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妙な詠唱しなくても魔法は使えるのよね

急展開



「酷いわ!! やっぱり王太子殿下じゃなかったのね!?」


「なんで王太子殿下だと思ったの!?」


 驚いて叫んだ私の百倍ぐらい驚いた様子で、男は叫んだ。酷い。勝手に思い込んだのは私だけれど、ものすごく裏切られた気分だ。これでは、自分の迂闊さを、また説教されてしまう。主にあの王太子に。あの人なんであんなに小姑みたいなのかしら。お嫁に行く人は大変ね。心底同情しちゃう。

 このままでは、正座させられてお説教コースだ。なんとか挽回しておきたい。私は魔法を使う事にした。まずは、『コッソリと鍵を開ける』魔法。これで、誰でもこの部屋に踏み込める。そして、『密室で話そうがなんだろうが報せたい場所に大きなスピーカーが現れて密談を白日のもとに晒す』魔法だ。白日のもとに晒すシリーズは大好きでたくさん作った。大きなスピーカーは、お茶会会場の二か所に設置する。


「どうして、私がお手洗いかの扉から出た時にすぐ見える壁のところに、王太子殿下のふりをして立っていたの?」

「は…………?」

 この男は、別に王太子のふりをしていたわけではない。私が勝手に勘違いしただけだ。だから、私の台詞に驚きすぎて、まともに返事もできない。

「そして、私の手を掴み、お茶会会場に向かって約二十メートルほど歩いた廊下の左側にある扉をあけた途端、私を部屋の中に突き飛ばし、鍵をかけて、私の殺害を宣言したわね?」

「え、いや、なん……尋問か?」

「貴方は、仕事で私の事を殺すと言いましたわ! どなたに頼まれましたの?」


 狼狽えていた男は、ようやく冷静になってきたのか、顔から表情を消して私を見詰め返した。懐から、刃渡り二十センチほどのナイフを取り出して構えている。銃刀法違反ってやつじゃないのかしら。あれは刃渡り何センチからだった?


「…………お前が知る必要はない」

「あら、そんな事おっしゃらずに教えて下さいな。何も知らずに死ぬなんて、死んでも死にきれないわ。死人に口なしと申します。どうか、冥途の土産に教えて下さい。もしかして、前三人の王太子殿下の婚約者様も、貴方が?」

「…………」

「白塗り令嬢のせいにされていたけれど……本当は、私の殺害を命じた人間が、全ての黒幕なのではありませんの?」


「ふッ……ふふ……ははは! 何故そこまでわかっていて、王太子殿下に近付いた? お前の言う通り、俺が、三人の令嬢を殺したよ。クショール・クラワッソ侯爵に金を貰ってな!」


 口角があがっていくのがわかる。ありがとう。理想的な告白だったわ。扉の向こうが騒がしくなる。最初に踏み込んでくるのは、誰かしら。


「やめろ! 言うな!」


 乱暴に扉が開いて、侯爵が飛び込んできた。遅かったわね。貴方の名前を、全ての人が聞いたあとだったわ。

 侯爵の後ろには、護衛騎士達の姿。捕縛命令が出たのだろう。侯爵の背中にたくさんの手が伸びる。が、狭い入口なので思うように捕まらず、あっという間に侯爵は私の近くまで来てしまった。前に侯爵、後ろに暗殺者、護衛騎士達の助けは間に合いそうにない。侯爵の手が伸びてきて、私の肩を掴んだ瞬間だった。目が眩むほどの光が発現し、触れた筈の感覚が、消えた。


「フォルテ!!」


 王太子殿下の声が聞こえる。今日の私は、マイラブなのに。ふふっと笑った時だった。


 筋肉もりもりの腕だけが、数えきれないぐらい空中に現れて、侯爵と暗殺者に向かって行く。全てメリケンサックをつけていた。叫ぶのも忘れて息をのんだ二人は、その腕達にぼこぼこに殴られた。申し訳ない魔法を作ってしまったなぁと眺めていると、後ろから目を塞がれる。


「王太子殿下?」

「そんなものを眺めるな。淑女が」

「あら、またお小言?」

「お前を見ていると、小言を言わずにいられないんだ」

「難儀な人だわ~」

「お前のせいだわ。しかし、とにかく無事でよかった。真犯人もわかったしな」

「お手柄でしょう? 褒めて下さってよいのよ~」


「お前、私とあの暗殺者の見分けつかなかっただろ」


 目を細めた王太子殿下が、私の目を覗き込んで来る。バレてた。しかもこの笑顔。確実に怒っている。


「…………違いますよ~。巧妙な手口に騙されたんですぅ~」

「いや、お前が勝手に勘違いしたんだ。私にはわかる」

「ぐうう……」

「いい加減に見分けがつくようにしておけ。未来の夫だぞ?」

「…………は?」

「じきに、私とお前の婚約が発表される。それから一年後に婚姻式だ。はやく私の顔に慣れろ」

「え? え?」


 急展開だ。この人は、何を言いだしたのだろうか。真顔で。


「私とお前は、結ばれる運命にある、そういう事だ」


「いやあああああ!! 殺されるうううう!!」

「人聞きの悪い事を言うなああああ!!」


 私が叫んで、王太子殿下が真っ赤な顔で怒鳴り、さっきまで青い顔をしてこちらを見守っていたレスリーは普段の無表情に戻ってサムズアップしている。フォルテと呼ばれた私を周囲は驚愕の目で見つめ、ボロ雑巾のようになった侯爵と暗殺者は、護衛騎士達に引きずられて消えていく。

 大パニックになってしまったお茶会は、とうとうお開きになったのだった。



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