第07話 初ダンジョン
フィ、リア、クリンはダンジョンの入り口に立っていた。
全員、完全武装である。
ただし、鎧に魔術付与はしていなかった。
今回は『試しに入ってみる』程度の探索で、それほど深く潜るつもりもない。
それでも1週間はダンジョン内に居る予定だった。
フィを先頭にダンジョンに入っていく。
入り口付近は兵士が警備をしており、まだまだ安全な場所である。
入り口から奥へ入ると、1本道になっていた。
入り口もそうだったが、その通路も大きかった。
高さは5メートルはありそうだった。
その通路の途中に、通路を遮るように結界が張ってあった。
その脇に兵士達がいる。
「魔術学校の生徒達だな?
気を付けて行って来いよ。」
と兵士。
フィが頷くと、結界を解いてくれた。
3人が通ると、再び結界が張られる。
つまり、ここから先が本当のダンジョンと言う事だ。
3人でそれぞれ地図を描きながら、進んでいく。
誰か1人で描けばよいのだが、まずは全員で描いて経験しておく必要があると、健介が言っておいたのだ。
はぐれた時に困る。
地下1階では魔物にも出会わなかったが、とにかく広いことが判った。
小さな町くらいはすっぽり入ってしまうのではないかと思うくらい広い。
地図を描く為に歩いているだけで結構疲れる。
こんな広い所を83階も降りたなら、魔物に出会わなくてもそれなりに賞賛してしまう。
まずは、この階で1泊する事にした。
地下2階へ降りて、直に魔物に遭遇した。
「何でこんなのがここに居るの?」
と健介が苦笑する。
「これもダンジョンの不思議かしら。」
とフィ。
「ああん、無駄話してないで、まじめに戦ってください〜」
とクリン。
クリンが魔物の突進を避けながら泣き言を言っている。
遭遇した魔物は巨大な猪に似たものだった。
魔術学校で一応習ってはいたが、この様な魔物が一体どっから迷い込んでくるのか謎であるらしい。
討伐してもしばらくするとまた魔物が現れる。
現れる魔物はいつも同じとは限らない。
「しょうがないわね。」
健介が突進してきた魔物を避け、その瞬間にざっくりと切りつけた。
強化した剣は易々と足の付け根の筋肉を切り裂いた為、その足が上手く動かなくなって魔物は動きを止めた。
そこにフィが魔物のわき腹に剣を深々と突き刺した。
そして、魔力を剣に流し込む。
魔物は電撃によってビクビクと痙攣して煙を上げた。
フィが剣を引き抜くと、魔物は横に倒れて息絶えていた。
「ふう、ダンジョンってのは面白い所ね。」
とフィ。
「同感。」
と健介。
2人は顔を見合わせてにっこり笑う。
良い度胸である。
3人は戦績となる魔物の殲滅証明部位を切り取って袋に詰めた。
資料によると、やはり大した魔物ではなかった。
ダンジョンの上層階では大した魔物は現れない事は判っていた。
中級以上の魔物は調べていたが、小物は調べてなかった。
「クリン、小物に怖気づいてちゃ駄目じゃない。」
と健介。
「だ、だって、初めてだったんだもん。」
とクリンは涙目で見てくる。
(く、ここは負けてはいけない。)
「クリン、怖気ついてたら、勝てる相手にも勝てないわよ。
一応、ちゃんと動けてたんだから、次はちゃんと頑張るのよ?」
と健介。
「は、は〜い。」
地下2階での魔物の遭遇はそれだけで、地図を作るのに精を出した。
途中、湧き水を見つけて地図に書き加える。
水袋に水を補給して、地下3階へと降りた。
・・・
地下10階まで3日を要したが、何の問題も無かった。
途中、遭遇した魔物は3人にとっては大した敵ではなく、大して疲労も怪我も無い。
時間が掛かっているのは地図を作成しているからだ。
