思い出したのか乗っ取ったのか
のんびり更新していきます。
貴族らしい人は出てきません。異世界だから、その世界の『貴族』と呼ばれている生き物の話です。
現実世界と同じではありません。どうぞ気楽に読んでください。
ふっと意識が浮上したと思ったら、目の前に紺色の髪の青年が立っていた。
「は? 誰?」
「何?」
「あれ? 私、今まで何してたんだっけ? うわ! 重ッ! 苦しッ! なんだこれ、ドレス?」
何キロあるんだよと聞きたくなるような、キラキラしたドレス。ほとんど爪先立ちしてるんじゃないかという、信じられない高さのハイヒール。腹というか腰というか、体の真ん中あたりがぎゅうぎゅうに締め付けられて、胃が痛む。なにこの拷問。私何かした? と思い、周囲を見渡すと、唖然とした表情のキラキラした人達が、私達を囲んでいた。
目の前の青年は、眉間に深い皺を寄せている。めっちゃ怒ってんじゃんと思うと、急に笑いたくなった。昔からこうなんだよね。真剣にお説教とかしてくる人が滑稽に見えて、つい笑っちゃう。友人達からは、クソだな、ってよく言われてたっけ。
「おい? 急にどうした?」
「……ぶっは!」
急にどうしたはこっちの台詞だよぉ、と頭の中で頭の悪そうな女の声が再生される。さっき口から出ていた声とは違う。そうそう、よくわざとこういう声を出して、皆で笑い合っていたっけな。と、そこで気付いた。さっき自分の口から出た声は、自分のものではない事に。
自分。皆。あれ? 私、誰? 皆って、どんな顔をしていたっけ? 自分の顔さえも思い出せない。これは、記憶喪失というものでは?
「何故笑う!」
「そ、そうですよぉ……レオンの事、馬鹿にしてるんですかぁ?」
「…………ん?」
脳内を駆け巡っていた声が、青年の後ろから聞こえてくる。よく見ると、頭のてっぺんから爪先までがピンク色の女が後ろから顔を出していた。こういう芸人いたな、と思った瞬間に盛大に噴いた。ちょっと噎せちゃって、苦しくなって蹲る。戸惑っている青年も、同じようにピンクのコーディネートで固めたら、いい夫婦になるんじゃないかと、余計な事を再び思ってしまい、更に噎せた。もう苦しくて仕方ない。私はそのまま、意識を飛ばした。
「あ、目が覚めましたか?」
気が付くと、ベッドの上だった。ふわりとしたベッド。いい匂いのする部屋。いや、いい匂いは、目の前の青年から漂っているのだろうか。
「さっきの人?」
「え?」
若い子の顔はあまり区別がつかない。こちらは穏やかそうに見えるので、先ほどの眉間に皺男とは別の人なのだろう。そういえば、髪の色が、白かった。
ドレスは脱がせてもらえたのか、さほど苦しさは覚えなかった。視線だけで部屋をぐるりと見渡す。今は、高級ホテルのスウィートルームの、お姫様でも眠るんじゃないかという天蓋つきベッドに寝かされている。やはり、自分の口から出るのは、綺麗で透き通った声。決して『私』のだみ声ではない。目の前の青年は、医師だろうか。よく見ると、その後ろに、紺色の髪の青年も立っていた。ピンクはいない。やばい、また笑いそうになってしまった。
「お前は、私の目の前で、わざと倒れたのだ。私の気を引くためにな。周囲に迷惑をかけて……謝る事もできないのか?」
何やら、わけのわからない事を言っている。そんな器用に気絶ができるか。貴族令嬢でもあるまいし。
いや、さっき周りにいた紳士淑女。それこそ、貴族のようではなかったか? 白いのと紺色の顔を見る。どうみても、日本人ではない。さらに、自分の名前が思い出せないという事実。生きてきた記憶はある。だが、その詳細が、思い出せない。霞がかかったように、思い出そうとしても、それを許さない何かがある。
転生? あの、流行りの? いやいや、まさか。そりゃあ、読みまくりましたよ? 『悪役令嬢』とか『婚約破棄』とか『ざまぁ』とかで検索かけて、ありとあらゆる小説を読んでた中に、何百という転生物がありましたよ? まさか、それ? それなの? というと、あっちにいるのは、私を断罪する王子とかなの?
そうなると、先ほどのシーンは、断罪シーンの真っ只中だったのではないだろうか。後ろのピンクの女が、ヒロイン枠か。断罪しようとしていたのか、断罪された後なのか。つまり私は、悪役令嬢枠。そうでないと、あの紺色の人の不機嫌顔が説明できない。婚約者に疎まれた私。まさか処刑じゃないよね。倒れた後に、こうして介抱してもらえてるんだから。
「大丈夫ですか? フォルテ嬢? まだどこか、具合が悪い……」
白い人が気遣わしげに声をかけてくれる。親切。紳士って、こうあるべきよね。向こうのプンプン男に、爪の垢を煎じて飲ませてあげればいいと思う。
「フォルテって、私の名前ですか?」
「は?」
「……つかぬ事をお伺いしますが、私って、誰なんでしょう?」
愛想笑いをしながらそう口にすると、白い人は、目を最大に見開き、紺色の人は、鬼のような顔をしてベッドに駆け寄ってきた。
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