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「3時になったら」

「3時になったらね」


幼い頃、母親はよくそう言った。


3時になったら、おやつにするわね。


3時になったら、お出かけしよう。


3時になったら、○○ちゃんが遊びにくるから。




たいていは、楽しいことばかり。


そうか、3時になったら良いことが起きるんだな。

私はわくわくしながら3時を待つ子供になった。



でも、小学校の3時も中学校の3時も、そんなに楽しいことは起きなかった。

私はじっと3時を待つ。

今日も何も起こらなかった。





これが終わったら、お昼だ。

教室の壁掛け時計を見ていたら、前の席に座っているあいつの背中が目に入った。

幼い頃からの腐れ縁で、うちの親はでかい図体のあいつを、いまだに○○ちゃん、と呼んでいる。

異性だし、中学であちらに彼女ができたあたりからなんとなく距離をおいていたが、同じ高校に進学してからまた話すようになった。




昨日、誰かに告白されているのを見た。


断っていたけど、相変わらずモテるんだな。

皆、子供の頃の、あいつのやんちゃぶりを知らないくせに。


胸の中がもやもやする。

昔一番仲が良かったのは、私なんだから。




呼ばれた気がして顔を上げると、あいつがこちらを見ている。


金貸して、と。パンを買うお金を忘れたらしい。

いくらか渡してやると、サンキュー、と言いながら弁当箱を覗きこむ。


お前の弁当うまそうだよな、お母さんによく手作りのおやつ貰ったよなあ、と、おかずを一つつまんで、口に放り込んで出ていった。

あー。と思ったが、仕方ない。

そして、周りの女子がなにやらひそひそ話している。



外野はうるさいなあ。


だから喋れなくなったんじゃないか。

私は、ずっとあいつと一緒にいたかったのに。




時計を見上げる。


あいつが購買から帰ってきて席に座る。

どうやら無事にパンは買えたらしい。



今日は金曜だから、金返すのは週明けでいい?

その言葉に、ちょっと考えてから、だめ、と答えた。

え?と驚く顔に向かって、ちょっと意地悪く、ちょっと照れながら言ってみた。


「明日の3時、映画館で待ち合わせね」

自分でも緊張しているのがわかるけど、平静を装い、お金はその時でいいよ、と言った。


少し間をおいて、目の前の困惑したような気恥ずかしいような顔が頷いた。










エブリスタお題「3時」に合わせて書いたものです。

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