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転生の旅  作者: mattsu
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第04話 魔術学校入学


 フィ(シーリア)とリア(健介)はヤーリク領軍属魔術学校の門前に来ていた。


「とうとう来たわね。」


 とフィは緊張しているようだ。


「そう緊張しなくても大丈夫よ。」


 とリアはフィの肩に手を置く。

フィは笑顔を見せた。


 シーリアの父親を説得しフィレイの両親の承諾を得たあと、シーリアの父親が魔術学校への入学手続きをした。

無論、2人の入学金などはシーリアの父が払ってくれている。

入学時期が募集時期と約2ヶ月遅れていたが、そこはシーリアの父親の権力がものを言った。

あれから12日が経っていた。


 魔術学校の入学資格は基本的に年齢だけである。

10歳から20歳まで。

たまに例外もあるが、あとは金だけの問題である。

魔術学校は一般の学校よりも金が掛かる。

と言っても、国の補助金で運営されているので、2倍までは行かないがそれでも高い。

そもそも一般の学校も高いのだから、魔術学校に入学できるのは貴族の子供が大多数になる。


 2人は学校から出てきた校長に迎えられた。


「ようこそ我が魔術学校へ。

 シーリアとフィレイだね?」


 と校長。


「はい、フィレイです。」


「シーリアです。」


 2人で挨拶する。

校長は軍服を着た中年男性で、筋肉質の体格が服の上からでもわかる。

目つきは鋭いが、言動は柔らかい。


 校長に案内されて、校内へと入る。

魔術学校は全て全寮制だ。

夏休みの様な長期の休み以外は、原則出る事は出来ない。

校長に案内されながら、校内を一通り見て回る。

中途入学だからと気を利かせてくれた。

そして、宿舎内を案内されて2人の部屋に荷物を置いて、クラスへと向かった。


 2人の入った時期の1学年は2人含めて57名。

約20人のクラスが3つとなる。

その中のサファイアクラスが2人のクラスとなった。

ちなみに、他のクラスはエメラルドとルビーである。

2年になると、特に優秀な生徒を集めたダイアモンドクラスが出来る。

逆に、平凡以下の生徒を集めたクリスタルクラスも出来て、5クラス編成となる。


 2人は軽く挨拶をして、早速授業に参加した。

授業内容はどうやら読書きであったようで、2人は出された課題をスラスラとこなしていった。

シーリアは伯爵令嬢である為、読書きくらいは出来るのだ。

読書きの授業があるのは、平民の為である。


 魔術学校で行う授業は魔術中心ではあるが、読書きを始めとする一般教養教育も行う。

これは魔術学校の生徒が貴族と平民の双方が含まれていることに起因している。

実力のある魔術師は通常、軍に配属されるが、貴族に仕えたりする事もある。

その為、一般教養教育も必要となる。

 その他には、当然軍務に関する教育がある。

格闘術や剣術、隊列の組み方や指揮の仕方などである。


 休み時間になると、クラスの皆がワイワイと騒ぎ出す。

当然、新しく来た2人が注目を浴びる訳だが、浴び方が違う。

片方は平民で、片方は伯爵令嬢である。

平民の生徒は他にもいるが、伯爵令嬢が側に居るので話しかけにくいらしい。

しかし、他の貴族の子供達はリアの方へとやって来た。


「こんにちわ。私はクリンよ。

 そっちの平民とはお知り合い?」


 とクリンと名乗った女の子は、リアの隣に座っているフィを指差す。


「ええ、彼女は私の親友よ。

 彼女を侮辱したら私が許さないわよ?」


 と健介が警告する。

健介が少し険がこもった言い方をしたので、クリンはちょっと引き気味に目を見張る。


「そ、そう。

 別に侮辱するつもりは無いのよ。」


 とクリン。


「でも、あなたは彼女を平民と言ったわ。

 それはあなたが自分が貴族であることを誇示して相手を貶めようとしていると言う事でしょ?

 それとも、そんな事にも気付かなかった?」


 と健介。

ちょっと苛めすぎかと思ったが、最初が肝心である。

ここは貴族の子供が多い場所。

フィを守る為には、本来の貴族の振る舞いを教えてやらねばならない。

そう、健介にはシーリアの知識があるから、貴族の振る舞いは知っていた。


「え、そ、そんなこと・・・」


 クリンは絶句して戸惑った。

周りの貴族の子達も顔を見合わせている。

そこへ。


「おいお前、何平民の味方してんだ?」


 と男子生徒が割って入ってきた。


「あなたお名前は?」


 健介は表情一つ変えずに訊く。

隣のフィもさすが伯爵令嬢、動揺はしていない。


「な、お、オルンだ。」


 オルンは一応貴族としての礼儀を知っているようだ。


「ねえ、オルン。

 貴族は誰の味方でも無いのよ。

 あなたも勉強不足ね。」


 と健介は平坦な声で言う。


「お前失礼だろ?!」


 オルンは顔を真っ赤にして怒っている。

安いプライドが傷ついたようだ。


「私は注意しただけよ?

