表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/15

9.草刈り? いやいやれっきとした治療方法です!(園芸療法)

 以前の章で、散歩(運動療法)の話をしたときがあったが、ときどきこういった電話がスタッフ宛にかかってくる。


『今日、草刈りやるんで出られる人お願いします』というようなやつだ。


 もちろん、これの参加も自分で決められるのだけど、病院内の除草?ということに疑問を持たれる方もいるかもしれない。


 しかし、これは「園芸療法」といって、れっきとした治療・リハビリ手法なのだ。

 いろいろな検索エンジンでこの単語を入力してみていただくと、実施している病院の多さに驚くのではないだろうか。


 この「作業療法」「園芸療法」の手法をほぼ今のスタイルで確立させたのが、都内にある「松沢病院」という精神科で知らない者はいないというほどの有名な病院である。


 このスタイルが確立されたのが明治34年というのだから、ただ事じゃない。


 それまでの精神科というものは、患者を病室に隔離し、時には拘束具などを用いていわゆる外部との遮断というものが中心であった(現在も、急性期で自傷行為の危険性が高い患者に対しては緊急策として行われることもある)。


 「精神病患者を表に出すなんてもってのほか!」という時代に、「施設を安全に整えて、きちんと指導者の下で作業をさせる」ということを実践したのがこの松沢病院。


 うつ病、パニック症状などの精神科の患者は、その症状が出なければ一般人と同じである。ただ、スイッチが入ってしまったときにきちんと対処ができればよい。(そのための服薬であったり、必ず指導者(看護師など)をつけるという条件は付く)


 スイッチが入っていないときに、病室でなにもしていないと、逆に「自分の存在価値」というものを考え込んでしまうことも多い。

 こういう患者に、「草むしりをしよう!」という「仕事」を与えるとどうなるか。


 人間ももちろん自然の生き物である。手で草を抜くという作業。これが思いのほかストレス発散に効果的なのだ。(疑うならやってみてほしい。ただし、必ず時間を決めることが大切)


 無心で草むしりをしながらの共同作業。時間が来て終了すれば、「きれいになる」「一緒の作業者といつの間にか会話もできてくる」「きれいになったと感謝される」→「自分の存在価値が認められる」というものにつながってくる。

 これが発展してくると、草むしりだけでなく農作業に進展してくる。土を耕し、作物を植え、それを収穫してみんなで食す。荒れ地を整備して花畑を作るでもいい。池を掘ってその土で山を作り庭を整備するのもよし。


 外の世界では「病人」とレッテルを貼られていた人が、病院のコミュニティの中では立派な「労働者」になれる。この経験というものが非常に大切で、「自分は誰かの役に立てる」という自信が精神病の寛解には一番の特効薬になるのだから。



 さて、先も話したように、私の通った病院の院長は、この松沢病院の関係者とも代々つながっており、この手法をほぼオリジナルの形で取り入れている。

 そのため、病院の敷地内に畑もあり、私が社会復帰するころには苗も植えられていた。



 特にリワークに参加しているメンバーは、以前も紹介したとおり、もともとは何らかのプロフェッショナルだ。プロという人たちは、課題を与えられるとそれをいかに効率よく、よりよい完成度で仕上げるかというものを自然に考える癖がついている。


 手だけでは効率が悪い、鎌はないか? 根っこが深いから鍬はないか? もはや草むしりではなく開墾しているような気分だ。(私も太い根っこを掘り起こそうとしていた時に、鍬の柄を折ってしまったほどみんな熱中する)


 時間が来て片付けるころになると、みんな作業が早いから明らかに成果が目に見えるし、そこに達成感とメンバー間での気持ちの共有、笑いなどが自然に表れる。「次はあそこをやっつけるか」などという会話も自然に出てくる。


 たかが草むしり、されど草むしり。


 仕事というものにはいろいろな種類がある。その一番基礎というのが自然と一体化できる農作業だと思う。


 リワークの説明の時に「草むしりもありますよ?」と言われ、まさかこんな即効性の結果が出るのかと驚いたのは、やってみて初めて分かったことだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