喰らわすぞ
更新遅くてすみません~
「舐められたものだな。王立学園に偽りの姿で入学、卒業し、王族である私を騙して運命の相手などと迫るのだから。これは、貴様ら一族の総意に相違ないな、ポンティ男爵よ」
王太子殿下は悪そうに笑うと、騎士達に命じて二人を捕らえさせた。『総意に相違ない』って、駄洒落? 急にウケを狙いだしたの? この王太子。ニヤニヤしながら横顔を見ると、考えた事がわかったのか、『違う!』と怒られた。
ピンク女改め焦げ茶女は、ぎゃーぎゃーと耳障りな声で叫んでいたが、拘束していた騎士に頭を殴られ、ぐったりとして静かになった。大丈夫? あれ。死んでない? 日本だったらマスコミが大騒ぎよ? 男爵は、真っ青な顔で硬直してしまい、自分一人では歩けない状態。二人とも、騎士に引きずられて退場した。
「あーあ、引きずられて行っちゃった。罪人って可哀想ね」
「明日は我が身というぞ。お前も気を付けろよ」
「お前もな」
「は!?」
「しまった、つい」
「ついが多い!」
騒ぎなど無かったかのように、お茶会が再開された。あれだけの事件があったのに、皆、優雅に茶を飲んでいる。貴族って凄い。
私達も、新しくお茶をいれなおしてもらい、席についた。手を怪我している私のために、王太子殿下自らケーキを口に運んでくれる。甲斐甲斐しくもできるのよね。感心感心。
しかし、実は手の怪我は、強めの治癒魔法が使えるようになったので試しに自分にかけてみたらうまいこといって完治している。殿下が不機嫌そうに照れながら私の口にフォークを差し出すのが面白すぎるので、黙っているが。
「王太子殿下」
静かに近寄ってきていた中年が、胡散臭い笑顔を向けて声をかけてきた。穏やかな紳士ぶってはいるが、似非だ。多分。服は上等、腹は下等。無害な顔で急に登場。あら。私、ラップの才能あるんじゃない? 自分の可能性に気付き、ニヤリと笑う。
「おい、何を笑ってるんだ」
「殿下には想像もつかないような高尚な事で笑っておりました」
「……どうせくだらん事だろ」
「あら。どうしてバレたのかしら。愛の力?」
「お前は……ッ」
「コホン、よろしいですかな、王太子殿下」
中年紳士は、わざとらしい咳払いをして、再度王太子殿下に声をかけた。殿下は完全に無視している。レスリーに新しいケーキを取ってもらうと、静かに切り分けて、私の口にフォークで運んでくれる。戸惑いつつも、口を開けて咀嚼。繰り返す事、数回。殿下のすぐ近くまで寄ってきて、反応を待ってる中年紳士の拳がふるふると震えている。馬鹿にされているようで悔しいのかしら。貴方に声をかけられるのがよろしくないから返事をしないんじゃなくて? 諦めたらいいのに。
「誰?」
コソコソと聞くと、眉間に深い皺が寄る。嫌いなのね。
「クショール・クラワッソ侯爵だ」
「は? クソ喰らわすぞ侯爵?」
「こらああああ!!」
「もご!」
「お前いい加減にしろよ! 貴族令嬢が! 貴族令嬢がなんという言葉を!」
「むぐむぐむうううう!」
口を大きな手で塞がれて、頭をシェイクされる。やめて。吐きそう。吐き戻しそう。
「殿下!!」
怒鳴り声。それは、横に立っていたクラワスゾ……クラワッソ侯爵が発したものだった。再びアクシデント発生だ。周囲がざわめく。わなわなと怒りに震える中年を、私は冷めた目で見返した。
「貴方。無礼ですわよ?」
「は? なんだ貴様は」
「王太子殿下は、貴方と話す気が無いので、わざと聞こえないふりをしているのです。この国は、身分の低い者が、身分の高い、しかも王族に先に声をかけるのが一般的なマナーなのですか?」
「な……なんだと……」
「お茶会のテーブルに着席している殿下の隣に立って、上から怒鳴るって。頭がおかしいとしか思えないわ。護衛に助けを求めましょうか、殿下?」
「この……ッ、小娘だと思って言わせておけば……!」
腕を振り上げる喰らわすぞ侯爵。いいわね。これで私が殴られれば、不審な輩をまず一人排除できる。この人、危険だわ。見ていると背中がぞくぞくしてくるの。それでも、痛い思いはしたくないので、こっそりと自分の体に魔法でコーティングをする。私に危害を加えようと触れた途端、どこからか現れる筋肉モリモリの腕からのメリケンサックでの殴打百発が対象に打ち入れられる魔法。とりあえず、王太子殿下はいざという時の攻撃対象からはずしておきましょう。この人、すぐ触ってくるから、魔法が発動しそうで怖い。
「侯爵。言わせておけば、何だというのだ?」
今まで聞いたことのない、王太子殿下の地を這うような低い声が響いた。
後半戦に入ってきました~
ほかの話と同時に書いているので、更新が遅くなったりして申し訳ありません。
のんびりお待ちください~
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よかったら~