地図を作成している為、帰り道は直に判るし休憩場所に良いところも判る。
ある意味、命綱である。
さらに、地図を作成している最中に彼方此方見て回ったところ、魔物が溜め込んだのか、金目のものが埋めて有ったのを見つけた。
他にも水晶の鉱脈があり、小金を稼ぐのに役立ちそうだった。
ダンジョンの壁が一部壊れて、天然の水晶鉱脈が突き出ていた。
不思議な光景である。
「さて、3日が経ったわけだけど11階まで制覇したら戻ろうか?」
と健介。
「そうね、予定の1週間をオーバーすると面倒だし、そうしましょう。」
とフィ。
「はーい、判りました。」
とクリン。
クリンはダンジョン生活に慣れ始めてようやく調子が出てきた所だった。
地下11階はこれまでの階とは若干雰囲気が違った。
何が違うかと言うと、空気が重い感じである。
「これは、やばそうなのが居るわね。」
と健介が注意を促す。
何時でも抜けるように剣に手を置いた。
「ええ、何だがピリピリする。」
とフィも剣に手をかけている。
「・・・」
クリンは黙って剣を構えている。
通路をゆっくりと進み、気配を探る。
次第にその気配の主に近付いていく。
通路を2つほど曲がった所に、そいつは居た。
「あれは・・・ハルカント」
健介は小声で言う。
「ハルカント?!」
とフィも小声で驚く。
「!?」
クリンは声なき叫びを上げる。
ハルカントは魔物の中でも大物で厄介な相手で有名だ。
見た目は4本腕の巨人である。
身長は3メートル以上。
4本の豪腕と、それを支えるゴツイ身体。
知性も高く、魔術を使う。
強さをドラゴンが10とすると、ハルカントは8くらい。
今まで戦ってきた魔物は一番強いので5くらいだ。
はっきり言って格が違う。
今の3人で戦っても恐らく負ける。
「戻りましょう。」
と健介は囁きながら、閃光と防壁の木の札を用意しておく。
見つかったら使うつもりだ。
3人は気配を消しながらジリジリと後退し、10階まで戻った。
「ふう、やばいのが居たわね。」
とフィ。
「怖かったー」
とクリン。
「でも、あれを何とかしないと、11階は制覇できないわ。」
と健介。
一本道にある大部屋にいるのだ。
しばらく沈黙して。
「今回はダンジョンを出ましょう。
次までに対策を練って、出直しね。
次ぎ来るまでに誰かに倒されているかもしれないけど。」
と健介。
こんな場所で悩んでも危険が増すだけだ。
3人は帰りに水晶の鉱脈に寄り、剣で掘り出して袋に詰めて持ち帰った。
学校に戻ったのは6日目、1日早く戻ってきた。
持ち帰った戦利品を金に換えて、山分けする。
「今回の探索に使った金と差し引きしても、十分な利益が出たわね。」
とフィ。
「ええ、良い小遣い稼ぎにはなったけど、ほぼ1週間分の授業の遅れがあるからね。」
と健介。
「フィとリアは問題ないでしょう。
私はちょっと辛いな。」
とクリン。
「クリンだって、今回の探索で腕を上げたじゃない。
自信持ちなさい。」
と健介。
一番の収穫は、ダンジョン探索で魔物との戦闘経験を得たことだ。
次の探索までに色々と対策を練る事ができる。
次のダンジョン探査は3年の前期後の長期休暇中にやる事に決めた。
ハルカントとまともに遣り合える位で無いと、あの先は辛そうだと判断したのだ。
その修行の為に必要な期間である。
鎧の強化の為に魔術付加をする時間も要る。
やはり、ダンジョンの深部へ行くにはまだ修行と準備不足であった。
「この学校の最深記録は31階ですから、先は長いです。」
とクリン。
「あれ? 83階ってのは?」
と健介。
「それは軍の探索隊の記録よ。」
とフィ。
「なるほど。
じゃあ、最低限、学校の記録だけでも更新しましょう。」
と健介。