 何が失礼なのか教えてもらえないかしら?

 そんなに怒るようなことなの?」


 と健介。

オルンと真正面から見詰め合っている。

無論、甘い雰囲気など微塵も無い。


「お前、調子に乗るなよ。」


 オルンは拳をプルプル震わせている。

甘やかされて育った者特有の切れやすさだ。


(元の世界にも居たな)


 などと思いつつ。


「調子に乗っているのは私?

 あなたはどうなの?

 何の権利があって、私に調子に乗るななどと言えるのかしら?

 あなたはここの先生なの?」


 と健介。

オルンは怒りを抑えるような仕草をしているが、健介にはわざとらしい仕草にしか見えない。


「女だからと言って頭に乗るなといってるんだ。」


 とオルン。

まるで話になっていない。


「あら、また勘違いしているわよ。

 この学校では男女の差は無いのよ。

 知らないの?」


 と健介。

そう、この学校は一応軍属である。

軍では建前ではあっても、実力でのみ評価される。

男女の区別はトイレと風呂くらいしかない。


「そうか、なら覚悟は出来てるんだろうな?」


 オルンが近寄ってくる。

健介はため息をついて立ち上がる。


「リア?」


 フィが心配そうに見てくる。


「大丈夫、ちょっと頭を冷やしてあげないとね。

 廊下に出なさい。

 その人を見下した精神を叩きなおしてあげるわ。」


 フィに返事をした後、オルンへと言う。


 2人は廊下に出た。


「良い度胸だ。

 謝るなら今のうちだぜ?」


 とオルン。

そう言っているうちにも、周りに生徒が集まってきた。


「言い訳は聞き飽きたわ。

 逃げたいならそう言いなさい。」


 と健介。


 オルンの方は周りを気にしている。

他の生徒達が見ている中で、女を殴るのに躊躇しているのだろう。

そんな覚悟も無いのに女に喧嘩を売る愚か者である。

だが、オルンは女を殴れない腰抜けより、女を殴る下衆を選んだようである。

オルンが拳を握って殴りかかってきた。


 健介はその拳が届く前に、1歩踏み込んでオルンの腹をカウンターで蹴り上げた。

一瞬スカートが捲れて下着が見えたが問題は無い。

今は戦闘中である。


 オルンは後ろに倒れて、腹を抱えて悶絶している。

もう戦う気力は無いだろう。


「恥知らず、良く聞きなさい。

 己が貴族だというだけで平民を苛め、男だから女を苛める。

 それのどこが貴族なの?

 それはただの恥知らずの下衆と言うのよ。

 覚えて置きなさい。」


 倒れているオルンに向かって大きな声で言う。

リアの声は良く通るので、周りで見ている生徒全員に聞こえているだろう。


 健介はオルンを置いて教室に戻った。

途中でフィが合流する。

フィも見ていたようだ。


「あなた強いのね?」


 フィが感心したように言う。


「大した事は無いわ。

 オルンが弱すぎるのよ。」


 と健介。

謙遜ではない。

オルンはただの素人の男の子。

少女の身体で体格差は有っても、健介が勝てて当たり前だった。


 健介は高校の頃、1年だけだが空手をやっていた。

たった1年だがかなり本気で取り組んでいた。

学校の体力測定が、前日の空手の修行のせいでボロボロの全滅状態だったほど。

まるで女子の測定結果のようだった。

そんなになるまでやった1年の成果は、黒帯の実力はあったはずである。

黒帯、初段の試験を受ける前に止めてしまったが。


 シーリアの身体も、少女とは言え色々な稽古をしていた為、運動性能も良く意外と力があった。


「でも、リア。

 下着が見えていたわ。

 もう少し考えてね。」


 フィは少しお冠のようである。

まあ、自分の身体で暴れられて、恥ずかしい姿を見せられては文句も言いたくなるのだろう。


「ははは、まあ、戦闘中は下着くらい見られても・・・

 判りました。

 以後気をつけます。」


 笑って戦闘中は仕方ないと誤魔化そうとしたが、フィに睨まれて言い直した。



 この事件以後、少なくともサファイアクラスで平民が苛められることは無くなった。

この事件でシーリアの知名度が格段に上がったのは言うまでも無い。

オルンはと言うと、健介リアの子分に成り下がっている。

健介としてはフィにも言われて断っているのだが、オルンはリアの騎士気取りである。


「参ったわね。」


「全くよね。」


 オルンを巻いて木陰に隠れながら2人で話す。

そして笑った。


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