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「デザート」

ホラーです。

かちゃり、とナイフの音が響く。


 目の前には、マナー本の見本のような仕草でディナーを食べる彼女がいる。

 僕は、すでに食べやすいよう切られた肉を口に運んだが、思うように噛み切れない。


「なかなか食べごたえがあるでしょう」

 彼女が、四苦八苦している僕の様子を可笑しそうに見て言った。僕はちょっと面白くなかったが、彼女がその滑らかな手つきで、難なく固い肉を切り分ける様子には感嘆する。

 ふふふ、と笑いながら、彼女は無駄のない動作で食べ物を口に運んだ。


 その上品で小ぶりな口に綺麗に収まっている歯はまるで陶器のようだが、どんな料理でも難なく刻み、閉じた口元からかすかに聞こえる咀嚼音すらリズミカルで、口の中にあるのが、ひょっとしたら肉ではなくて野菜か果物じゃないかとすら疑ってしまう。


「早く食べたら?一緒に食事が出来るのを、私はずっと楽しみにしてたのに」

 優しく笑いながら、彼女は食べやすく料理を刻み、手ずから僕の口に運んでくれた。

 ゆっくりと口を動かしながら、美味しい、という意志を、頷いて示す。


「良かった」


 彼女の満足そうな笑みを見て、僕も安心する。彼女がせっかく用意してくれたディナーだから、まずいわけはない。


「ディナーのあとには、デザートね」


 うん、と僕は口を閉じたまま、また首を縦に振る。そう。彼女はこのデザートを、一番楽しみにしている。このテーブル一杯に並べられた豪華なディナーより、大きくてシンプルなデザートを。



「楽しみだわ」


 彼女は優雅に食事を続ける。僕はそれをうっとり眺めながら、固い肉を食べる。きちんと、栄養を体に行き渡らせないと。食べたものは、体を作るのだから。


 そして、僕もすぐに彼女の体の一部になるのだから。


「もう少ししたら、デザートを食べられるかしら」

 にこり、と、彼女は笑いながらナイフでさくさくと固い肉を切る。


「きっと美味しいでしょうね」

 彼女は、ナイフを手にしたまま上品に笑った。







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