真実を白日のもとに晒せ
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「チョハッカイ……とは、何ですかな?」
まさに猪八戒本人が、質問してくるので、噴き出すのを堪えるのが大変だった。
「……いえ、こちらの話です。それで? 貴方はどなたですか?」
「おや、御存知ない? わたくしは、そこのキャレイの父で、男爵位を賜っているイカリー・ポンティと申します」
「あら、こっちがイカレポンチだっ……痛い!」
またもや強引に口を塞がれた。後ろから抱きかかえられるようにされて、両手で。何かいい匂いがするのが、ちょっと悔しい。この王太子、女性が苦手なわりには距離が近くない? 本当はむっつり?
「ポンティ男爵、何の用だ?」
「これは王太子殿下、大変失礼いたしました。いえね、学園では我が娘とファーストネームを呼び合うほど親しくして頂いていたとの事で、感謝の気持ちを伝えにやってきた次第です。それはそうと、本日は、大変お美しいご令嬢をエスコートされているんですな」
豚というよりは、狡猾なタヌキだったみたい。こういう、遠回しな話し方をするおじさん、いたわ。だいたい、セクハラパワハラおじさんなのよね。周りに、いかに醜く見られているか、本人だけが気付かないの。一度、録画したやつを見せてやりたいわね。
「ああ、そうだな。彼女は、私に一番近い女性だ。婚約の話も出ている。それはそうと、ポンティ男爵令嬢には、学園在籍中にファーストネームを呼び合ってしまう魔法をかけられてな。しかも先程は、自分が王太子妃になるのだと宣言までしていた。まあわかっていると思うが、最低でも不敬罪で罰せられるので、覚悟しておくといい。貴様もその話に乗って、わざわざ私に声をかけに来たのだ。重罪を申し付けられるだろうから、首を洗って待っていろ」
芝居がかった台詞に、噴いてしまう。耳元で舌打ちした王太子殿下に、とがめるように尻を叩かれた。セクハラだわ! 全てが終わったら訴えなきゃ。今すぐ文句を言いたいが、生憎、被告により、口を塞がれている。
「な、なんと……! そのような魔法、我が娘が使用するわけが……!」
「使用された形跡がわかりやすく表になっていて、それにポンティ男爵令嬢が関わっているのが一目瞭然なのだが……見るか? それに、私はいま、魔法についてだけ言っているのではない。自分勝手に王太子妃になると宣言をした下級貴族の娘の言動に対して、最低でも不敬罪だと言っているのだ」
「いッ、いえ! しかしですな! 王国の未来を占い師に占ってもらったところ、王太子殿下の伴侶には、ピンク色の髪と瞳の令嬢がなるに相応しいと何年も前に……」
「ああ、あれか、あれは王家が流した嘘の情報だ」
イカレポンチ男爵が、まさに、ガーンといった顔になった。漫画みたいだ。ショック受け過ぎじゃない? 思惑がはずれて、王太子妃殿下の実家という美味しい話が、罰される話になっちゃったんだから、無理もないけれど。
「…………はッ? 何故そのような嘘の情報など…………」
「考えてもみろ。ピンク色の髪と瞳なんて、ふざけた容貌の女がいるか? ただ単に、無理を言って婚約者に納まろうとする女避けだ。婚約者が三人も不審死したのだ、これ以上犠牲者を出すわけにいかないからな。しかし不思議だ。そんな女が本当にいるとはな」
「そ、そう! それこそが、運命の相手という事なのです殿下! どうか、キャレイを! 我がポンティ男爵家を、どうか!」
男爵の心の持ち直し方がすごい。こういう熱心さがあるかどうかで成り上がれるかどうかは決まるよね。無駄なあがきかもしれないけれどもさ。周りを見ると、眉を顰めてる貴族夫人方や、冷たい目で睨みつけている上位貴族達が、どんどん集まってきて、静かに見守っている。明日には、ポンティ男爵という名前すらこの国からは消えているかもしれない。
私の口を塞いでいる手を、上から指で叩いた。眉間に凄い皺を寄せた殿下が見下ろしてきたので、自分にも喋らせろと目で合図をする。すぐに手は離された。ああ、顔が痛い。殿下の手、マメが硬くて肌に引っ掛かるのよね。
「貴方の娘、本当に髪も瞳もピンク色なのかしら?」
男爵の肩がびくりと跳ねた。王太子殿下に下げていた頭を、恐る恐るあげ、今の発言をした私を上目使いで見てくる。
「何を仰っているのかわかりませんが」
「いえね、ピンク色にだいぶ拘っていらっしゃるようなので」
「本当にピンク……とは……」
「だから……まあいいわ。今から、全てを明らかにしますわ」
手をあげる。人差し指を一本立てる。ぐるりと風が私の周りを回り始めると、一番近くにいた王太子殿下が、後退した。
「お、おい……大丈夫なのか?」
安心させるように、ウインクをしてやる。女性慣れしていない殿下は、頬を染めた。本当に可愛らしい事。
アダージョ医師と魔法の訓練をしつつ、新しいものをどんどん生み出した私は、今使うべき魔法を持っている。風はどんどん激しくなり、竜巻のように天井まで届いている。小さな悲鳴も周りから聞こえてきた。そろそろ決めるか。
「サーサーヨッテラッシャイミテラッシャーイ! 我は求め訴えたり! 真実を白日のもとに晒せ! 超聖魔法! ホーリーユーロジー!!」
最初の呪文は、こちらの言葉ではなくて日本語をそのまま使ってみた。日本人の転生者にしかわかるまい。そして、意味不明に違いない。チラと周囲を見渡すと、怪訝な顔をしている人が何人もいる。驚愕ではなくて怪訝。間違いなく、お仲間だ。意味不明な呪文に、メフィなんちゃらが活躍しちゃう漫画に出てくるセリフとか、それなのに聖魔法とか、色々突っ込みたいところがあるだろう。
それはさておき、会場は、私を中心に、スカイブルーの光に覆われていった。全て行き渡ったのを確認して、片方の足を持ち上げ、ダンと強く地面を踏みつける。その次の瞬間。
「うわあ!」
「ぎゃ!」
「ひえええ!」
「きゃああーーーー!」
青く高い空に、ふさふさした何かが勢いよく飛び出していく。ある程度高いところまで行くと、今度は、ひらひらと力なく下りてきた。
「この瞬間、自分を偽っている者は、正体を現しました」
カツラをかぶっている人って、多いのね。申し訳ない事をしちゃった。内心アワアワしているけれど、淑女の仮面を被ったわ。私も、すっかり貴族の色に染まってしまったものね。
「おい、酷い事するな!」
「とばっちり可哀想ね」
「お前だよ! やったのは!」
「でも、見て。彼女、やっぱり偽りの姿だったわ」
「は?」
近くにいた令嬢を指差す。キャレイ・ポンティ男爵令嬢。彼女のピンク色だった髪と瞳は、平民によく見られる焦げ茶色に変化していた。
本当は魔法の名前は別のものにしたかったのですが、検索したら既にそういう名前の魔法があったので断念。残念。
実は、いま、あやかしの話を書いておりまして。読みたいと思っていただけるようでしたら、ツイッターの方でのお知らせをご確認くださいませ~。




