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本人の前って、気合入るわ

物語も終盤です。多分。



「もしかしてさぁ、この子も、アレなんじゃないの? アレ還り」


 ぽそりと口にすると、隣に座っている王太子殿下が、溜息をついた。

「…………私にその話を振るな」

「だって、誰がどうみても不敬なのに、貴方、この態度を許しちゃってるよね? アレ還りだからなんじゃないの?」

「だから私に言うなと言ってる」

 前世還りした事なんて、自分から言うのは禁じられていても、性格が百八十度変わってしまうのだから、周囲からしたらバレバレだ。バレるのは仕方ない。けれど、自分から前世還りを売り込んだりするな、という事らしい。中には、前世還りしていないのに、それを売りにして商売を始めようとする者も出てきて、そういう法律が出来たのだとか。

「だって、そうとしか思えないし」

「王族としては、それについて答えるわけにいかないんだよ。察しろ」

「精神に干渉するわけではない、不思議な原理の魔法を使うのも、アレ還りの特徴だって、アダージョ医師に教わったわ」


 最近、私はアダージョ医師に、治癒魔法を習っている。少し怪我が多すぎると家族に心配されたので、いつでも自分で治せるようにする為だ。元々、治癒の魔法が使える要素はあったようで、習得はサクサク進んだ。誰もが治癒魔法を使えるわけではない。医師ではない周囲の人間では、私と、殿下とクレシェンドぐらい。希少なような、それほどでもないような、微妙な魔法要素だ。

 治癒魔法を習いながら、アダージョ医師に、魔法についての基礎知識なども習った。なんでも、想像力が物を言うらしい。前世で読んだ覚えのある異世界の物語でも、多くの主人公が、想像力を働かせて凄い魔法を使用していた。そういう事ならお任せあれと、私も日夜、新しい魔法を研究している。


「お前……いい加減に黙らないと、強制的に黙らせるぞ」

「あら、どうやって? なぁに? 魔法でも使う? それとも物理的に塞ぐ? 何で? どうやって? あら、お顔が少し赤いみたいよ。今どんな想像した?」

「…………くッ……なんだこのくどい攻撃は……ッ」

「女慣れしてないものねぇ。やっぱり、閨教育とかも拒否したの? 貴方、まだ童て……」

「はしたない!」

 大きな手で口を塞がれた。ごつごつした指に鼻があたって、地味に痛かった。ツーンとした痛みに、涙が滲んでくる。そんな私の顔を見て、王太子殿下は、あわあわと狼狽えた。


「どうしてキャレイを無視するのぉ!? いちゃいちゃこそこそ見せつけてくるのやめてよぉ! レオンったら酷ぉい! 許さないんだからぁ!」


 ザワリ、と空気が揺れた。ゆるやかに奏でられていた音楽が止み、あちらこちらから遠慮のない視線が飛んでくる。本当に、アホな令嬢だ。私の読み通り前世還りならば、還ってから令嬢教育をまともに受けていない、元々の前世が空気の読めない愚かな女だったのだろう。私はくすりと笑って、声をかけた。


「どちら様かしら? 王太子殿下のファーストネームを呼び捨てされるなんて、よほど親しい間柄なのでしょうね?」

「おい……?」

「そうよ! お互いファーストネームで呼び合うくらい仲良しなんだから! いずれは、私は王太子妃になるの。頭が高いわ!」

 場が騒然とした。彼女が男爵令嬢なのは、この国の貴族ならば誰もが知っている。身の程をわきまえない令嬢として、ある意味有名だからだ。その男爵令嬢が、勝手に、王太子妃になると貴族がこんなに集まっている場で宣言した。偽りであれば、大罪である。


「ファーストネームで呼び合うと、王太子殿下と結婚出来るの? 本当に? それだけで? やだ、じゃあ私も殿下にファーストネームで呼んでもらわなくちゃ。ね、殿下」

「…………は?」

「ね! 殿下!」

「…………クソッ…………そうだな! マイラブ!!」

「嬉しいわ、レオン~」

 悔しそうな王太子殿下の首に抱きつき、頬を擦り合わせる。力ない声でやめろと呟く殿下は、本当に女性が苦手なのだろう。どこからか噴き出す声が聞こえた。おそらく、笑い上戸のアダージョ医師だ。


「ちょ、待ってよ! キャレイだって、レオンとファーストネームで呼び合って……」

「ポンティ男爵令嬢。いい加減にしないか。私は、貴様と懇意にしていた事は過去一度もないぞ」

「え……」

「卒業の日に忠告された筈だ。今後は、不敬罪で囚われるとな」

「え、あれ、待って、魔法は……」

 呆然と立ち尽くすピンク女に、殿下に抱きつきながら微笑んでみせる。


「あッ、ごめんなさぁい。マイラブったらぁ、レオンに何かぁ、変な魔法がかかっていたからぁ、パパっと解除しちゃいましたぁ」


 渾身のモノマネである。本人を目の前にして。ドヤ顔で殿下を仰ぎ見ると、真顔になっていた。

「だから似てないから」

「ひっどぉい。マイラブだって怒るんだからぁ」

「ちょっと! それキャレイのモノマネ!? やめてもらっていいですか!」

 ピンク女が、わりとまともな喋り方をしている。やはり、キャラを作っていたようだ。かけた魔法を解除されたと言われ、焦り出したらしい。王族にわけのわからない魔法をかけたのだ。不敬罪どころの騒ぎではない。


 騒然としている中、ゆっくりとした足音が近付いてくる。人垣が真っ二つに割れ、その間から、豚のような容姿のおじさんが現れた。


「…………猪八戒……」


 思わず口から出てしまった言葉が、妙に会場に響き、あちこちで噴き出す声がした。前世還りは、わりとたくさんいるらしい。




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