
「あ、いいえ、こっちの話です。ええ? イカレポンチ男爵?」
「キャレイ・ポンティだ!!」
左隣から怒鳴られた。この人、血圧大丈夫だろうか。ずっと怒っている気がする。
下の方で、★をいっぱいにしてもらえると、やる気でるなぁ~、頑張っちゃおうかな~、なんて思ったりしますよ!